和楽器バンド 経験と挑戦を詰め込んだ最新EPで、強い意志表示 世界に照準を合わせる8人の現在地
世界に照準を合わせる和楽器バンドの、強い意志が伝わってくるコンセプトEP「REACT」が12月4日に発売され、好調だ。2019年6月にユニバーサルミュージックとグローバルパートナーシップ契約を交わし、デビュー5周年を迎えまさに“REACT”する、鈴華ゆう子(Vo)、いぶくろ聖志(箏)、神永大輔(尺八)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(G&Vo)、亜沙(B)、山葵(Dr)、8人の想いが、言葉とメロディに剥き出しになって表れている。全速力で突っ走って来た「これまで」と、一瞬立ち止まり、見据えた「これから」について、鈴華ゆう子と黒流にインタビューした。
「少し立ち止まる時間ができて、心に余裕ができたことで、それぞれが己を、和楽器バンドというものを客観的に見ることができた」(黒流)
「レコード会社を移籍するにあたって、少し立ち止まる時間ができました。これが幸いしたというか、今まではツアーをやりながら音源の制作をやってきて、とにかく慌ただしかったです。今回、心に余裕ができたことで、全員がまず己を見る事ができたというか。和楽器バンドというものを、すごく客観的に見る事ができたと思う。そんな時間を経ての『REACT』のレコーディングだったので、『今まではこうしてたけど、こうしてみよう』とか、そういう挑戦ができました。今までアウトプットが続いていたので、インプットする時間ができたことで、今までの作品作りとは違うとメンバー全員が感じていると思うし、それが音にも出ていると思う」と黒流は、わずかな時間ではあったがバンドが、メンバー一人ひとりが、リセットできたことで“REACT”できたと教えてくれた。
「心機一転、やるぞという気持ちと、期待、混在している色々な思いを『REACT』に込め、Re-Bornするという感覚」(鈴華)
鈴華も「まさに『REACT』というタイトルが示している通りで、これまで5年間、8人を中心に考えて作り上げて活動をしてきて、今回レーベルが変わって、アーティスト側から発信するプロ目線と、音楽をたくさんの人に広げていくプロ目線が化学反応を起こして、Re-Bornするという感覚です。私達の中でやるぞっていう気持ちと、期待、色々な思いが混在しています。ファンの方も待たせてしまって申し訳なかったのですが、でも同じ気持ちでいてくれると思います」と、和楽器バンドの新たな章の始まりであると語っている。
和楽器バンドは詩吟と、尺八・箏・津軽三味線・和太鼓の和楽器に、ギター・ベース・ドラムを融合させた新しいスタイルのバンドとして、2104年にメジャーデビュー。2015年に発売した2ndアルバム『八奏絵巻』ではアルバムランキングで1位を獲得。北米単独ツアーを開催するなどワールドワイドな動きを見せてきたが、今回世界中にネットワークを持つユニバーサルミュージックと契約したことで、その活動をより本格化させる。和楽器バンドの“強さ”は、アーティスト名とはうらはらに、和楽器の音を引きたてるサウンドではなく、和楽器がバンドアンサンブルのひとつになっているところが、他の、和楽器をフィーチャーしているバンドと違うところだ。
「和楽器の音色に負けないボーカリストがいることが強み」(黒流)
「僕達は和楽器の音色に負けないボーカリストがいることが強みです。それといい意味でみんな和楽器に気を遣ってくれないんですよ(笑)。全員一律というか、8人全員が横一列で音楽を作ることができるので、やりやすいです。和楽器ではやってこなかったアプローチにチャレンジできるのがよかったのだと思う。楽曲ができたらそれを聴いて、全員が自分のフレーズをそれぞれ作るという感じでアレンジしていて、ここのキメはこの楽器が欲しいとか、いらないというのはレコーディングをしながら作っていきます。なので自分達のアレンジ力にもかかっています」(黒流)。
また、より世界を見据えてその音楽を発信していくという部分については「日本の音楽って世界からどう見られているのかなということはよく考えるのですが、でもあまり考えすぎて、“世界用”にしてしまうとどうしても誇張した日本、作られた日本が出てきてしまいます。そうではなく、僕達は自然体で世界を目指せるというか、和にも洋にも寄り過ぎず、自分達はこういうものを作りたいから、それを世界の人に聴いてもらいたいという、しっかりとした着地点があった中で、見せる事ができる状態です」(黒流)と、これまで同様、“今”の和楽器バンドの音楽をそのまま、“力まず”世界中へ発信していきたいと語っている。
8人が今、ファンに伝えたい<Challege><New Beginnig><Farewell to the past><Special Thanks>というメッセージ
コンセプトE.P.「REACT」に収録されている「Break Out」「Ignite」「IZANA」「情景エフェクター」の4曲には、それぞれ<Challege><New Beginnig><Farewell to the past><Special Thanks>という8人が今ファンに伝えたいテーマが流れている。疾走感とキャッチ―なメロディが印象的な「Break Out」は黒流が作詞・曲を手がけている。「僕自身が今までの人生の中で何度も音楽に救われた経験があるので、少しでも僕らの音楽が誰かの力になればいいなと常々思っていて、自分の言葉でわかりやすく伝えました」(黒流)。
