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「制裁金400億円かサービス停止か」EUがマスク氏に突き付けた”膨大な宿題”とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
「制裁金400億円かサービス停止か」EUがマスク氏に"膨大な宿題"を突き付ける(写真:ロイター/アフロ)

「制裁金400億円かサービス停止か」。欧州連合(EU)が、ツイッターを率いるイーロン・マスク氏への警告とともに、”膨大な宿題”を突き付けている。

EUの行政機関、欧州委員会委員のティエリー・ブルトン氏は11月30日、ツイッターCEOのイーロン・マスク氏とオンライン会談を行い、発効されたばかりのEUの違法・有害情報対策法「デジタルサービス法(DSA)」順守のための取り組みを要求。違反の場合には巨額の制裁金やサービス停止もありうると警告した。

米財務長官、ジャネット・イエレン氏も同日、ツイッターについて「ある種のコントロールは必要」との考えを示した。

マスク氏はツイッター買収からの1カ月で、フェイクニュース氾濫に対するコンテンツ管理強化の潮流に、逆ねじを食わせるかのような振る舞いを続ける。

これまでツイッターが取り組んできた新型コロナに関するコンテンツ管理ポリシーについても、11月23日付で停止も表明。ポリシー違反で停止されたアカウントの「恩赦」も明らかにしている。

だが、「デジタルサービス法」などプラットフォームを取り巻く規制の枠組みに、どこまでマスク流の逆回転を続けることができるのか。

「ツイッター2.0」と呼ぶマスク氏買収後のツイッターの、おぼつかない足元に注目が集まっている。

●マストドンに記された”宿題”

ツイッターは透明性のある利用規約を実装し、コンテンツ管理を大幅に強化し、言論の自由を保護し、偽情報に断固として取り組み、ターゲット広告を制限する必要がある。この先、なお膨大な作業があることを明確にしておく。

欧州委員会委員(域内市場担当)のティエリー・ブルトン氏は11月30日夜、イーロン・マスク氏とのオンライン会談後に、マストドンに投稿し、そう指摘している。

ブルトン氏はまず、マスク氏とのオンライン会談を動画付きでツイッターに投稿。続けて「詳細は#マストドンで」と記し、混迷するツイッターからのユーザーの"避難先"とも言われるオープンソースのソーシャルメディアシステム、マストドンの投稿へ誘導している。

ブルトン氏は「DSAチェックリスト」と題したマストドンへの連続投稿で、①コンテンツ管理と言論の自由の強化偽情報への取り組み透明性ポリシーの実装ターゲット広告の制限広範な外部監査への対応、の5項目にそれぞれ2~3点、計14のチェックポイントを提示。

”膨大な作業”としての宿題の、1つひとつの実行を、マスク氏に迫っている。

マスク氏への念押しとも言える発信をわざわざソーシャルメディア上に、しかもあえてツイッター混迷の影響を受けないマストドンで行うところに、ブルトン氏の警戒感がにじむ。

マスク氏によるツイッター買収の動きが表面化した4月、EUはマストドンの独自サーバーを立ち上げていた。

フィナンシャル・タイムズによれば、11月30日のオンライン会談でブルトン氏はマスク氏に対し、停止アカウントの復活のようなことは止めるよう求め、「デジタルサービス法」に違反した場合、アクセス制限や最大6%の制裁金に直面する可能性があることを繰り返し警告。

マスク氏はこれに対して「デジタルサービス法」は「極めて理にかなっている」と繰り返し発言したという。

またロイター通信などによれば、ブルトン氏とマスク氏は、年明け早々に、ツイッター本社において、EUの規制への順守状況を確認するための「ストレステスト(健全性審査)」を実施することで合意した、という。

デジタルサービス法」は11月16日に発効したばかりだ。そして、大きな試金石として注目を集めているのが、マスク氏率いるツイッターが、同法が義務付ける項目を順守できるかどうか、という点だ。

「デジタルサービス法」は、業界の自主規制ガイドライン「偽情報に対する強化された行動規範2022」と連動する規制の枠組みだ。

ツイッターはこの「行動規範」順守に署名した33の団体の1つとして、グーグルやメタ、マイクロソフトなどとともに名を連ねている。

「デジタルサービス法」では制裁金として最大でグローバルの売り上げの6%を科される可能性があり、悪質な違反に対してはサービスへの一時的なアクセス制限を命じることもできる。ツイッターの2021年の売り上げは50億7,700万ドルで、6%の制裁金は3億500万ドル(約416億円)に上る。

ただ、マスク氏がブルトン氏に示す「デジタルサービス法」順守の姿勢と、現実のツイッターの変化には大きな隔たりがある。

ツイッターの公式ブログは11月30日付で、「ツイッター2.0: 公共の会話への継続的な取り組み」と題した投稿で、「同社のポリシーは一切変更されていない」と述べる。

だが同社の動きは、まったく別の現実を示している。

●相次ぐツイッターの逆回転

2022年11月23日をもって、ツイッターは新型コロナの誤解を招く情報に関するポリシーを実施しなくなりました。

ツイッターの透明性レポートの新型コロナのページには、新型コロナ関連の誤情報対策の「終了」を宣言するメモが追加されていた。

同レポートによれば、新型コロナ関連の対策では、2020年1月以来、2022年9月までに1,172万件のアカウントに対処し、1万1,230件のアカウントを停止、9万7,674件のコンテンツを削除した、としている。

