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【全日本卓球】パリ五輪候補の平野美宇・張本美和が敗れた ダブルス特有の難しさとは

伊藤条太卓球コラムニスト
平野美宇(左)、張本美和ペア(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

25日に行われた全日本卓球選手権大会の女子ダブルス5回戦で、パリ五輪の有力候補である平野美宇・張本美和ペアが、麻生麗名・笹尾明日香ペアにフルゲームの末に敗れた。序盤から2ゲームを先行され、そこから追いつき、最終ゲームは10-8とゲームポイントを奪ったが、そこから手痛い逆転負けを喫した。

麻生麗名(左)、笹尾明日香ペア
麻生麗名(左)、笹尾明日香ペア写真:長田洋平/アフロスポーツ

麻生・笹尾ペアが強かったからと言えばそれまでだが、それにしても平野・張本は誰もが認めるパリ五輪の有力候補選手である。シングルスとは違うとはいえ、基礎となる打球技術は同じなのだから、5連覇中の早田ひな・伊藤美誠ペアが出場しない今大会であれば、優勝候補と見る人も多かったはずだ。

平野は試合後の記者会見で、「ペア歴も浅いので最初からエンジンをかけられなかった」ことを敗因として挙げた。パリ五輪シングルス代表枠を狙う平野が、ダブルスの練習に時間を割けなかったのは当然であろう。

卓球はテニスやバドミントンと違い、ダブルスでは必ずペアが交互に打たなくてはならない。これがダブルス特有の難しさを生む。

お互いに打ったらパートナーのために場所を空けなくてはならないのは誰が見てもわかることだが、一般の方々に知られていないのがコース取りである。シングルスでは、自分が大きく動かなくてよいように、できるだけ自分の近くにボールが返ってくるようにコース取りをする。具体的にはクロス(卓球台の対角線のコース)が基本となる。

クロスに打てば、相手が自分を動かそうとしてストレート(卓球台と平行なコース)に打ってきても、それほど遠くには来ない。逆に、自分がストレートに打つと、相手がクロスに打ち返して来た場合は、卓球台の外にまで大きく動かされるし、角よりも外側の「サイドラインを横切るコース」にまで打たれる可能性がある。

こうした原理で、シングルスではクロスに打つのが定石としてある。もちろん実際には、相手の位置や打球の威力、駆け引きなどによって、この定石は崩されるが、大前提としてそうした原理が存在している。

ところがダブルスではこれが逆になる。ダブルスでは自分が打った後の次のボールはパートナーが打つので、シングルスとは逆に、自分から遠いところ、すなわちパートナーがいるところにボールが返ってくるように打たなければならないのである。自分がいるところに返ってきたらよけなくてはならず、不利を招くのだ。

つまりシングルスとは逆にダブルスではストレートコースの頻度を多くする必要があるのだ。

筆者作成
筆者作成

ところがこのコース取りは容易には変えられない。トップ選手ともなると、相手が打ってから自分が打つまでの時間は、短い場合には0.2秒程度しかない。これは人間の反応時間の限界である。すなわち、ほとんど無意識のレベルの条件反射で打ち返さなくてはならない。そのために選手たちは、ある局面において、どこに打てば得点の期待値が最大になるのかを膨大な練習によって身体に染み込ませているのである。

こうした事情があるので、ダブルスの練習が少ない場合には、ついシングルスのコース取りが出てしまうことがあるのだ。これがダブルスの数ある難しさのうちのひとつだ。

今回の平野・張本ペアの敗戦の原因がコース取りにあったかどうかはわからないが、一般論としてダブルスにはそのような難しさがあるのである。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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