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コロナ禍のテレワークは結局どう評価されたのか 総務省レポートと検索データから振り返る

土橋克寿クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト
(写真:アフロ)

コロナ禍を経て、テレワークは日本全体でどの程度まで定着したのか。総務省レポートと検索データをもとに、企業や個人、自治体の実態を把握していきます。

◉企業へのテレワーク導入率は51.9%

まず、総務省の『令和3年通信利用動向調査の結果』(※常用雇用者100人以上の企業の内、令和3年8月末時点の5,966社が対象)によると、テレワークを導入している企業の割合は51.9%となっており、令和元年の20.2%、令和2年の47.5%から引き続き上昇傾向です。導入しているテレワークの形態は、「在宅勤務」が91.5%と最も高く、次いで「モバイルワーク」が30.5%、「サテライトオフィス勤務」が15.2%を占めます。

産業別にみると、多くの産業で導入割合が伸びており、特に「情報通信業」は97.7%が導入している他、「金融・保険業」(82.4%)や「不動産業」(75.1%)の割合も高くなっています。対して導入率が最も低いのは「運輸・郵便業」(27.8%)であり、同産業に限り、テレワーク導入率が前年の30.4%よりも低下しました。

資本金規模別にみると、50億円以上の企業の導入率が93.4%と最も高く、1億円〜5億円未満(76.7%)、3000万円〜5000万円未満(37.8%)、1000万円未満(20.0%)と、規模の大小とテレワーク導入率の顕著な関係性が読み取れます。

テレワークの主な導入目的は、「新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため」の割合が90.5%と最も高く、次いで「勤務者の移動時間の短縮・混雑回避」(37.0%)、「非常時の事業継続に備えて」(31.1%)と続きます。導入効果については、「非常に効果があった」又は「ある程度効果があった」と前向きに評価した企業の割合が74.3%な一方、「マイナスの効果があった」又は「あまり効果がなかった」という否定的な評価は6.1%に留まりました。

また、テレワーク未導入企業の未導入理由については、「テレワークに適した仕事

がないから」の割合が81.7%と最も高く、次いで「業務の進行が難しいから」(36.6%)、「文書の電子化が進んでいないから」(16.0%)、「顧客等外部対応に支障があるから」(14.8%)、「情報漏洩が心配だから」(13.8%)と続きました。

◉テレワーク未実施の個人の大半がテレワーク希望せず

続いて、同レポートの個人(※15歳以上の企業等勤務者の27,088人が回答対象)に関するテレワーク実施状況調査を見てみます。すると、「テレワークをしたことがある」と回答した個人の割合は22.7%を占める一方、テレワーク未実施者のうち、「実施を希望する」と回答した個人の割合は17.3%に留まっており、82.7%という大半の方々がテレワーク実施を希望しないことが明らかになりました。

テレワーク未実施者が実施しない理由は、「テレワークに適した仕事ではないため」が58.3%と最も多く、その後に「勤務先にテレワークできる制度がないため」(27.8%)、「テレワーク用の執務環境が整備されていないため」(5.6%)、「テレワークの実施に適切な情報通信システムがないため」(5.1%)と続いています。

提供:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
提供:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

ここで個人の動きについて、ヤフーが提供するビッグデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を利用して、検索ボリュームの変動に焦点を当ててみます。「テレワーク」や「在宅勤務」の検索ヒット数が爆発的に増加したのが、最初の緊急事態宣言が出された2020年4月頃であり、その後大きく減少しているものの、緊急事態宣言などの社会的緊張感が高まったタイミングと同じくして、多くの関心を集め続けています。

提供:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
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また、上グラフは「テレワーク 助成金」など、「テレワーク」と合わせて入力しているキーワード(2020年1月〜12月の1年間)になりますが、「助成金」「求人」「コロナ」「いつまで」「椅子」「デスク」「違い」「おすすめ」「在宅勤務」「パソコン」「ストレス」など、多くの方々が生活や働き方の見直しをしたことがわかります。

なお、「助成金」「椅子」「デスク」といったキーワードが高順位に並んでいたことからすると、「パソコンは自宅にあるけれど、長期間の在宅勤務は初めて。自宅で毎日働くなら、まずは仕事に集中できるデスク環境を整えないとな」という方々が、当初のボリュームとしては多く、その後ほどなくして「Zoom」「Microsoft Teams」などのITツール試用検討が始まったといえるでしょう。ですので、2023年現在は出社を主としていても、いつでも在宅勤務テレワークに切り替えられる柔軟対応可能な層は潜在的に多そうです。