マスク氏は以前から、新型コロナ対策やワクチン接種に否定的な見解を公言してきた。

またマスク氏は11月24日に、これまで停止してきたアカウントの「恩赦」を実施すると投稿している。

これに先立つ11月19日には、2021年1月の米連邦議会議事堂乱入事件を受けて永久停止となっていたドナルド・トランプ前米大統領のアカウントを復活させた

※参照:680日ぶりのトランプ氏Twitter復活、広告主・社員の離反で「イーロン・リスク」の行方は?(11/20/2022 新聞紙学的

マスク氏はツイッター買収直後に「鳥は放たれた」とツイートしている。これに対してブルトン氏は、返信の形で「欧州では、鳥は欧州のルールで飛ぶことになる」とクギを刺した

その後、マスク氏は欧州委員会に対して「デジタルサービス法」の順守を確約している。その結果が、この一連の逆回転だ。

ブルトン氏の停止アカウント復活への苦言も、これらの動きを受けたものだ。

さらにツイッターの態勢は、7,500人いた社員の半減を始め、主要幹部の相次ぐ辞任など、「デジタルサービス法」順守とは逆方向を突き進む。

「デジタルサービス法」発効直前の11月10日には、ツイッターの最高情報セキュリティ責任者(CSIO)、リア・キスナー氏、最高プライバシー責任者(CPO)、ダミアン・キエラン氏、さらに最高コンプライアンス責任者(CCO)、マリアンヌ・フォガティ氏、さらに偽情報対策の中心にいた信頼・安全責任者、ヨエル・ロス氏らの辞任が明らかになった

フィナンシャル・タイムズによれば、ツイッターはEU本部のあるブリュッセルのオフィスも閉鎖したという。

●米財務長官「コントロールは必要」

アップルがコンテンツに注目しているのであれば、それは良いことだと思う。ほとんどの放送局は、公衆に何を放送するかという点で基準を課せられている。そして、ツイッターは放送局とさほどの違いはない。

ロイター通信などによれば、米財務長官、ジャネット・イエレン氏は11月30日に行われたニューヨーク・タイムズのイベントの壇上で、そう述べたという。話題の焦点は、マスク氏が「アップルがアプリストアからツイッターを排除しようとしている」などとツイート続けていた騒ぎだ。

イエレン氏は、グーグルやアップルが一定のコンテンツの基準を要求することは適切であるとし、「ある種のコントロールは必要だと思う」とコメントしたという。

ツイッターを辞任したヨエル・ロス氏は11月18日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「ツイッターは、新オーナーの目標と、アップルのインターネットとグーグルのインターネットで生きていくという現実とのバランスを取る必要がある」と指摘。両社のアプリ審査チームから、すでに問い合わせが入っていたことを明らかにしていた。

ただマスク氏はイエレン氏のコメントがあったのと同じ11月30日、アップル本社でCEOのティム・クック氏と会談し、アプリ排除の懸念は「誤解」だったことがわかった、とツイートしている

イエレン氏はニューヨーク・タイムズのイベントで、マスク氏に別の矛先を向けるこんな発言もしていた。

(財務省の対米外国投資委員会[CFIUS]は)外国人が米国への投資に関わる取引の場合、国家安全保障上のリスクを生じないかどうかを調べることになる。

焦点は、マスク氏のツイッター買収にあたって、サウジアラビア王子、アルワリード・ビン・タラル氏が約4%の株式を保有し、マスク氏に次ぐ大株主となっていることだ。

これに対して民主党上院議員のクリス・マーフィー氏らは、米国の国家安全保障上の懸念があるとして、財務省の対米外国投資委員会に調査を要求していた。

イエレン氏は、以前のCBSニュースとのインタビューで、調査には「根拠がない」と否定的な見方をしていたが、今回のイベントではこの発言について「言い間違えた」と方針転換。

さらに、ツイッターを調査対象とするかどうかは明言しなかったものの、「そのようなリスクがある場合、財務省が調査するのが適切だろう」と述べたという。

ツイッターの混乱をめぐっては、すでに米連邦取引委員会(FTC)も「深い懸念を持ってツイッターの動向を注視している」との声明を出している。

●広がる現実との乖離

マスク氏がツイッターで次々と打ち出す逆回転の方針表明は、その1つひとつを押しとどめる動きもないまま、既成事実として積み重なっている。

だが現実は、誤情報・偽情報対策強化に向けて大きく動きだしている。その背景にあるのは、ネットを安全・安心に使いたいという民主主義社会の要請だ。

だからこそ、マスク氏によるツイッター買収の動きが表面化した今春以降、欧州など各国から懸念の声が上がり続けていた。

※参照:「マスク氏、Twitter買収」でフェイク拡散へ迷走?各国が懸念する本当の理由(04/28/2022 新聞紙学的

マスク氏率いるツイッターの動きは、この現実とますます乖離を続けている。

ブルトン氏からの”宿題”を、マスク氏は提出することができるのだろうか。

(※2022年12月2日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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