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Amazon「当・翌日配達」4倍達成 「リージョナリゼーション」とは?

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
出典:米Amazon.com

米アマゾン・ドット・コムが米国のEC(電子商取引)事業で、商品の配送速度を急加速させている。同社は長年にわたり、有料プログラム「Prime(プライム)」の米国会員向け特典として、「当日配達」と「翌日配達」を標準サービスにするという計画を進めてきた。

23年、18億個の商品を翌日までに配達

アマゾンは7月31日、この取り組みにおいて重要なマイルストーンを達成したと発表した。同社によれば、2023年に入りこれまでの期間、米国Prime会員に計18億個の商品を、注文日当日または翌日までに配達した。これは2019年の同じ時期に当・翌日配達した商品数の約4倍だという。

米経済ニュース局のCNBCによれば、アマゾンは過去4年間、資金と経営資源を投じ、倉庫と配送ネットワークの刷新を図ってきた。それまで標準だった「翌々日」から、翌日あるいは当日へと配送時間の短縮を目指している。この取り組みは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で起こった、サプライチェーンの混乱と労働市場の逼迫(ひっぱく)によって一時中断した。しかし、現在は回復している。

物流改革「リージョナリゼーション」

アマゾンの物流担当副社長であるウディット・マダン氏によると、同社の過去1年の最大の変化の1つは、「リージョナリゼーション(地域化)」だという。同社はかつて米国内の配送網を「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる、集中型の全国モデルで運営していた。顧客が望む商品は例えコストがかかろうと全米規模で移動していた。

だが過去1年でこの方式を改め、リージョナリゼーションを進めた。具体的には、全米の自社物流網を8つの地域に分割し、地域それぞれで自己完結できるオペレーションに切り替えた。これにより、顧客に最も近い倉庫から出荷できるようにした。商品は、特別な場合を除き各地域間を移動しない。

アマゾンによれば、この取り組みは実を結び始めている。ラストマイルと呼ばれる、倉庫から顧客宅までの商品移動距離は従来に比べ15%縮小された。ミドルマイルと呼ばれる倉庫間移動における荷物取り扱い回数(タッチポイント)は12%減少した。あらかじめ適所に在庫を移動しておけば、注文から配達までの時間が短縮され、コストも抑えられるということのようだ。

一般に、即配サービスは小売り企業にとってコスト高で、物流網にも負担を強いる。しかし、マダン氏によると、アマゾンの場合は迅速配送とコスト削減を両立させている。「私たちの即配は、私たちにとって最も経済的だ」(マダン氏)という。

CNBCによれば、アマゾンは在庫の適所配置にAI(人工知能)を活用している。機械学習(マシンラーニング)の改善を図っており、どの倉庫にどれだけの在庫を配置するかといった調達業務を効率化している。これにより配送時間を短縮している。アマゾンは、米上位60都市圏全体で、Prime会員注文の半数以上を当日または翌日に届けているという。

米で超高速配達の拠点を拡大

一方、アマゾンは「セイムデーサイト(当日配達拠点)」と呼ぶ倉庫のネットワークを拡大している。カナダのサプライチェーン・物流コンサルティング会社、MWPVLインターナショナルによると、アマゾンは19年に米国でこの拠点を開設した。23年2月時点では約45施設が稼働していた。今後数年でその数を少なくとも150施設に増やす可能性があるとMWPVLインターナショナルは予測している。

その1施設当たりの大きさは、アマゾンの一般的なフルフィルメントセンター(発送センター)の数分の1程度。主に大都市圏近くにあり、ECサイトで人気のある数百万点の商品を常時置いている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、一部の商品は注文から数時間で配達している。

アマゾンは、フルフィルメントセンターやソートセンター(仕分けセンター)、デリバリーステーション(宅配ステーション)といった物流拠点を連携させて商品を配達している。

だが、このセイムデーサイトは、これらの機能を1つに集約した小規模な物流拠点だと、CNBCは報じている。アマゾンはその具体的な数を明らかにしていないが、現在この拠点の活用により、米国の90以上の大都市圏に住む顧客に当日配達サービスを提供している。同社は今後数年でその数を現在の2倍に増やす計画だ。

筆者からの補足コメント:

アマゾンはこれらの物流資源を活用し、外部小売業者向けのサービス事業も展開しています。23年1月、外部小売業者の商品を迅速に顧客に届けるサービスを米国で拡大すると発表しました。22年4月から「Buy with Prime(Primeで購入)」と呼ぶサービスを一部の小売業者を対象に招待制で提供してきましたが、このとき招待制を廃止。米国内の一般小売業者も利用できるようにしました。Buy with Primeでは小売業者が、決済、商品保管、配送などの業務にアマゾンのシステムと物流資源を利用できます。小売業者は自社のECサイトの商品ページに「Buy with Prime」ボタンを設置し、Primeの会員がこのボタンを押すと、アマゾンのアカウントで決済できます。アマゾンサイトと同様に配送特典を受けられるほか、返品の際に送料がかからないといった特典も用意しています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年8月3日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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