欧米で賛否両論!レイプされた女性が自ら犯人探しに乗り出す「ELLE(原題)」の衝撃度!!
以前、このブログでも紹介したイザベル・ユペールが主演する「ELLE(原題)」の日本公開が今夏に決定した。既報の通り、ユペールは本作の演技で今年のゴールデン・グローブ賞主演女優賞に輝き、アカデミー賞では「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンに惜しくも敗れたものの、ヨーロッパのみならずハリウッドでも演技に対する評価と女優としての認知度を一気にアップさせた形だ。
主演女優を探してクルーはアメリカからフランスへ
そもそも、この「ELLE」。映画化までの道のりは極めて険しかった。なぜなら、何者かにレイプされたヒロインが自ら犯人探しに乗り出すという物語があまりに反道徳的であることから、当初製作陣が撮影を望んでいたハリウッドでは勇気を持って手を上げる女優が現れなかったからだ。要するに、同作の監督、ポール・ヴァーホーベンがかつて放った「氷の微笑」(92)の時のシャロン・ストーンに匹敵するチャレンジャーは、今のアメリカ映画界にはいなかったわけだ。そんな時、ユペールが脚本に興味を持っていることが分かり、撮影クルーは彼女が住むフランスでようやくクランクインを迎えることになる。
しかし、「ELLE」でユペールが挑戦したリスキーな演技は「氷の微笑」でストーンが演じた"ノーパン足組み替え"シーンどころの話ではない。映画の冒頭で家に乱入してきた暴漢に乱暴されたヒロインのミシェルは、平然と散らかった部屋を掃除し、風呂に入って流血し汚れた体を洗った後、警察に通報することなく、その後も度々事件のフラッシュバックを体験しながらも、平然とCEOを務めるゲーム会社に出勤し、若い部下に性的妄想を掻き立てるエロチックでバイオレントなゲーム制作の指示を出し続けるのだ。問題のレイプシーンを筆頭に、ユペールが女優としてほぼすべてをさらけ出して事実を忠実に表現していることは言うまでもない。決して若くはないけれど、長年カメラと対峙してきた結果なのか、贅肉が削ぎ落ちた63歳の美しく枯れた肉体を、不自然に隠すことなく。
映画が突き付ける何が正常で何が異常か?という問いかけ
劇中には文字で表すことは憚られる場面が他にも幾つかある。だが、物語が進むに連れて次第にこの映画の本質が露わになっていく。ミシェルは暴力に対して不感症にならざるを得ない過去のトラウマの持ち主であり、若いツバメとの再婚を考えている困った老母がいて、あろうことか親友の夫と不倫関係にあり、遊び人の息子に手を焼き、そして、レイプ事件の紛れもない被害者なのだ。つまり、一見モラルを逸脱しているように見えるミシェルの周辺を、ミシェルと同等に、または、自らの異常を自覚していない分もっと手強い自称・平常人たちが取り囲んでいるという視点が、本作の面白さ。「氷の微笑」等、アブノーマルな世界を舞台にしたエロチック・スリラーを描かせたら天下一品のポール・ヴァーホーベンにとって、これは久々の復帰作であることに疑う余地はない。それを実現させた立役者が、衝撃的なシーンを体当たりではなく、あえて事も無げに演じ続けることで異常と正常の境界線をあやふやにしてみせた主演女優、イザベル・ユペールの創造力なのだ。
賛否両論の問題作。果たして日本での評価は!?
去る5月のカンヌ映画祭でお披露目されて以降、メディアでは賛否両論を巻き起こした「ELLE」。否定的な意見を総括すると「レイプを肯定している」ということになるが、その他多くは概ね高評価だ。以下、ざっと挙げると、Rotten Tomatoesが90%(最高が100%)、imdbが7.3(10が満点)、イギリスの新聞The Telegraphが4つ星(5つ星が最高)、映画誌のEmpireが同じく4つ星、The Guardianが満点の5つ星。さて、日本ではどんな評価が下されるだろう!?
ELLE(原題)
夏、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ギャガ
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