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「これでは老後は生活できない」単身世帯で減少する公的年金への信頼

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 老後の資金繰り、どのような目論見を立てていますか

老後の生活費の工面、公的年金・就業収入・私的年金

若い時分のような働きぶりが期待できない、定年退職の歳に達した後の老後における生活費の工面方法は人それぞれ。人々はどのようなそろばん勘定をしているのだろうか。金融広報中央委員会の「知るぽると」が2015年11月に発表した「家計の金融行動に関する世論調査」の結果から確認していく。

まずは老後の生活費をどのような収入源で補うかについて。回答者の世帯種類別の問いでは、単身・二人以上世帯双方ともトップは「公的年金」となっている。

↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(2015年)
↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(2015年)

二人以上世帯の方が「公的年金」への依存度は高い。これは多分に受給額が大きい厚生年金を対象としているからだと考えられる。また夫婦二人分ともなれば、単純計算で世帯単位の受給額が大きくなり、やりくりもしやすくなるのも道理である。

第二位には「就業収入」がついているが、こちらは単身世帯の方が5.3%ポイント高い。配偶者の就業収入に頼ることもできず、「公的年金」の不足分は自らの手で稼ぐとの選択肢として考えれば納得はいく。一方第三位の「企業・個人年金、保険金」は老後を迎える前の備えを利用するものだが、やはり雇用事例や老後に至るまでの金銭的な余裕の比較で、二人以上世帯の方が高い値。

「公的年金」がメインで、「就業収入」「企業・個人年金など」が補完、余裕がある人は「金融資産の取り崩し」も併用。一人身ほど自らの手で稼ぐ傾向が強いなど、世帯構成による老後のお金周り事情の違いがすけて見えてくる。なお生活保護などが該当する「国・自治体からの公的援助」は単身世帯で1割近くが想定している。二人以上世帯でも5.0%。

単身世帯では年々公的年金への信頼が減少

これらの動向をデータが取得可能な2007年以降の推移でみると、いくつかの動きが確認できる。「国・自治体からの公的援助」は2014年から加わった項目なので、2013年以前のデータは無い。

↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(単身世帯)
↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(単身世帯)
↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(二人以上世帯)
↑ 老後の生活費収入源(3つまでの複数回答)(二人以上世帯)

過去においても大まかなウエイトは直近の2015年分とは変わらないものの、

・単身世帯では「企業・個人年金、保険金」への傾注が増えると共に、「公的年金」が減っている。「就業収入」は高い水準を維持。

→「公的年金」への期待低下、それを補完するために自ら働こうとする意志の高レベルでの維持

・二人以上世帯では「就業収入」「企業・個人年金、保険金」への傾注が増える

→漠然とした収入の減退不安、それを補完するために自ら働こうという意志の高まり

・2011年以降の「金融資産取崩し」回答者急減

・2013年における単身世帯での「企業・個人年金、保険金」「金融資産取崩し」の下落

などの動きが確認できる。単身世帯と二人世帯それぞれの、世間一般に語られる「リスク」の違いがそのまま表れているのは興味深い。

2011年に発生した「金融資産取崩し」への回答者の急減は原因を特定できない。単身・二人以上双方の世帯で同じ動きが生じていることから、データ上の「ぶれ」とも考えにくい。景気悪化、あるいは震災による被害の回復のために、老後に備えていた金融資産の漸次取り崩しを行い、将来まで維持できそうにないとの考えが急速に広まったと考えれば道理は通る。

老後の生活を支える収入源としては、「公的年金」に依存・期待をしながらも、単身・二人以上世帯それぞれが各個の事情や思惑に従い、対策を練り実行している。特に二人以上世帯で「就業収入」への傾注が継続して高まりを示す状況は、現時点でも大きな社会問題化している失業率・雇用市場との関係も深いことから、今後の動きを見据える必要がある。少なくとも現状では、高齢者の労働への参加意欲は、さらに高まりそうである。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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