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特許明細書で欠陥の認識の言質を取られてしまうリスクについて

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

「"95年時点でガス発生剤に懸念" タカタ製エアバッグ 米紙報道」というニュースがありました。

タカタがガス発生剤として使っている硝酸アンモニウムへの懸念が1995年の特許出願書類で指摘されていたと報じた。

と書かれていますが、どういう意味なのか解説します。

特許を取るためには、従来なかった技術であること、そして、従来よりも優れている技術であることを主張して、審査官に理解してもらわなければいけません。そのためには、「背景技術」(BACKGROUND ART)という項目で従来技術の問題点を書くことが大事です。従来技術はこういう問題点があった→しかるにこの発明はその問題点を解決できる→ゆえにこの発明には特許権を付与すべきである、というストーリーがうまく書けている明細書は良い明細書であって、特許化の可能性も高まります。

しかし、気を付けなければいけないのは、「従来技術はこういう問題点があった」の部分で、事故の危険があるとか、健康に害があるというような致命的な問題を書いてしまうと、そのような危険を(会社として)認識していた言質と取られてしまうリスクがあるということです。これは、PL訴訟等において、会社の立場を悪くする要因となり得ます。実際には、明細書を書いた人が特許を取りたい一心で従来技術の問題点を独断で”盛って”書いていたのだとしても、会社としてそのような認識を持っていたと推定されてもしょうがないと言えます。

なので、米国向けの特許明細書の書き方の研修等では、背景技術には致命的な問題は書かない方がよいとよく言われます(この問題は米国だけではなく日本や他国でも起こりえますが)。私が専門でやってるソフトウェア特許分野では、せいぜい従来技術は不便だったとかコストが高かったと書くくらいなのであまり気にしなくてよいのですが、人の命を預かる機械等に関する特許出願の場合には注意が必要です。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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