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皮膚がんと降圧剤の意外な関係 - 大規模研究でリスク増加が判明

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

高血圧の治療に使われる降圧剤と皮膚がんの関係について、大規模な研究のメタ分析から新たな知見が得られました。

【降圧剤と皮膚がんの関連性】

今回のメタ分析では、降圧剤の服用が特定の皮膚がんのリスクを高める可能性が示唆されました。対象となった皮膚がんは、基底細胞がん(BCC)、扁平上皮がん(SCC)、悪性黒色腫(メラノーマ)の3種類です。

研究チームは、降圧剤の種類ごとに皮膚がんのリスクを評価しました。その結果、カルシウム拮抗薬(CCB)はBCC、SCC、メラノーマのすべてでリスク増加と関連していました。利尿薬はBCCとSCCで、チアジド系利尿薬はBCC、SCC、メラノーマでリスク増加が見られました。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)はメラノーマのリスクを高めることが分かりました。

特に、チアジド系利尿薬とSCCの関連が強く、利尿薬全般もSCCのリスクを36%高めることが明らかになりました。ただし、研究の質はエビデンスレベルが低いか非常に低いものが多く、さらなる検証が必要です。

【用量依存性の関係】

今回のメタ分析では、服用量と皮膚がんリスクの関係も調べられました。その結果、チアジド系利尿薬ではBCCで、ACEIと利尿薬、チアジド系利尿薬ではSCCで、ACEIと利尿薬、チアジド系利尿薬ではメラノーマで用量依存性が認められました。

つまり、これらの薬剤は服用量が多いほど皮膚がんのリスクが高まる傾向があるということです。ただし、用量の定義や測定方法は研究ごとに異なるため、詳細な比較は難しい状況です。

【皮膚への影響と注意点】

一部の降圧剤が皮膚がんのリスクを高める背景には、光線過敏症の作用があると考えられます。特に利尿薬やチアジド系利尿薬は、光線過敏症を引き起こすことが知られています。

降圧剤を服用中の方は、皮膚の変化に注意を払い、定期的な皮膚がん検診を受けることが大切だと思われます。気になる症状があれば、早めに皮膚科医に相談するのが賢明でしょう。

ただし、今回の研究結果は因果関係を証明したものではなく、さらなるエビデンスの蓄積が求められます。降圧剤の服用を中止したり、皮膚がんを過度に恐れたりする必要はありません。高血圧のコントロールは重要であり、主治医とよく相談しながら治療を継続することが肝要です。

高血圧は脳卒中や心臓病のリスクを高めるため、降圧剤の服用は欠かせません。一方で、皮膚への影響も無視できない問題です。両者のバランスを取りながら、きめ細やかな経過観察と適切な対策を講じていくことが求められるでしょう。

参考文献:

Cohen OG, et al. Anti-hypertensive medications and risk of melanoma and keratinocyte carcinomas: a systematic review and meta-analysis. JID Innovations. 2024. https://doi.org/10.1016/j.xjidi.2024.100272.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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