Yahoo!ニュース

韓国と北朝鮮の第三国での「代理戦争」北朝鮮の対露武器供与に対抗し、韓国もウクライナに武器支援を検討!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
昨年7月にウクライナを訪問した尹大統領とゼレンスキー大統領(大統領室)

 ウメロフ国防相が率いるウクライナの特使団が11月27日に訪韓し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領をはじめ申源湜(シン・ウォンシク)国家安保室長、金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防部長官らと相次いで会談し、ウクライナへの経済、軍事支援を要請した。

 会談では北朝鮮の派兵などについて情報を共有することで合意したようだが、肝心の韓国の武器供与についてのやりとりは伏せられていた。野党議員から国会国防委員会で質問を受けた金国防部長官は武器支援については「答えられない」と、言及を避けていた。

 韓国のメディアの多くは武器支援については対露関係悪化やトランプ次期政権の対応が不透明なことから韓国政府は「即断しなかった」とか、「約束しなかった」と伝えていたが、本当だろうか?

 ゼレンスキー大統領は使節団の訪韓について「武器について話し合うため」と、公言していた。国防相を派遣した以上、ウクライナはそれ相応の土産を期待しているものと思われる。

 ウクライナが米国やNATO(北大西洋条約機構)諸国以外で唯一、韓国に期待を寄せるのは二つの理由からである。

 その一つは、尹大統領がウクライナへの支援について何度も触れていたことにある

 例えば、尹大統領は北朝鮮の派兵が明らかになった直後の10月24日、訪韓したポーランドのドゥダ大統領との首脳会談後の共同記者会見で「殺傷兵器を直接供給しないという大原則を持っていたが、北朝鮮の軍の活動次第ではより柔軟に検討できる」との考えを示していた。

 今月7日にも「北朝鮮軍の関与の度合いによっては段階的に我々の支援方式は変わっていかざるを得ない、武器支援も排除しない」と国民向け記者会見で言明していた。段階的支援とは防衛用兵器の提供から最終的には攻撃用兵器の提供を指す。

 もう一つは、北朝鮮の対露派兵はウクライナと韓国、双方にとって共通の安保脅威となっていることにある。

 韓国とウクライナは「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した露朝と異なり、同盟関係にはない。しかし、ロシアが派兵への見返りに北朝鮮にミサイルや核関連の軍事技術の供与を含む軍事支援を行えば、あるいは北朝鮮兵士らがウクライナで実戦訓練を積めば、韓国の安全保障を脅かしかねない。従って、ウクライナやNATOは「共通の敵」に対抗するためにも韓国は武器支援をすべきと主張している。

 折しも、EU(欧州連合)議会は昨日(28日)、露朝軍事協力を糾弾する一方で、韓国に対してウクライナへの武器支援に柔軟に対応することを要請する決議案を採択していた。これにより、韓国としてはウクライナの要請だけでなく、EUとの関係からも武器支援を前向きに検討せざるを得ない。

 韓国政府はこれまで総額4000万ドル規模の物資をウクライナに送ってきたが、防弾ヘルメット、テント、毛布から地雷撤去用具など非殺傷用軍需物資、人道支援に限られていた。しかし、これらは北朝鮮が派兵する前の段階である。

 尹大統領が「武器支援も排除しない」と公言した以上、防御用であれ、攻撃用であれ、殺傷兵器を含む武器支援に踏み込まざるを得ないであろう。

 NATOは2022年4月にロブ・バウアー軍事委員長をソウルに派遣し、小銃から155mm砲弾、対戦車ミサイルなど殺傷兵器100~150品目にわたる支援を韓国政府に要請していた。

 当時は特に低高度で浸透する敵機を迎撃する際に使われる射程距離5kmの携帯用対空誘導兵器「新弓」や短距離地対空ミサイル「天馬」に関心を寄せていたが、今ではロシア本土を攻撃できるミサイルの支援も求めているとも言われている。

 韓国政府は防御用の「天弓」迎撃ミサイルや局地戦防空レーダー、対砲兵レーダーなどを供与することには前向きのようだが、155mm砲弾や攻撃兵器にまで踏み込めるかは微妙だ。北朝鮮がロシアに戦術誘導ミサイルまで供与し、これに対抗し、米国や英国も弾道ミサイル「ATACMS」や巡航ミサイルを送っていることもあって韓国としても大いに悩むところである。

 北朝鮮はこれまでにロシアに152mm砲弾、122mmロケット弾など1千万発(韓国国防部推定)、携帯用対戦ミサイルの他に170mm自走砲、240mm放射砲を供与している。

 また、ウクライナ国防省情報総局(DIU)によると、戦術誘導ミサイル「KNー23」と「KNー24」を約100基ロシアに提供している。

 「KN-23」はロシアの戦術誘導ミサイル「イスカンデル」、「KN-24」は米国がウクライナに提供している「ATACMS」と類似した戦術誘導ミサイルである。これに加えて1万人以上の兵士も派遣している。

 北朝鮮はこれまで主権国家に対する大国の武力行使には反対の立場を貫いてきた。

 例えば、米国の1983年のグレナダ侵攻から2017年のシリア空爆まで「主権国家に対する明白な侵略行為である」と規定し、「米国は超大国を自称しているのに核兵器を持っていない国だけを選んで横暴を極めてきている。絶対に容認できず、強く断罪する」と、米国を批判していた。同じ論理、理屈に立てば、今回のロシアによる主権国家・ウクライナへの武力行使に対してもロシアを批判してしかるべきだ。批判どころか、派兵とはまさに北朝鮮は二枚舌である。

 朝鮮半島から7千km以上も離れている所にアジアでは唯一北朝鮮のみが武器支援だけでなく、兵隊まで派遣している。北朝鮮のロシアへの肩入れに対抗し、仮に韓国が同じように兵器を持ち込むようなことになれば両国がやっていることはやくざや暴力団の「出入り」と変わりない。

 朝鮮半島の軍事緊張をそっちのけにしたまま他国の紛争に首を突っ込むとは実に愚かである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事