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五輪スポンサー、声明を出した企業・出さなかった企業

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
森会長の発言で五輪スポンサーの姿勢にも注目が集まった(写真:つのだよしお/アフロ)

 女性蔑視と受け止められ、結果的に辞任に追いやられた森(元)組織委会長の発言を受けて、五輪スポンサー企業が相次いで声明を出した。今回のように世間で批判が起きた際、スポンサー企業の一般的な対応は、静観(ノーアクション)か、撤退(賛同できないという意思表明)がほとんどで、声明を出すことで姿勢を示すことは珍しい。

 もちろん、簡単にはスポンサーを降りられないという五輪ならではの特殊事情もあるが、注目したいのは、どんな企業が声明を出し、あるいは出さなかったのかということ。そして、その中身だ。

 昨今、男女平等やダイバーシティ推進を掲げる企業は多いが、その重要性を社会から問われた今回のような重大な場面で、きちんとスタンスを発信できているかを見ることは、本当にその価値観が社内に浸透し、実践されているかどうかの指標にもなるだろう。

過半数のスポンサー企業が声明を出した

 そこで、自社サイトと関連報道から、五輪スポンサー各社がどんな声明を出しているのかを追った。

 その上で明らかになったのは・・・。

◎スポンサー企業61社のうち声明を出していたのは、37社だった

◎うちHPに声明を掲載していたのは、わずか2社(AirbnbNTT)だった。

https://news.airbnb.com/ja/ourmessage_tocog/

https://www.ntt.co.jp/topics/tokyo_2020/index.html

◎声明を出さなかった24社のうち、ダイバーシティ推進を掲げている企業は、少なくとも17社あった。

 ※「スポンサー企業61社」は、東京五輪のパートナーページにロゴマークが載っている「ワールドワイドオリンピックパートナー」14社、「東京2020オリンピックゴールドパートナー」15社、「東京2020オリンピックオフィシャルパートナー」32社の計61社。

 ※スポンサー各社の声明は、日本法人のHP(2/14午前時点)の掲載及び、スポンサー企業の声明を取りまとめた関連報道(2/9付 NHK、 2/10付 TBSニュース2/11付 日刊スポーツ2/12付 日経新聞 2/13付 毎日新聞)を確認した。

声明の内容も時間を追って変化した

 企業がこのような声明を出すのは決して容易なことではない。それは、たとえば次のような表現の変化を見ても窺い知ることができる。

みずほフィナンシャルグループの場合、2/11朝の日刊スポーツへの回答では、

「対外的にコメントを出すかどうかも含めて検討中です」

 としているが、2/13朝の毎日新聞の記事では、

「当社は、国籍・人種・性別・価値観の異なる社員が、互いに認め合い、高め合うことを重視し、国内外におけるダイバーシティー(多様性)の推進に長年取り組んでおり、多様性と調和を掲げた東京大会の成功に向けて、引き続き他のスポンサーとともにサポートしていきたい。」

 とコメントしている。

 もっと分かりやすいのがキヤノンで、2/11朝の日刊スポーツには、

「コメントする立場になく差し控えたい」

 としているが、2/12夜の日経新聞の記事では、

「(森氏の発言は)大変遺憾に考えている」

 となり、2/13朝の毎日新聞の記事では、

 「<森会長の発言に関するコメント>当社は「共生」を企業理念に掲げており、文化・習慣・言語・民族などの違いを問わず、すべての人類が幸せに暮らしていける社会の構築を目指しています。今回の森会長のご発言はオリンピック・パラリンピックの理念や「多様性と調和」という今大会のビジョンに反するものであり、大変遺憾に思います。

 <森会長退任に関するコメント>今回の一連の発言は、いかなる種類の差別も認めないオリンピック憲章にも、また、今大会のビジョンである「多様性と調和」にも反するもので、決してあってはならないものである。森会長は東京オリンピック・パラリンピックの招致活動から現在に至るまで、IOCをはじめとした各組織・各競技団体やスポンサー各社などと調整をご自身でされてきた。また、3500名もの組織委員会をまとめ、今大会の成功に向けて大変なご尽力をされてきた。それだけに、今回の退任という結果はやむを得ないものではあるものの、大変残念である。」

 と、どんどん明確に、そして力強くなってきているのが分かる。

 また、声明を出した37社のうち、声明の中で森発言が問題だったと指摘したのは29社で、残りの8社は、何が問題だったかを明確にしていなかった

ダイバーシティ推進を掲げる企業は多いが・・・

 では、声明を出さなかった24社は、どんな企業なのか各社のHPを見たところ、少なくとも17社が採用ページやCSRレポートなどで「ダイバーシティ推進」などを特徴もしくは目標などとして掲げていた。

 社内では看板通りに運用されていることを祈りたいが、看板を掲げるならば、社外に向けても何らかの姿勢を示してもらいたいと考えるステークホルダーは多いのではないだろうか

 実際、今回声明を出した複数のスポンサー企業の広報に確認してみたところ、自社のコーポレート・フィロソフィーやビジョンで、ダイバーシティ推進を掲げているにもかかわらず声明を出さないことは「あり得ない」と社内から声が上がっていたと聞く。

 複雑な利害関係の中において、声を上げるということは決してきれい事だけではないことを踏まえて、リスクを取って声を上げた企業をここでは讃えることにしたい。

▼各社の声明は以下の表の通り。

※画像の大きさの不揃いはご容赦ください。

ワールドワイドオリンピックパートナーの声明
ワールドワイドオリンピックパートナーの声明

東京2020オリンピック ゴールドパートナーその1
東京2020オリンピック ゴールドパートナーその1

東京2020オリンピック ゴールドパートナーその2
東京2020オリンピック ゴールドパートナーその2

東京2020オリンピック ゴールドパートナーその3
東京2020オリンピック ゴールドパートナーその3

東京2020オリンピック オフィシャルパートナーその1
東京2020オリンピック オフィシャルパートナーその1

東京2020オリンピック オフィシャルパートナーその2
東京2020オリンピック オフィシャルパートナーその2

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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