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少年犯罪と社会復帰の「誤解」と「常識」をこえてーー茨城農芸学院再訪

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
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もう2週間ほど前のことになる。2016年7月8日に、『無業社会』の共著者工藤啓さんのお誘いで、再び茨城農芸学院を訪問させていただいた。再び、というのは、今年の2月にもやはり工藤さん、井村良英さん、小山院長らのご尽力でスタディツアーに伺ったからだ。なおそのときの行程や所感は以下のエントリにまとめてある。

少年院と少年犯罪について(西田亮介)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20160229-00054904/

およそ半年弱の期間をおいての再訪だった。少年犯罪について、話を聞けば聞くほど、なぜ彼らは犯罪を犯し、「わたしたち」は一般的な生活を送ることができているのか、よくわからなくなってくる。後述するデータを見て欲しいが、少年犯罪が、家庭や経済状況といった個人を取り巻く環境要因や幾つかの巡り合わせの中でトリガーがひかれ、一定の確率で発生する事象なのだとすれば、ともすれば懲罰的な視点に立ってしまいがちだが、彼ら彼女らを再びどのように社会内に包摂していくのかという視点も必要になってくるはずだ。というのも、社会から彼らを排除してしまうと、再び「あちら側」に戻っていってしまいかねないからだ。後述するように、少年犯罪は減少しているが、再犯率は減少しているとはいえない。明らかに不適切な生計だが、たとえば振り込め詐欺集団に加担して、月収数百万円の生活を送っていた少年は、少年院での矯正過程を終えたあとに、どのような職に就き、どのような収入を得ながら、社会的生活を送ることができれば、再犯にいたらず社会内で「適切な」生活を営むことができるのだろうか。おそらくは、従来よりも長い射程で、たとえば個人のライフコースとキャリア全般を見渡しながら、矯正過程と社会的包摂のあり方を見直す時期に来ているようにも感じられた。認知行動療法や規律訓練的な意味合いも持っているとされる彼らの生活は規則的で、個人スペースは極めて限定されている(詳細には記してはならないとされている)。その椅子に座らせてもらった。窓から見える視界は少年院内部に閉じている。それはとても閉鎖的で、短時間滞在するだけでも、相当に圧迫感のあるものであった。確かに一定期間は、このような矯正の期間が必要だろう。だが、それはあくまで時限的なものであって、その後は彼らは再び社会と向き合うことになるのだ。多くの人が知りたくない、見たくない出来事だとしても、現場や支援者、政策担当者など、社会のなかの誰かが向き合って、直視し、よりよいものにしようとしている事実はもっと知られてもよいと感じた。

所感はさておき、幾つかデータを紹介しておきたい。少年犯罪と社会復帰をめぐっては、多くの社会と生活者の「誤解」と、関係者の「常識」があり、両者には未だ大きなギャップがある。筆者のようににわかに現場を見させていただいただけでも、そのことはありありと感じることができる。そのなかでも、もっとも基本的なギャップは、少年犯罪の「増加」と「凶悪化」をめぐってのものだろう。こちらは、ちょっとネットニュースなどに詳しい人などは知っているかもしれないが、少年犯罪は劇的に減少し、凶悪犯罪も激減している。そのことは一般にはまだまだ知られていない。だが、これは統計を見れば一目瞭然である。警察庁生活安全局少年課の最新版『少年非行情勢』(平成27年1月~12月)によると、この10年で、刑法犯少年は顕著に減少している。激減といってもよいだろう。たとえば、平成27年(2015年)約39,000件、刑法犯総検挙人員に占める少年の割合約16%。平成18年(2006年)約113,000件、刑法犯総検挙人員に占める少年の割合約29%。この10年でさえ、少年犯罪は3分の1近くになっていることがわかる(なお正確には発生件数と認知件数などの違いもあるが、あくまでここでは検挙人員を基準とした)。

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図1. 一般刑法犯検挙人員の年齢層別構成比の推移。『平成27年版 犯罪白書』データ(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_1_1_1_2.html)より筆者作成。

