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日朝協議・拉致問題進展への4つのハードル

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

北京で3月30日、31日と行われた外務省局長級による日朝政府間協議では協議を継続することで合意を見ている。

民主党野田政権下で初めて行われた2012年11月(15-16日)の政府間協議は、12月1日に北朝鮮がテポドン発射を予告しなければ、20日後の12月5日に2度目の協議が行われる手はずとなっていた。このケースに当てはめれば、今回の協議も、遅くとも今月中に再開されるかもしれない。

再開されれば、自民党福田政権下の2008年8月に2度目の局長級協議で合意した北朝鮮の安否不明者再調査と日本の制裁一部緩和を双方が再確認し、履行することで妥結する公算が大だ。しかし、妥協までには乗り越えなければならない障害が幾つか横たわっている。

一つは、北朝鮮による中長距離ミサイルの発射と、それに続く核実験の動きだ。

北朝鮮は3月14日の国防委員会声明で米国に対して「自衛的核抑止力を誇示するため追加的措置を連続的に取ることができることを肝に銘じるべきだ」と警告したのに続き30日の外務省声明では「より多種化された核抑止力をそれぞれ異なる中長距離目標に対してそれぞれ異なる打撃力で活用するための様々な形態の訓練が含まれることになる」と中長距離ミサイルの発射を示唆している。

北朝鮮によるノドンを含む3度の弾道ミサイル発射(2月27日と3月3日、26日)については安保理議長が非難する報道用談話を出しているが、国連安保理では非難声明や追加の制裁措置を討議中である。安保理が新たな制裁を科せば、北朝鮮は中長距離ミサイルの発射に踏み切るものとみられる。

仮に北朝鮮が再度ミサイルを発射すれば、安保理は制裁を強化せざるを得ない。そうなると、北朝鮮は外務省声明で「米国が(発射訓練を)再び挑発といいがかりをつけてきた場合、敵が想像もできない次の段階措置を準備している。核抑止力を一層強化するための新たな形態の核実験も排除しない」と宣告していることから、これまた4度目の核実験を強行することになるだろう。

そうなれば、拉致被害者家族連絡会の飯塚繁雄代表が「ミサイル発射や核実験があっても、日朝協議を続けて欲しい」と古屋圭司拉致担当大臣に要請しても、安部政権は野田政権の時と同様に日朝協議を凍結せざるを得なくなるだろう。

次に、米国が日朝協議にブレーキを掛ける恐れがあることだ。

米国がミサイルや核問題を棚上げにした日朝協議や合意を歓迎しないのは言うまでもない。まして、北朝鮮が国防委員会声明で「我々はすでに多種化された我々の核打撃手段の主たる的が米国であることを隠さない」と公言している以上、北朝鮮がミサイル発射と核実験を強行した場合、オバマ政権は断固たる措置を取るだろう。そうなれば、安否不明者の再調査への見返りとしての制裁緩和という約束を日本が果たすことは困難となる。

安倍政権が尖閣問題で中立的な立場を取っている米国に日本支持を明確にするよう来日したヘーゲル米国防長官に要請したのが事実ならば、なおさら、日本が北朝鮮問題で突出することはできない。拉致問題よりも、日米関係のほうがより重要だからだ。

三つ目に、韓国の妨害が予想されることだ。

韓国政府は過去も、現在も、日朝関係が南北関係よりも先行することを快く思ってない。日朝関係改善は南北関係の阻害要因とみなしている。古くは、金丸信自民党副総裁が1990年に韓国の頭越しに訪朝した際、怒った盧泰愚大統領は釈明のため訪韓した金丸氏に対して韓国との事前協議なく、今後勝手な振る舞いをしないよう釘を刺したことがその一例だ。最近では、昨年5月に飯島勲内閣参与が膠着した日朝関係打開のため訪朝した際に韓国政府は「ためにならない」と不快感を示したばかりだ。

韓国も北朝鮮による哨戒艦撃沈や延坪島砲撃への懲罰として2010年以来、制裁措置を取り続けている。「5.24措置」と呼ばれる韓国の制裁措置は、北朝鮮に対韓政策を改めさせる貴重なカードである。日朝交渉が進展し、日本が制裁を解けば、韓国の「制裁カード」は効力を失いかねない。

北朝鮮の無人機に日本製のバッテリーとカメラが使われていると韓国政府が発表していることでもわかるように北朝鮮の挑発が続いている現状では制裁が日本から人、モノ、金が流れる事態を韓国として容認するわけにはいかないだろう。

最後に、朝鮮総連の競売問題だ。

宋日昊大使は日朝協議の場で朝鮮総連本部の競売問題に関し「実務的な問題でなく朝日関係進展における基礎的な問題」との認識を示した上で、「この問題が解決しなければ両国の関係進展自体が必要ない」と日本政府の対応に不満を表していた。

日朝協議終了後、朝鮮総連を担当する朝鮮海外同胞擁護委員会は朝鮮総連本部の競売による売却を「我々の主権に対する重大な侵害である」としてうえで「朝日関係を取り返すことのできない最悪に追い込む自滅行為である」と反発していた。4月5日には、党機関紙の労働新聞が「我々は共和国の貴重な遺産と財富が白昼、非合法的に強奪されるのを傍観しない」と日本を非難していた。

総連本部の競売問題はもはや政府が介入して解決できる次元にはない。介入すれば、法治国家としての根幹が崩れる。また、「北朝鮮の圧力に屈した」と世論の反発を招きかねない。従って、北朝鮮が直談判しても、安部政権としては呑めない話である。

それでも、仮に北朝鮮が総連の競売撤回を安否不明者再調査の前提条件とするならば、日朝協議の進展、合意は容易ではない。

第一のハードルさえクリアされれば、紆余曲折はあっても、日朝合意に辿りつく可能性は大だが、その最大の山場が今、まさに訪れようとしている。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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