新型プリウスが指し示す、今後のトヨタのいきる道。
トヨタ新型プリウスを、ついに公道で試す機会を得た。
前評判の高い1台だけに、果たして公道でどれほどの実力を示すのか楽しみに試乗会へと向かったが、実車を動かした瞬間に優れた1台であることがすぐにわかった。
インプレッションに関しては動画を参照していただくとして、このクルマは今後のトヨタの進む方向性を示唆していることを強く感じた。
トヨタはこのプリウスから、TNGAと呼ばれる新たなアーキテクチャを採用することで、新たなクルマ作りに取り組んでいる。
TNGAとは単に新たなプラットフォームを使うだけでなく、思想や哲学といった源からクルマ作りを変えようとする取り組み。豊田章男社長が良く口にしている「もっといいクルマ」を具現化するための考え方ともいえる。
トヨタは「安くて良いクルマ」=安価ながら実用性が高く便利なクルマを数多く提供することで、世界一の自動車メーカーになったわけだが、その一方で味や個性といった自動車文化を醸成するような要素についてはなかなか手にいれられずにいた(あるいはトヨタ自らがそうした要素を盛り込まなかったともいえる)。
しかし、そうしたクルマ作りが結果的に、世の中のクルマへの興味を失わせた一端とも豊田章男氏は考え、就任以降「もっといいクルマ」「クルマの味作り」等の言葉をかかげて、ユーザーから愛されるようなクルマを模索してきた。
そうした流れの中にあって、中には味や個性の強いモデルも数は少ないものの開発され存在してきたが、いわゆる基幹モデルにおいてはやはり、トヨタ車=生活の道具の域を抜け出ていなかった。
しかし今回のプリウスでは、基幹モデルにおいても「もっといいクルマ」と感じてもらえるような取り組みも盛り込むことで、単なる生活の道具、生活の足からの脱却を図ろうとしているのだ。
大量生産をシステム化して、クルマ作りについて世界の頂点に位置した。しかしそこから先で新たな変革がなければ、いつまで経っても数で勝負することになるわけで、ブランドとして進化できるかは微妙だ。
そしていくら数で勝負できても、欧米のクルマ作りに追いつくことができないような感覚を覚えるのは、いわゆるブランド性という点において足りないものがあるからなのだろう。
トヨタがそう考えたかは分からないが、新型プリウスを見ていると、大衆車でも味や個性やこだわりを盛り込んで作っていくことで、これまでと違う価値を見出そうとしているように思えるのだ。
結果できあがった新型プリウスは、欧米のクルマと比べるとまだ薄味な部分も当然あるけれど、これまでのトヨタ車とはちょっと異なる感じを受ける。
好き嫌いが分かれそうなデザインを思い切って採用しているし、これまで積極的には謳わなかった走りの良さについても語ろうとしている。
チーフエンジニアの豊島浩二氏も、
「新型プリウスは一言でいうと、『普通のクルマ』です。その心は、エコカーから脱して、“カー”として認めてもらえるクルマとして作ったからです」
という。これまでのプリウス=エコカーだったが、今度のプリウスはエコカーである前に、クルマとしての魅力を訴求したい、ということだろう。
豊島氏はさらに、「五感で感じられるクルマを目指しました。なぜならば燃費は数字ですが、そうではないところで感じてもらえるクルマにしたかったからです」という。
なるほど、そうした言葉を聞くほどに新型プリウスからトヨタの新たな取り組みが始まったことを感じる。
もっともそれを我々ユーザーがどのように感じるかは今後の経過を見ていくしかないだろう。ただ、新型プリウスは既に相当の人気モデルとなっており、噂ではもっとも早くても3ヶ月以上待つことになる、と言われている。