また図1からは、一般刑法犯検挙人員の年齢層別構成比の推移を見てみると、少年に限らず若年世代が減少し、年長世代の検挙比が増加していることがわかる。前述の『少年非行情勢』や『犯罪白書』などを参照すると、これは凶悪犯(殺人、強盗、放火、強姦)や粗暴犯でも、同様の傾向にある(『少年非行情勢』によると、少年犯罪における凶悪犯は、平成27年は586件、平成18年、1170件とやはりほぼ半減している)。メディアイメージが作る一般的な「常識」では少年犯罪は増加、凶悪化ということになるのかもしれないが、それはあくまで「誤解」であるということは、関係者の「常識」になっている。ただし、このような「誤解」が残り続ける背景には、当該問題の政策広報がうまくいっていない証ともいえるが、その件は本論とはやや主旨が異なるので、別の機会に譲りたい。

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図2. 少年事件の処分の流れ。裁判所「少年事件の処分について」

http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1801/)より引用」。

図2を見ると、少年院に来ている少年たちがどのようなプロセスを辿ってきたかがわかるはずだ。審判を経て、少年院送致の保護処分が決定した少年たちということになる。少年院送致について、裁判所ウェブサイトには以下の様に記されている。

少年院送致少年が再び非行を犯すおそれが強く,社会内での更生が難しい場合,少年院に送致して矯正教育を行います。少年院では,再び非行を犯すことのないように,少年に反省を深めさせるとともに,謝罪の気持ちを持つように促し,あわせて規則正しい生活習慣を身に付けさせ,職業指導をするなど,全般的指導を行います。(裁判所「少年事件の処分について」(http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1801/)より引用)

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図3. 非行少年に対する手続きの流れとその人数。『平成27年版 犯罪白書』(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_3_2_1_0.html)より引用。

図3からは、具体的に非行少年たちがどのようなプロセスを経ているのか、その規模とともに把握することができる。

加えて、もうひとつ注目したいのは、再非行少年率の推移である。

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図4. 少年の一般刑法犯 検挙人員中の再非行少年の人員・再非行少年率の推移。『平成27年版 犯罪白書』(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_4_1_5_1.html)より引用。

すでに、検挙人員自体は大幅に減少していること、少年犯罪比率も低下していることは指摘したが、図4は、再非行少年数は減少傾向にあるが、検挙人員に占める再非行少年の率、つまり再非行少年率はゆるやかに右肩上がりのトレンドにあることを示している。社会はこうした少年たちを十分に受け入れられているとはいえない状況を示唆する。『平成27年版犯罪白書』は、最後に「総合的な働き掛けの重要性」の重要性に言及している。少年院などの施設のみならず、社会のなかの多様なステイクホルダーの連携、居場所(帰住先)、就労先と就労支援の重要性などに言及されている。そもそもこうした問題について学ぶ機会は多くはない。

このエントリ執筆中に、下記の2015年の訓令を偶然見つけた。

「1. 少年院及び少年鑑別所の参観に関する訓令(平成27年法務省矯総訓第3号大臣訓令)」

http://www.moj.go.jp/content/001151828.pdf

学術目的、支援目的などでの少年院、少年鑑別所の参観(視察?)を促す文面のように見える。

投票年齢引き下げ、いわゆる18歳選挙権に関連して、茨城農芸学院でも、不在者投票を行うなどの取り組みを行ったようだ。もしかすると、少年たちが社会理解と社会参加の方法を経験的に、そして実践しながら学ぶ、新しいアプローチのひとつなのだろうか。

茨城の少年院で不在者投票 18歳「緊張した」 | 沖縄タイムス+プラス

http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=177139

筆者はむろん当該問題の専門家ではない。それでも工藤さん、井村さん、小山院長らのご尽力がきっかけで、この問題に一瞬、近づくことになった。研究者や大学教員ができること、筆者個人ができること、大学ができることというのも、未だまったくといっていいほどわからないが、見聞きしたことと、帰ってから調べたことをさしあたりエントリにまとめることはできると思い、やや時間が経過したが執筆してみた次第である。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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