まるできれいなおせち料理が入った重箱を見ているような感じだと思います。おかずが重なっていなくて、一品一品全部見えるようにきれいに煌びやかに並んでいる。
「一曲目は今までのファンを裏切らないものを置いて、2曲目は新しく変化が見える曲を持ってきました」(鈴華)という「Ignaite」はサウンド構築の要・町屋が手がけた、強い言葉を畳みかけるようにぶつけてきて、それがグルーヴを生んでいるアグレッシブな曲だ。
「町屋が構築した音は、まるで美しいおせち料理が入った重箱を見ているような感覚です」(鈴華)
「全ての音に関しては、町屋が緻密な計算をして作り上げています。言葉をきちんと伝えるためにどんな心情で歌えばいいのかとか、いつもバランスを考えてくれています。普通に演奏してしまうと他の楽器の音に負けてしまう和楽器の音も、音の周波数を上げるタイミングや、この曲には高い音の太鼓を使って欲しいとか、そういう設計図がある中でレコーディングが始まります。なので、今回のシングルもそうですが、完成したものを聴くと、まるできれいなおせち料理が入った重箱を見ているような感じだと思います。おかずが重なっていなくて、一品一品全部見えるようにきれいに煌びやかに並んでいる、すごく精巧にできたおせち料理を作るようにバランスをとってくれます」(鈴華)。前述した和楽器を強調しない、あくまでもバンドとしてのバンドアンサンブルができあがる秘密は、その緻密なサウンド構築にあった。
鈴華が作詞・曲を手がけた「IZANA」はイザナギ、イザナミの日本の神話をベースにした、どこかファンタジーの薫りが漂うが、全ての人が“救われて欲しい”という鈴華のメッセージが心に響く。「聴いた人はファンタジーを感じるかもしれませんが実は言いたいことは全然ファンタジーではないんです。もちろん日本の神話をファンタジックに描いて、海外の方にも日本の美しさが届いて欲しいと思いながらも作りました。でも、戦争、地震や自然災害で被害に遭われた方とその家族の方、大きな苦しみを抱えてる人、さらに日常の中でのちょっとした悲しみも含めて、形は違えど誰もが抱えている苦しみが、こういう曲を聴いた時に、何か包み込まれるような、救われるような気持ちになってほしいなって。<Farewell to the past>、過去との別れがテーマではありますが、苦しみから解放され、優しく包み込んであげたいという思いを込めました」(鈴華)。
「情景エフェクター」はベースの亜沙が作詞・曲を手がけた、ポップで、陽が射し込んできて明るさが広がっていくような、背中を押してくれる楽曲だ。「この曲はファンのみなさんへの感謝がテーマになっていて、EDMをこのバンドでやったらどうなるか、チャレンジしています。初めて全員で合唱したのもチャレンジでした」(鈴華)。
「2020年を意識するというよりも、日本のバンドの代表になるためには、どう歩んでいいくべきかを考えることが大切」(鈴華)
2020年、東京オリンピックの開催などで、日本やその文化にますます注目が集まりそうで、そんな中で和楽器バンドもますます鼻息が荒くなっている、と思いきや、冷静に自分達の立ち位置、足元を見つめている。
「実は周りの方が言うほど、和楽器バンドのメンバーは2020年を意識していないんです。何かチャンスがあれば素敵だなって思いますが、日本のバンドの代表になるためにはどう歩んでいくかを考えることが、大切だと思います」(鈴華)。
「オリンピック・パラリンピックが終わってからも日本は続いていくし、そこにかっこいい日本がないと全く何も残らない。だから僕らは地に足をつけて、“かっこいい日本”を作っていかなければいけないですし、それを継続して作っていきたいと強く感じています」(黒流)。
「私たちはどちらかというと、J-POPシーンを支えるという意識、日本の音楽業界をどうしていくかということを、常に考えて行動しています。デジタルが強くなって、受け取り手側も選択肢が増えている今、あらゆるところに自分達の表現するものを放射していかなければ、埋没していってしまいます。売れている音楽、ランキングに入っている音楽だけが全てではない世界になってきていて、聴き手が、聴きたいものだけを取捨選択できる時代になってきました。売れていない、聴かれていない音楽たちの中にも、パワーがあるのに埋もれている素晴らしい音楽ってたくさんあって、そういうところまで聴き手が手を伸ばせる時代になっていると思う。そういう状況の中で、どう戦っていくかを考える中で発表した『REACT』の動きを見ていても、今までと違うと手応えを感じています。これからも色々な仕掛けを考えているので、楽しみにしていてください」(鈴華)。
和楽器バンドは2月16日に『和楽器バンド Premium Symphonic Night Vol.2 ライブ&オーケストラ〜 in大阪城ホール2020』を、さらに2月29日、3月1日に両国国技館で『和楽器バンド 大新年会 2020 両国国技館 2days 天球の架け橋』と、方向性が違うライヴで、“REACT”する8人のメッセージを多くのファンに伝える。