◉自治体64%がテレワーク導入するも、現場の利用率は低迷

自治体についても見てみましょう。総務省が令和4年10月時点の地方公共団体における、テレワーク状況調査結果についてまとめた『地方公共団体におけるテレワークの取組状況調査結果の概要』によると、全国1,788団体のうち、1,150団体(64.3%)がテレワーク導入済となっています。

47都道府県及び20指定都市では全団体においてテレワークが導入済な一方、市区町村では1,083団体(62.9%)が導入済で、これは前年の849団体(49.3%)から着実に増加しています。導入していない理由の上位5項目は、「情報セキュリティの確保に不安がある」(74.9%)、「多くの職員がテレワークになじまない窓口業務等に従事している」(74.8%)、「テレワーク導入のためにコストがかかる」(67.4%)、「電子決裁ができない」(66.0%)、「紙資料の電子化が進んでいない」(56.6%)といった回答が占めました。

テレワーク導入済の団体のうち、実施可能な環境にある職員の割合は、「0%以上30%未満」が286団体(24.9%)、「30%以上50%未満」が119団体(10.3%)、「50%以上80%未満」が163団体(14.2%)、「80%以上」が274団体(23.8%)、「不明」が308団体(26.8%)となっています。つまり、最も多いのが「0%以上30%未満」で、次点が「80%以上」という、非常にばらつきがある調査結果となりました。

また、テレワークの利用率は、「0%以上30%未満」が717団体(62.3%)、「30%以上50%未満」が26団体(2.3%)、「50%以上80%未満」が19団体(1.7%)、「80%以上」が8団体(0.7%)、「不明」が380団体(33.0%)となっており、前述と同じく、最も多いのが「0%以上30%未満」という結果でした。

◉「非常災害時における事業継続性の確保」を評価

さらに、テレワーク導入済の1,150団体について、詳細を見ていきます。テレワーク時に利用可能なツールの上位5項目は、「業務用メール」(96.0%)、「スケジューラー」(77.6%)、「web会議」(55.0%)、「チャット」(48.4%)、「電子決裁」(43.0%)が占めました。

続いて、テレワーク導入の効果については、「非常災害時における事業継続性の確保」(76.5%)、「職員の移動時間の短縮・効率化」(55.3%)、「仕事と家庭生活を両立させる職員への対応」(40.2%)、「業務の効率・生産性の向上」(38.4%)、「職員のゆとりと健康的な生活」(29.7%)が特に評価されています。

最後に、テレワーク活用推進の課題については、「多くの職員がテレワークになじまない窓口業務等に従事している」(74.6%)、「紙の資料が参照できない」(63.4%)、「職員の労務管理が難しい」(54.6%)、「職員間のコミュニケーションが不足する」(40.5%)、「テレワーク活用推進のためにコストがかかる」(35.0%)があげられました。

◉まずは小さく試してみる

今回ご紹介したレポートを通じて、企業規模や産業の違いによってテレワーク利用率が大きく異なること、自治体ではテレワーク導入率が高まっているものの現場利用率は低迷していることなどが、明らかになりました。一方、テレワークの導入効果については、企業の74.3%が肯定的な回答をすると共に、テレワーク導入済の自治体の76.5%が「非常災害時における事業継続性の確保ができた」と回答するなどして前向きに評価していることもわかりました。

まずは小さく導入してみる、そして効果を実感したら他部署にも広げてみる。テレワークに限りませんが、そんな試みを繰り返すことの重要性が、この変化の激しい現代において高まっているといえます。

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※この記事は、Yahoo!ニュース 個人編集部、ヤフー・データソリューションと連携して、ヤフーから「DS.INSIGHT」の提供を受けて作成しています。

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クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト

1986年東京都生まれ。大手証券会社、ビジネス誌副編集長を経て、2013年に独立。欧米中印のスタートアップを中心に取材し、各国の政府首脳、巨大テック企業、ユニコーン創業者、世界的な投資家らへのインタビューを経験。2015年、エストニア政府による20代向けジャーナリストプログラム(25カ国25名で構成)に日本人枠から選出。その後、フィンランド政府やフランス政府による国際プレスツアーへ参加、インドで開催された地球環境問題を議題に掲げたサミットで登壇。Forbes JAPAN、HuffPost Japan、海外の英字新聞でも執筆中。現在、株式会社クロフィー代表取締役。

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