“夢のショーケース”埼玉スタジアム誕生から20年。浦和レッズの19歳GK鈴木彩艶の思い
夢が生まれる場所。夢をはぐくむ場所。夢をかなえる場所。日本サッカー界の「夢」のショーケースともいえる埼玉スタジアムがこのほど完成20周年を迎えた。2001年にJリーグ浦和レッズ対横浜F・マリノス戦でこけら落としされてから10月13日でちょうど20年。浦和のホームスタジアムとして、また、日本代表がワールドカップ予選を戦う際のホームスタジアムとして、日本のサッカーシーンを彩ってきた聖地への思いを、浦和レッズで活躍中の19歳GK鈴木彩艶(すずき・ざいおん)に聞いた。
■日韓ワールドカップ閉幕の1カ月後に生まれた彩艶
彩艶が生まれたのは2002年にあった日韓ワールドカップが閉幕してから約1カ月後の8月。鈴木家は彩艶が生まれてからほどなくアメリカから日本に引っ越し、彩艶は物心がついた時には既にさいたま市で生活していた。
彩艶が初めて埼玉スタジアムを訪れたのは、さいたま市立大東小学校2年生だった2010年。2歳上の兄が埼玉スタジアムで行われたボーイズマッチに出場するということで、応援に来た。
兄の試合を見た後は、浦和のトップチームの試合を観戦した。相手は大宮アルディージャ。さいたまダービーだ。
彩艶が座ったのはバックスタンドの2階席。「なんだ、このでかいスタジアムは、というイメージでした」という。
試合が始まると、スタンドでは浦和レッズのファン・サポーターの声が響きわたった。
「レッズのファン・サポーターのすごさを知りました。こんなにすごい雰囲気の中で試合をするのかと驚いたことを覚えています」
■2013年、「レッズジュニア」の第一期生に
それからしばらくの月日が流れた2013年。彩艶が小学5年生になったタイミングで、浦和レッズに初めて小学生を対象とした育成組織である「レッズジュニア」が誕生した。彩艶はセレクションに合格し、レッズジュニアの第一期生として加入した。
小1の頃から主にGKをやっていたという彩艶は、この年の9月25日に行われたJ1リーグ第24節アルビレックス新潟戦の前座として組まれたボーイズマッチにレッズジュニアのGKとして出場。これが彩艶の“埼玉スタジアムデビュー”となる。結果はうれしい「勝利」だった。
「埼玉スタジアムで初めてプレーした時は、大人のコートだったのでピッチが広く、本当に埼玉スタジアムの中にいるのかというフワフワしたような気持ちでした。地面に足をつけているような気がしない、不思議な感覚。雰囲気に飲まれるような感覚が最後まで続きました」
■ネクスト・ジェネレーション・マッチで受けた声援
やがて中学生になった彩艶は浦和のジュニアユースに入り、めきめき頭角を現していった。年代別の日本代表に飛び級で選ばれるようにもなった。
こうして迎えた2019年2月16日。浦和と川崎フロンターレが戦う「ネクスト・ジェネレーション・マッチ」が埼玉スタジアムで行われ、当時、浦和ユースに所属していた彩艶はU-18Jリーグ選抜のメンバーに選ばれ、後半開始から40分間の出場を果たした。
うれしい驚きだったのは、浦和レッズのファン・サポーターから応援されたことだ。
「僕自身はJリーグ選抜として出ているのに、まるでレッズの選手として出ているようにファン・サポーターから声援をもらいました。スタンドに挨拶に行った時にも拍手と声援で出迎えてくれて、アットホームな感じがしました」
兄の試合を見に来た時に感じた“圧”ではなく、その声には体中のエネルギーを呼び起こしてくれるようなパワーがあった。
「スタンドの声援が力になるということを初めて知ったのがネクスト・ジェネレーション・マッチでした。すがすがしい気持ちになり、最高の雰囲気の中でプレーできる楽しさを感じました」
このようにも言った。
「アンダーカテゴリーの代表で集まった時は、『このスタジアムはやばい』『圧倒される』『一度でいいから試合をしたい』とみんなが言ってくれました。そんな風に言われるスタジアムをホームとしているクラブに自分が所属しているのは、高々とした気持ちになります」
■「声の波が流れていくのを体で感じた」
インタビュー中、彩艶が忘れられない思い出として語ったエピソードがある。2016年12月3日に埼玉スタジアムで行われた浦和対鹿島アントラーズによる「Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦」のキックオフ直前。彩艶は浦和の育成組織の選手たちと一緒にセンターサークルでバナーを持っていた。観衆は5万9837人。隣にいる仲間の声が聞こえないほどスタンドが盛り上がっていた。
すると、「We are REDS!」のコールが始まった時のことだった。彩艶は自分の体の横を空気が振動しながら流れていくのを感じた。スタンド北側のゴール裏から南側へ、振動が背中をなめるようにして過ぎていった。
「ピッチの中で声の波が流れていくのを一度感じたんです。耳で感じるというよりも体が声を受け止めているという感じでした。その後の、全身が声に包み込まれるような雰囲気は今も忘れられません」
■「夢を持たせてくれたスタジアム」
2021年3月2日のYBCルヴァンカップ・湘南ベルマーレ戦。浦和のトップチームに昇格して1年目の彩艶は、18歳で公式戦デビューを飾った。3月27日にはルヴァンカップ柏レイソル戦で埼玉スタジアムデビュー。5月9日には明治安田生命J1リーグ・ベガルタ仙台戦でリーグ戦デビューを飾った。
「仙台戦の時は、リーグ戦で埼スタのピッチに立ったという実感が試合が終わってからしばらくたってもまだわいてこないほどでした。ジュニアの頃、スタンドで応援していた舞台に自分が立っている。その実感がわいてきたのは数日経ってからやっとでした」
彩艶は今、「埼玉スタジアムは夢を持たせてくれたところです」と言う。
「子供の頃に埼玉スタジアムで試合を見たことで、日本で一番の雰囲気のスタジアムでプレーしたい、ここを目指したいという気持ちを強く持つことができました」
だからこそ願っているのは、早く満員のスタジアムでプレーできる日がくることだ。
「スタジアムが一体となるような声援を受けた時には、もっとやってやろうという気持ちになると思います。逆に、良いプレーが出来なかった時には厳しい声があると思うけど、ファン・サポーターの『次はやってくれ』という声を近い距離で感じることができる。次につなげてやろうという自信を与えてくれるような所だと思います」
■「存在や雰囲気でゴールを守れてしまうオーラを出したい」
彩艶は試合のためにバスで試合会場に向かう時、車窓から見える埼玉スタジアムの迫力のあるフォルムが好きだと言う。気持ちを引き締め、高揚させてくれる。
「満員のスタジアムでプレーし、その中でやるときの楽しさを感じたい。子供の頃に見ていた満員のスタジアムで試合をやりたい。その中で、自分のプレーでファン・サポーターを喜ばせたい。ミスをしたら厳しい言葉を貰うというのはもちろんですが、自分のプレーでみんなが一体となるようなプレーをしていきたいです」
彩艶には見ている人を惹きつける力がある。ピッチで見せる一つ一つのアクション。シュートストップの能力。ボールに対する反応。キック、スロー。どれにも華やかさがある。
「理想は何でもできるゴールキーパー。自分の存在や雰囲気でゴールを守れちゃうようなオーラを出していきたいと思っています」
理想への道のりのスタートを切った彩艶。夢を抱いた埼玉スタジアムで、次は夢を実現していく日々がやってくる。