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J開幕直前!主役となる新人の条件

小宮良之スポーツライター・小説家
リオ五輪出場を決めたルーキーたち。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

2月27日に開幕するJリーグ(J2は28日)は、ルーキーの台頭が望まれている。Uー23日本代表はリオ五輪出場を決めたが、世界と伍するには安穏としていられない。はたして、日本サッカーを担うような逸材は現れるのか?

Jリーグは依然として、ベテラン選手が主役の座を譲っていない。大久保嘉人(川崎フロンターレ)は今年で34才になるが、4年連続得点王のタイトルに挑む。各クラブの顔と言える選手も、遠藤保仁(ガンバ大阪)、佐藤寿人(サンフレッチェ広島)、阿部勇樹(浦和レッズ)、楢崎正剛(名古屋グランパス)らベテラン勢が並ぶ。十分な新陳代謝が起こっているとは言えない。

では、若手の実力が足りないのか?

「昨年はいくつかJリーグの試合を見たが、一番スペインに連れ戻りたいと思ったのは、柏レイソルの小林祐介だ。スキルの高さは魅力だが、それ以上にベーシックな戦術的理解度が高い。(21才という)年齢を考えれば、大化けできる」

そう証言していたのは、リーガエスパニョーラのレアル・ソシエダで20年近く、強化部長や育成部長などを歴任したミケル・エチャリである。スカウトの名伯楽が注目する若手もいる。人材がいないわけではない。

おそらく、問われるのは「覚悟」だ。

ベテラン選手の強みとはなにか?

それは、戦闘者として分厚さを拵えていることだろう。様々な場数を経験することで、状況に対応する術を身につけている。それは懐の深さ、柔軟性と言っても良く、悪い状況を凌ぐ、対応力にも通じる。

若手選手がそうした経験を持った選手と互角に戦うには、勢いも含めた渾身の覚悟が必要になるだろう。

例えば日本代表の主軸になっている選手に、若くして越境している選手が多い。本田圭佑、長友佑都、香川真司、大久保嘉人らは高校年代で生まれ故郷を飛び出している。新天地に飛び込む、それは覚悟のいることだろう。リオ世代の南野拓実や久保裕也も、欧州のクラブに移籍することで逞しさを増した。未知の世界に挑むことは、自らと対話し、成長することを求められるのだろう。

その点では、期限付き移籍もその一つかもしれない。

「期限付き移籍しても、失敗する確率の方が高いことは、過去のデータからも立証されている」とも言われる。たしかに、期限付き移籍し、そのまま沈んでしまう若手選手も少なくない。しかし試合にも出ず、クラブで安穏としていても“座して死を待つのみ”だろう。自分で自分を追い込むような戦いが、プロ選手は必要で、その勝利者しか、結局はプロの壁を破れない。

「マリノスから出るのは一つの賭けでした」

ブラジルW杯日本代表の齋藤学(横浜F・マリノス、25歳)はそう告白している。2010年シーズン終了後だった。彼はJ2愛媛FCへの期限付き移籍を志願している。

「試合に出る必要を強く感じていたし、そのために愛媛を選んだんですが、もし愛媛で出られなかったりしたら、帰るところはなくなりますからね。マリノスでアウトになるのと、愛媛でアウトになるのは全然違います。自分自身でもリスクは感じましたし、親はすごく心配していました。でも、そのままではずるずる行きそうだったし、まずは自分から積極的に動く必要を感じました。

他からも誘いはあったんですが、愛媛の強化部長の『ユースのときから君のことを注目してきた』という言葉は大きかったですね。『前で勝負して欲しい。点が取れる選手だから』と言われ、覚悟を決めました」

愛媛の選手としてJリーグ初得点を記録したときだった。齋藤は一心不乱に敵チームのフラッグが揺られる方向に走っている。どうしたらいいのか、頭では分からなかったが、気持ちの高揚だけは抑えきれなかったという。そしてゴールの咆吼をスタンドに向かってあげた。そのとき、齋藤は“プロサッカー選手になった”のだろう。

ドーハで行われたリオ五輪最終予選、イラン戦で決勝点を決めた豊川雄太は鹿島アントラーズからJ2ファジアーノ岡山に新天地を求める。背水の気概で1シーズンを戦ったとき、その道は開かれるかもしれない。一方、高いレベルのクラブへの移籍を選んだ遠藤航(浦和レッズ)、原川力(川崎フロンターレ)、三竿健斗(鹿島アントラーズ)、前田直輝(横浜)のようなリオ世代もいる。

無論、移籍でチームを代えなくても、所属するクラブでチームを引っ張る決意を見せられるなら、その方が効率的だろう。FC東京の橋本拳人、サガン鳥栖の鎌田大地、アルビレックス新潟の松原健、柏レイソルの中村航輔らは技術・戦術的に卓抜したセンスを持っている。発奮次第で、2014年から15年にかけて武藤嘉紀が見せたような飛躍も不可能ではない。

「Jリーグに半年出ただけで、武藤は海外を視野に入れていた」と関係者が洩らすように、それは焦りでも驕りでもなく、野心、そして覚悟と捉えるべきだろう。

ベテランが健闘していることは間違いない。しかし若手の猛烈な台頭がない限り、Jリーグは衰退するだろう。今年は日本サッカーにとって、大きなターニングポイントになる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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