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トトロって、どんな生物? その生態を真剣に考えると「大昔は人間と対立していたのでは」という想像が…!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/きっか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメのできごとを空想科学で楽しく考えています。
さて、今回の研究レポートは……。

『となりのトトロ』の舞台は、昭和30年代前半。
サツキとメイは、父親といっしょに、郊外の一軒家に引っ越してくる。
家の近くには、入道雲のように大きなクスノキが生えていて、メイはその木の側で不思議な生き物と出会う。それがトトロだった——。

などと、物語の内容を紹介する必要はありませんね。いまの日本には、トトロを知らない人のほうが少ないだろう。

そう考えると、逆に不思議である。
トトロとはいったい何者なのか? 誰もが知っているキャラクターなのに、その正体は、実はハッキリしない。

『徳間アニメコミック となりのトトロ』では「むかしから森にすんでいるおばけ」と紹介してあったし、『徳間アニメ絵本 となりのトトロ』には「にんげんよりむかしから日本にすんでいる生きもの」と書いてあった。
「おばけ」と「生きもの」では全然違うと思うのだが、いったいどっちなんだ?

つけ加えれば、以前にあるパーティーでスタジオジブリの方に伺ったのだが、トトロの身長や体重も、公式には設定されておらず、「子どもたちから問い合わせがあっても、答えようがないんです」だそうだ。
結局、まるで正体不明なのである。

これは科学的に気になる問題だ。
ぜひとも考えてみよう。トトロとは何者なのか?

◆日本最大の生物だった!

まず、生物か否かである。
生物学では、生物を「エネルギー代謝を行い、自己複製し、自己保存の能力を持つ物質系」と定義している。
要するに、物を食べて呼吸し、子どもを増やし、自分が生きるために活動するなら、それがお化けであっても「生物」といえるということだ。

その観点からみれば、トトロは昼寝をしているときに気持ちよさそうに呼吸していたし、中トトロや小トトロもいたから子どもを生むのだろうし、ドングリを集めていたので自己保存の能力もあると思われる。
つまり、トトロは立派に生物なのだ。

生物ならば、身長や体重を知る手立てもあるはずだ。

前掲の『徳間アニメ絵本 となりのトトロ』には、トトロの身長は「やく2メートル」と書かれている。「やく」では心もとないので、アニメの画面から測定しよう。

雨の夜、サツキがメイをおんぶして、お父さんが乗ってくるバスを待つシーンがある。
そこへやってきて隣に並んだトトロは、身長がサツキの倍ほどもあった。
アニメの画面で測定すると、トトロの耳を除く頭のてっぺんまでの高さは、サツキの1.98倍である。

サツキは小学4年生とも6年生ともいわれるが、同級生のカンタが授業中に練習していた「河」「待」「松」は小学3~5年生で習う漢字だ。
そこで、仮に4年生と考えるなら、昭和35年の小4女子の平均身長は127.8cm。
彼女の身長がこれと同じと考えれば、トトロはその1.98倍で2m53cm。
で、でっかい!

日本でもっとも大きな陸上動物は、北海道に住むヒグマで、後ろ足で立ち上がったときの身長は2.4m。
それより大きいということは、日本最大の陸上生物はトトロということになる。

これほど大きかったら、体重も半端ではないだろう。

そこでトトロの絵を元に、その体の体積を算出すると、2200Lという数値が得られた。
通常の動物と同じように1Lあたりの重さを1kgとすれば、体重はなんと2.2tだ。実にヒグマの10倍。
サイのなかでも最重量級のシロサイ(2.3t)くらいだ。


サツキは、こんなヤツと雨の夜、バス停で並んでいたというのか。なんと勇気のある小学生だろう。
妹のメイは、さらに勇敢だった。彼女は、昼寝をしているトトロの尻尾につかまったり、寝返りを打つトトロのお腹をよじ登ったりしていたのだ。
まったくヒヤヒヤするシーンである。一歩間違うと、寝返りを打つ体重2.2tの下敷きになってしまう……!

◆トトロは何を食べるのか?

トトロの身長はヒグマを少し上回るくらいだが、体重はその10頭分。
この大きな違いは、トトロとヒグマの体型の違いによるものだ。
ヒグマが意外にスリムなのに対して、トトロはダルマさんのようにまぁるく太っている。
そして、劇中でトトロがドングリを食べていたことを考えると、この太りっぷりにも納得がいくのである。

ドングリは木の実だから、トトロは草食動物ということになる。
ゾウやサイやカバやキリンなど、陸上の大きな動物は草食性のものが多い。
海で最大のシロナガスクジラや、最大の魚類・ジンベエザメも、オキアミなどの小さな動物を食べる。
体の大きな彼らには、肉食動物もうっかり近づけないので、ゆったり時間をかけて安全に摂食できる植物や小動物を食べていられるのだ。

そしてトトロの体は、ドングリを食べるのに向いている。
人間にソックリな歯並びは、前歯でドングリを枝からこそぎ落とし、奥歯でかみつぶすために進化したのだろう。
長い耳は、森のなかで危険を察知するのに役立つ。
お腹が大きいのは、秋にたっぷりドングリを食べて栄養分を脂肪に変えて蓄えるからだと考えられる。

では、手の長く鋭い爪は?
枝からドングリを掻き落とすためなのかもしれない。
あるいは、サイやウシのツノのように、肉食動物から自分の身や子どもを守るためとも考えられる。

ドングリは栄養価が高く、大量の炭水化物や脂肪を蓄えている。
その養分を求めて、リスやノネズミなどが好んで食べるわけだが、もし同じ森にトトロが住んでいたら、他の動物にとってはオソロシイ競争相手になるだろう。
体重から必要な摂取カロリー量を計算すると、トトロは1日に8千個ものドングリを食べることになる! 大丈夫なのか、リス!?

いや、待て。
リスの心配をしている場合なのか?
前掲書によれば、トトロは「にんげんよりむかしから日本にすんでいる生きもの」ではなかったか。

日本人の祖先が、ユーラシア大陸や東南アジアから日本に渡ってきたのは、数万年前。縄文時代より前の旧石器時代である。
当然トトロの先祖も、それより前から日本にいたのだろう。
そしてわれら人間も、縄文時代まではドングリを食べていた!

ということは、縄文時代までの数万年にわたって、人間とトトロはドングリをめぐってキビシく対立していた可能性がある!
森で見つけたドングリを拾おうとするわれらの祖先の前に立ちはだかるのは、ヒグマの爪より巨大で鋭いトトロの爪!
しかも、その体重は2.2t!
人間など、ぜんぜん敵いません……!

でも、人間はトトロに滅ぼされなかった。
これに関して筆者は、縄文時代の晩期から「稲作」が広く行われるようになった影響が大きいのではないか、と思う。
稲作によって、人間は米、トトロはドングリと、食い分けが成立するようになったのではないだろうか!?
その結果、トトロと人間の関係は良好なものに……。

――というのは筆者の想像にすぎませんが、なんだかナットクできる気がして、自分では気に入っている妄想です。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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