浦和のDF南萌華が欧州挑戦へ。日本人センターバックの新たな可能性を切り開けるか
【13年目のラストマッチ】
なでしこジャパンのディフェンスリーダー候補が、ついに海外挑戦を表明した。
WEリーグの三菱重工浦和レッズレディースは、DF南萌華が、欧州のクラブへの移籍で基本合意を締結したことを発表した。移籍先は、まだ非公表だ。正式に契約を交わした後に発表される。
5月22日、WEリーグ最終節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦が、南にとって国内ラストマッチとなった。
ベレーザに2点をリードされる苦しい展開だったが、後半、74分と86分にエースのFW菅澤優衣香の2ゴールで追いつき、2-2のドロー。今季限りで退任を発表した森栄次総監督のラストマッチでもあり、勝利への執念が見えた。
浦和はラスト6試合を5勝1分で、2位でフィニッシュ。初代タイトルはINAC神戸レオネッサに譲ったものの、皇后杯女王の意地を見せてシーズンを終えている。
試合後のセレモニーで、2,400人を超えるスタンドのサポーターに向かってマイクを握った南は、一言一言に想いを込めるように語った。
「今季をもってチームを離れ、海外のチームに移籍することを決めました。約13年間、このクラブで育ち、学び、成長させていただきました。大好きなクラブを離れる決断をするのには、とても時間がかかりました」
ユース時代からお世話になったクラブや仲間たちは、家族のような存在だ。
移籍先からのオファーを受けたタイミングで、シーズン中に移籍する選択肢もあった。だが、「WEリーグ1年目で、どうしてもこのクラブで、みんなと(最後まで)戦いたい気持ちがありました」と、感謝をプレーに込めて戦い抜いた。
【世界トップクラスへの挑戦】
普段は人懐っこい笑顔で温厚な南だが、勝負に対してはとことん厳しい。腕を使って相手を牽制し、長い脚でボールを奪い取る。空中戦でも地上戦でも、激しいバトルを歓迎し、一歩も譲らない。
「相手とフィジカルでぶつかり合って戦うのが好きです。球際で負けないプレーを見てもらうことでチームを鼓舞したい。辛い時間帯やきつい状況の時に体を当てて前にいくことで、チーム全体が活気付くようなプレーができればと思っています」
1対1の勝負へのこだわりについて、そう語っていたことがある。
ボールを持てば、矢のようなサイドチェンジで攻撃のリズムに変化をもたらし、停滞していた局面を打開する。しなやかな動きから放たれるピンポイントパスは、目の肥えた観客を唸らせる。
今季からはプロになり、筋力トレーニングや体のケアに時間をかけるなど、個のレベルアップに力を注いできた。リーグ戦全20試合にフル出場し、セットプレーから2得点を決めている。長身選手が多い浦和でも、172cmの高さは頭ひとつ抜けていた。
前線からアグレッシブに奪いにいく浦和の守備はカウンターを受けるリスクも大きく、完封勝利は少なかった。だが、攻撃面ではチームのゴール数はリーグトップの「40」を記録。撃ち合いのシーソーゲームが多く、観客を喜ばせた。
年代別代表には飛び級で選ばれ、2018年のU-20W杯では、主将としてカップを掲げた。早熟のセンターバックは、23歳で、国内ではトップクラスのDFになった。一方で、国際舞台では厳しい現実を突きつけられてきた。
2019年のフランスW杯に20歳で選ばれ、昨夏の東京五輪ではセンターバックのレギュラーに定着。強豪国の並み居るストライカーたちと、真剣勝負を繰り広げた。だが、W杯はベスト16、五輪はベスト8で敗退を余儀なくされている。
五輪後に監督が交代し、新体制になって初のW杯アジア予選でも、主軸として出場権獲得に貢献。だが、女王の座は中国に譲った。
「世界の選手たちには、個で相手に勝つ強さがあります。もっと高いところを目指さないといけないし、特にディフェンダーは体格や強さで劣っていたら試合にも負けてしまうと思うので、戦術も含めて、個のレベルアップは追求し続けます」
今年4月の代表合宿の際に、南はそう語っていた。
代表でセンターバックを組んできたのは、ヨーロッパで長く活躍し、世界のトップクラスに名を連ねるDF熊谷紗希。20歳で海を渡り、着実にキャリアを積み上げたお手本が身近にいることは大きい。
同年代では、DF宝田沙織(リンシェーピングFC/スウェーデン)やMF林穂之香(AIKフットボール/スウェーデン)、FW遠藤純(エンジェル・シティ/アメリカ)らが一足先に海外挑戦を果たした。日本とは異なる1対1の強さを日常から体感することで、きっと、新たな視界が開けるだろう。
WEリーグ初代得点王で、代表経験も豊富なFW菅澤優衣香は、後輩にこんなエールを送っている。
「若いので、海外でいろいろな経験をして、吸収して、それをまた還元してほしい。そうすれば日本の女子サッカーも盛り上がると思うし、より強くなっていくと思います。萌華らしく、頑張ってきて欲しいです」
一方、中学1年生からユースでプレーを共にしてきたDF長嶋玲奈は、リスペクトと激励を言葉に込めた。
「萌華が代表で活躍するのを見て、少しでも近づけるように努力しよう、と思ってきました。今の自分があるのは萌華のおかげなので感謝しています。(いなくなるのは)すごく寂しいですが、一番応援しているし、海外でも通用する選手になって、帰ってきた時にはまたレッズで一緒にプレーしたいです」
国内でそのプレーが見られなくなるのは寂しいが、彼女を知る誰もが大きな期待を込めて送り出す。それは、南が持つポテンシャルの高さを知っているからだろう。
「また日本でプレーする機会があれば、必ずこのチームに戻ってきたいです。チームに必要とされる選手になり、しっかりと力をつけて戻ってきたいと思っているので、その時は『おかえり』と言ってもらえると嬉しいです。本当に、13年間ありがとうございました。行ってきます!」
セレモニーで最後に添えた力強い一言は、ラストマッチを見届けた大勢の浦和サポーターにしっかり届いたようだった。
海外でスケールアップし、熊谷に次ぐ日本人センターバックの道を切り拓けるか。大きな挑戦が始まろうとしている。
*表記のない写真は筆者撮影