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NTTドコモの窮地を救ったTJ・ペレナラとマカゾレ・マピンピの洞察力とラグビーIQの高さ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マピンピ選手(11番)らと勝利を喜ぶペレナラ選手(右・筆者撮影)

【接戦を制したNTTドコモが今季4勝目】

 「フラストレーションが溜まる試合内容でした。ディシジョン・メーキングや地域ごとの戦い方が全然よくなかったです。

 ペナルティも正確な数は分かりませんが、多分18個くらいあったかと思います。こんなことをしていたら勝つのはなかなか難しいです」

 これは試合の感想を聞かれたあるヘッドコーチ(HC)の発言だ。この内容を聞いた人なら、彼のチームは敗れたのだと勘違いしてしまうかもしれない。

 だがこの発言をしたのはNTTドコモのヨハン・アッカーマンHCであり、チームは日野相手に終盤までもつれる接戦を制し、26対25で勝利している。

 この結果チームは第5節を終え4勝1敗とし、ホワイトカンファレンスでパナソニック、神戸製鋼に次ぐ3位につける健闘を続けている。

【自分たちのラグビーができない中での逆転勝利】

 確かにアッカーマンHCが真っ先に反省の弁を口にする通り、薄氷を踏むような勝利だった。

 今シーズン2度目の出場となったマカゾレ・マピンピ選手が前半2分に先制トライを挙げて幸先のいいスタートを切ったものの、その後は明らかに日野ペースで試合が進んでいった。前半11分、18分と連続トライを許し逆転されると、一時は7対15と8点差のリードをつけられてしまった。

 前半32分のTJ・ペレナラ選手のトライで反撃モードに入るかと思いきや、後半中盤まで相手陣地深くまで攻め入りながら自分たちのミスで得点機を逃し続け、なかなかリズムを掴むことができなかった。

前半32分にトライを奪うペレナラ選手(筆者撮影)
前半32分にトライを奪うペレナラ選手(筆者撮影)

 それでも後半21分に茂野洸気選手のトライなどで再逆転に成功したのだが、直後の同25分にトライされ再々逆転を許してしまうなど、アッカーマンHCの言葉通り、フラストレーションが溜まる展開が続いた。

 そうして最後まで自分たちのラグビーができない中で、後半33分にフランコ・マレー選手が値千金のトライを奪い、辛くも日野を振り切ることに成功した。

【ペレナラ選手の冷静な状況分析】

 アッカーマンHCばかりではなくグラウンドで戦う選手たちも、思うようにいかない展開にフラストレーションが溜まったようだ。それでも集中力を切らさず戦い続けたことでもぎ取った勝利だった。

 果たしてグラウンド上の選手たちはどんな心境で戦っていたのだろうか。キャプテンのローレンス・エラスマス選手が、以下のように説明している。

 「実際(選手たちも)フラストレーションがかなり溜まっていて、その中で自分としては我慢強く継続するということを意識して声をかけていました。

 またTJとかがバックラインにいい言葉をいっぱいかけてくれて、彼はその先のプレー、次の仕事に向けて、こうなった場合はこうする、ああなった場合にはこうするというような案が出ていたのでよかったと思います」

 ペレナラ選手の冷静な状況分析と指示が、グラウンド上の選手たちを奮い立たせていたのが理解できる。

【ペレナラ選手以上のはたらきをしていたマピンピ選手】

 だが当のペレナラ選手の見方は、エラスマス選手と少し違っていた。

 「実際はマピンピの方がリーダーシップを発揮してくれたと思っています。彼はボールを持って走ることで目立ったりしていますが、細かいところを意識できる選手で、シンプルに物事を考えてチームにいい方向性を示してくれます。

 例えば今日も天候(雨模様)を考えて的確な指摘をしてくれましたし、マピンピの貢献が大きかったと思います」

プレーのみならずチームに的確な指示を出していたマピンピ選手(筆者撮影)
プレーのみならずチームに的確な指示を出していたマピンピ選手(筆者撮影)

 さらに選手に声をかける際に意識していることについても説明している。

 「問題を認知するのは誰にでもできると思いますが、解決策を出すということを意識して声をかけています。そういう意味では今日のマピンピは的確な指摘をしてくれたと思います」

 つまりペレナラ選手とマピンピ選手は試合中にチームに起こっていることを冷静に状況分析するだけでなく、さらに解決策も自分たちで見出し、選手たちに伝えていたのだ。

 それぞれニュージーランド代表と南アフリカ代表で主力を務める選手だけに、世界トップクラスの洞察力とラグビーIQの高さを備えていることを実証するエピソードではないだろうか。まさにラグビー選手の理想像ともいえる存在だ。

 この2選手が揃うNTTドコモは、やはり今シーズンの台風の目になりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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