Yahoo!ニュース

「記念撮影を終え手を振る」菅首相を「各国首脳に無視される」に改変 何罪か?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 G7サミットに関する共同通信社の配信記事に添えられた写真の説明文が「記念撮影を終え手を振る菅首相」であるのに、勝手に「各国首脳に無視される菅首相」に変え、ツイッター上で拡散する事案が問題となっている。

 この写真は、各国首脳が並んで記念撮影に応じ、取材陣に笑顔で手を振ったり親指を立てるジェスチャーをしたりして移動し始めたあと、ワンテンポ遅れて一人だけ右手を振る菅義偉首相の姿をとらえたものだ。

 その意味で、この写真に対する「各国首脳に無視される菅首相」という説明文は事実に反する。

 菅首相の名を挙げ、あるいは共同通信社の配信記事であるかのように装ってツイッター上で拡散していることから、両者に対する名誉毀損罪が成立する。共同通信社の業務を妨げたということで、偽計業務妨害罪も成立するだろう。

著作権法違反による立件例も

 ただ、最も問題となりそうなのは、こうした二次創作に伴う著作権の侵害だ。不特定多数の者が閲覧するツイッター上で拡散することは、私的使用の範囲から外れるので、著作権者である共同通信社の許可が必要となるからだ。

 著作権者に無断でこうした二次創作を行えば、著作権の一つである「翻案権」の侵害にあたる。勝手に内容を変えることも、著作権者が有する「同一性保持権」の侵害になる。

 過去にも、Yahoo!ニュースが取り上げた共同通信社の配信記事であるかのように装い、「中国軍 沖縄に侵攻」という虚偽のニュースをネット上で公開した男が著作権法違反で逮捕され、罰金50万円に処された例がある。共同通信社とヤフーが警視庁に被害届を提出していたからだ。

 元ツイートやアカウントなどを消しても、すでに関係者がキャプチャー画面を保存しているはずだ。警察の手にかかれば、犯人もすぐに特定される。共同通信社が毅然とした態度を示すか否かが「運命の分かれ目」となるだろう。(了)

(参考)

・共同通信社「首相、G7で五輪開催表明」が改変前のオリジナル記事

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事