Yahoo!ニュース

「粘り強さ」で竜王奪取!豊島名人、史上4人目の「竜王・名人」達成

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
(写真:アフロ)

 12月6・7日に第32期竜王戦七番勝負第5局が島根県津和野町で行われ、挑戦者の豊島将之名人(29)が広瀬章人竜王(32)を143手で破り、通算4勝1敗として初の竜王を獲得。羽生善治九段、谷川浩司九段、森内俊之九段に続く、史上4人目の「竜王・名人」となった。

執念

 この第5局では2日目の昼過ぎに千日手筋が生じ、盤外がざわついた。

 不利とみられていなかった豊島名人が千日手を誘ったのだ。広瀬竜王がのれば引き分け、指し直しとなったであろう。

 残り時間が少ない中で後手番になっての指し直しとなれば、苦しい戦いを強いられることは明白だ。

 それでも豊島名人が千日手を望んだのは、この一局はどうしても落とせない、その執念からくるものだったと想像される。

 実戦は広瀬竜王が打開して、ペースを握った終盤では勝ち筋も生じていた。

 しかし豊島名人の玉を詰ましにいった判断が悪く、歩が1枚足りずに詰まなかった。

 終盤の名手と知られる広瀬竜王にしては珍しい負け方だったが、豊島名人の執念が勝ったといえそうだ。

豊島名人の粘り強さ

 筆者がシリーズを通じて感じたのは、豊島名人の「粘り強さ」だった。

 この第5局も、観戦していた筆者は広瀬竜王が勝ちそうだと思って終盤戦をみていた。

 これはプロ・アマ問わず誰もがそうだっただろう。広瀬竜王本人も勝ちとみて攻め込んだと思われる。

 そんな中、豊島名人は諦めずにギリギリの不詰めをみつけて勝ち筋を手繰り寄せた。恐るべき「粘り強さ」だった。

 このシリーズでは、第1局・第3局・第5局と、豊島名人が先手番の3局では終盤での逆転で豊島名人の勝利となった。

 戦前の予想では、序盤で豊島名人がリードし、終盤で広瀬竜王が追い込む、という展開が本命視されていたが、予想に反する展開が続いた。

 豊島名人としては得意の角換わり戦法でリードを奪えなかったが、「粘り強さ」で勝利をつかみ、4勝1敗という結果につなげた。

 広瀬竜王は後手番でも序中盤で互角以上の戦いを繰り広げていたが、得意の終盤での逆転負けが悔やまれる。

 「粘り強さ」といえば木村一基王位(49)を思い起こす。

 豊島名人の「粘り強さ」は、今夏に繰り広げられた「炎の十番勝負」で木村王位から会得した技だったのかもしれない。

名人戦

 豊島名人の次の大舞台は来春に行われる名人戦七番勝負となりそうだ。

 竜王獲得でタイトル獲得数を4期とした豊島名人も、いまだ防衛を果たせていない。終局後の記者会見でも防衛戦にかける意気込みを語っていた。

 名人の挑戦権争いは、渡辺明三冠(35)と広瀬竜王の二人に事実上しぼられている。

 広瀬竜王が挑戦者となれば、竜王戦のリベンジマッチとなる。

 渡辺明三冠が挑戦者となれば、「竜王・名人」vs三冠保持者というビッグマッチとなる。

 名人戦七番勝負はどちらが挑戦者に名乗りをあげても、おおいに盛り上がるシリーズとなるだろう。

 名局揃いだった竜王戦七番勝負を思い返すと、次の大勝負が待ち遠しい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事