病院の紹介状は、たとえ患者本人でも開封したらダメ?
別の病院へ移る場合、医師に紹介状を書いてもらうことが多いです。この紹介状には何が書かれてあるか、また「開封してはいけない」というのは本当かどうか、解説したいと思います。
紹介状には何が書かれている?
紹介状は医師から医師に向けて書く手紙のことで、正式には「診療情報提供書」といいます。病院間の親展であり、宛名の医療機関・医師が開封すべきものとされています。
紹介状が入った封筒には、患者さんの診療情報が書かれた手紙と検査データが入っています。氏名、住所、過去の病気、薬の内服歴、疑われる病名、症状、これまでの診断・治療経過、紹介の目的、アレルギー歴、家族歴などが書かれています。
昔は手書きで書いていました。謎のドイツ語が混ざっていたり、達筆すぎて読めないミミズのようなひらがなを書いたりする医師が多かったものです。現在はほとんどがタイピングされた紹介状なので、「解読不能」はそうそうありません。
基本的に医師同士のやりとりになるので、一般の人には理解しにくい専門用語で書かれています(図1)。
紹介状のメリット
紹介状は、診療情報をすみやかに正しく伝えるという大事な役割がありますが、それ以外にもいくつかメリットがあります(図2)。
まず、無用な費用がかからなくて済みます。紹介状なしで大病院を受診すると、選定療養費という支払いが発生します。大学病院だと1万円以上かかることもあります。これは、クリニックなどでじゅうぶん診療可能な患者さんがわざわざ大病院を受診する抑制策の1つでもあります。かかりつけ医に紹介状を作成してもらう場合、2,500円かかりますが(3割負担の場合750円)、選定療養費よりかなり安いです。
さらに、検査の繰り返しが減ります。時に「近くの病院で検査してもらって異常は見つからなかったのですが、心配になって来ました」と大病院を来院する患者さんがおられます。しかし、前医でどのような検査を受けて、どのような結果だったのか分からないため、医師の立場としては困る案件です。
たとえば、胸が痛いということで前医で心電図検査、血液検査、心臓超音波検査、心臓CT検査などを受けていても、そのデータが入手できなければ、再検査になるかもしれません。医療経済的に、色々ともったいないわけです。
全ての医療機関で同一患者さんの情報がシェアできる仕組みがあればよいのですが、そこまで医療のDX化は進んでいません。
その他、紹介状を持っている患者さんは事前に初診の予約を取ることができるため、待ち時間が少なくなります。紹介状を持たずアポなしで受診される患者さんと、事前に予約を取って受診される患者さんでは、緊急性がなければ後者の方が優先されます。
紹介状の開封は法に抵触するのか?
さて、患者さん本人が自身の紹介状を開封することは問題でしょうか?
紹介状の宛名以外の人が開封して書かれている内容を漏らした場合、刑法133条「信書開封罪」に抵触します。個人情報が漏洩して被害にあった場合に告訴することで成立するものであり、患者本人が開封して自身の個人情報を見たとしても信書開封罪は通常成立しません。
しかし、法的に問題がなくても、紹介状は基本的に病院間の親展であるため、開封しないほうが賢明です。
また、紹介元が説明しにくいと思っている病名がはっきり明記されているかもしれません。がんの疑いがあることを伝えられていても、「病名:肺がん・肝転移・骨転移の疑い」と書かれてあったらショックを受けますよね。
ちなみに、「開封されている紹介状は内容の真偽が疑われる可能性がある」とよくネット記事に書かれていますが、タイピングされた紹介状を患者さんが改ざんすることは困難なので、病院側としては改ざんの懸念はほとんど持っていません。
医師によっては、患者さんが希望されれば紹介状のコピーを渡すこともあります。専門用語が多いので読んでも分からないとおっしゃる人がほとんどですが。
しかし、上述したように非常にデリケートな内容を記載している場合もあるため、「こういう内容を書いています」ということを患者さんに伝えて、手渡していないことのほうが多いです。
まとめ
他院を受診する際、「今かかっている先生が気分を害するかもしれない」という理由で、紹介状を持たずにこっそり受診する患者さんもおられます。
しかし、結局こちらから診療情報を取り寄せることになるので、最初から紹介状を書いてもらったほうがよいでしょう。
法的には問題ありませんが、紹介状は病院間の親展であるため、安易に開封しないことをおすすめします。