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“日本の半分以下”でパリ五輪戦う韓国は史上最弱か…エリートスポーツの命運を握るワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ウ・サンヒョク(写真:ロイター/アフロ)

パリ五輪が開幕した。7月27日(日本時間)にフランス・パリのセーヌ川で行われた開会式を皮切りに、17日間の熱戦に突入する。

五輪は世界の人々の“祝祭”と呼ばれるが、韓国では今ひとつパリ五輪への関心が高まらない。知り合いの記者やスポーツ関係者たちの口からは「パリ五輪で韓国エリートスポーツの危機が露わになる」と嘆きまで聞こえてくる。

韓国は今回、パリ五輪で21競技に出場し、選手・スタッフ合計260人を派遣した。

そのうち、選手は143人だ。1976年モントリオール五輪(50人)以降では最小の規模だ。

40年ぶりに五輪出場に失敗した男子サッカーをはじめ、男女バレー、男子バスケなど、団体球技種目が軒並み本大会行きの切符を逃したことが大きく響いた。

(参考記事:韓国、パリ五輪の団体球技種目「ほぼ全滅」の衝撃…本大会出場は「女子ハンドボール」が唯一

海外開催の五輪では、史上最多の選手409人が出場する日本の半分以下である。

パリ五輪が“韓国エリートスポーツ”の命運を分ける?

1984年ロサンゼルス五輪で金メダル6個を獲得した韓国は、前回の2021年東京五輪まで、最低でも一大会につき6個以上の金メダルを獲得してきた。

2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪では13個ずつ獲得し、史上最多記録を打ち立てた。

だが、ロンドン五輪以降は下落傾向にある。

特に、前回の東京五輪では不振を極め、21年ぶりにメダルランキングでトップ10を外れた。韓国は金メダル6個、銀メダル4個、銅メダル10個の計20個で16位だった。

ちなみに、開催国の日本は金27個、銀14個、銅17個の計58個で3位だった。

大韓体育会は今回、パリ五輪の目標を「金メダル5個以上、メダルランキング15位以上」と掲げた。金メダル獲得数が1個の実だった1976年モントリオール五輪以降では、最も少ない数値を目標に掲げたのだ。

実際、近年の韓国スポーツは五輪だけでなくアジア大会でも不振だ。2018年のジャカルタ・アジア大会では、メダルランキングで24年ぶりに2位の座を日本に奪われた。

直近の2023年杭州アジア大会も、中国、日本に次ぐメダルランキング3位に満足しなければならなかった。

韓国選手団のパリ五輪目標を、一部の人は「目標をあまりにも保守的に設定した」と指摘する。

アメリカのデータ分析企業「Gracenote(グレースノート)」は23日、「韓国は金メダル9個、銀メダル4個、銅メダル13個を獲得し、総合順位10位に上がるだろう」と展望した。

凋落は簡単でも、再起することは難しい。韓国としては、今回の五輪を確実な巻き返しの契機にしたいところだろう。そうしてこそ、エリートスポーツ危機を正面から突破することができるからだ。

ただ、韓国スポーツの今後の先行きは厳しい。

そもそも、出生率が毎年減少を続ける影響もあり、選手を輩出する時点から問題がある。エリートスポーツを支える学校の運動部が、いつにも増して厳しい環境に置かれている。

そのうえ、大韓体育会と政府の文化体育観光部は対立している。例年の五輪と比べても盛り上がりに欠ける。まさに“慌ただしい”状況というわけだ。

それでも、試合を戦う選手は黙々と練習に集中してきた。その成果を発揮するため、パリに向かった。

大韓体育会は、パリ郊外のフォンテーヌブローに直前練習のためのキャンプ地と給食支援センターを合わせた「チームコリア・パリ・プラットフォーム」を設け、選手をサポートしている。

残酷な話だが、今回のパリ五輪で結果を残せなければ、韓国のエリートスポーツはさらに窮地に追い込まれるかもしれない。

かといって、ただ悲観的なだけではない。以前と比べて明確に良くなった部分も存在する。

まず、出場選手が少ないからといって、必然的にメダル数も少なくなるわけではない。

サッカーやバスケ、バレーなどの人気球技種目は、競技のメジャーさから国民の関心を大きく得られるが、韓国の球技スポーツはメダルが確実視されるレベルではない。メダル獲得戦線において、多大な影響を及ぼす種目ではないという意味だ。

そのため、メダル獲得が可能な種目が多様になったのが好材料だ。

今や“ワールドクラス・ジャンパー”の一人と呼ばれる男子走り高跳びのウ・サンヒョク(28)は、韓国の陸上トラック&フィールド史上初のメダルを狙う。

東京五輪で史上初のメダルを獲得した近代五種は今回、複数個のメダル獲得に挑む。同種目の出場選手4人全員が、いずれもメダル圏内に入る競争力を持っているとして前評判も高い。

さら目標通り、アーチェリーで3個、フェンシングで2個以上の金メダルを獲得することが韓国にとってはベストシナリオか。

ここにバドミントン女子のアン・セヨン(22)、競泳男子のファン・ソンウ(21)やキム・ウミン(22)、柔道やテコンドーなどで金メダルが出れば、韓国のパリ五輪熱は一気に盛り上がるだろう。

決戦の日はやってきた。パリ五輪が韓国エリートスポーツの危機をより強めるのではなく、新たなスタートの舞台になることを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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