感染者「0」の北朝鮮で党が”コロナ会議”を実施。金正恩氏「これまでの防疫を評価するが、気を緩めるな」
金正恩朝鮮労働党委員長が参加した”新型コロナ会議”が北朝鮮で開催された。
「朝鮮労働党中央委員会第7期第14回政治局拡大会」
7月2日に行われた会議での議題として、新型コロナへの対処が取り上げられた。翌日付の「労働新聞」がこれを報じている。
果たして感染の実態はどうなっているのか。当局は「感染者発生」を正式に発表していない。これに対し、「そんなことがあるわけはない」「中国と国境を接しているのに」「平壌では蔓延しているはず」「脱北者団体が260人死亡、5万人感染の資料を入手した」など様々な情報が飛ぶ。
筆者はそれを掘り下げる術は持たない。だからファクトが分かるところまでを徹底的に紹介する。該当記事全文訳から分かることは、北朝鮮は少なくとも公式的には「問題は自国には存在する」と認める立場だということだ。そこまではファクトだ。
「北朝鮮側の発表内容」を、多少の補足を加えながら紹介したい。今後の北朝鮮コロナ関連ニュース読解の一助となれば。
- 主体109(2020)年7月3日《労働新聞》
朝鮮労働党中央委員会第7期第14回政治局拡大会議進行
北朝鮮の報道では初出で国家最高指導者の肩書をすべて紹介する。また「労働新聞」本紙では、最高指導者の名前の途中で改行されることは決してなく、そのために行組のレイアウトが大きく崩れることがあるがお構いなしに大きく名前を入れる。ちなみに上記キャプチャはウェブ版の記事だが、「金正恩」の朝鮮文字が大きなフォントで記されている。
また、最後に「建設部門の労働者が傍聴」とあるが、これは社会主義国家として「労働者が主役」というスタンスを示すものだ。軍関連の会議だと軍人が傍聴することもある。
会議が行われた党中央委員会本部庁舎。今年4月12日の別件報道より。韓国メディア「TYN」アカウントより
一文が長いのは「本文ママ」だ。あしからず。
「労働新聞」の該当記事本文では、新型コロナを「悪性伝染病」と表現した。直接的な表現を避けた理由は明確ではないが、北側も「コロナ」の表現を用いないわけではない。「労働新聞」の別の記事では「新型コロナ」の表現が見える。ちなみに韓国では「新種コロナ」や「コロナ19」と表現されることが多いが、北では「新型」。さらに韓国では「Virus」を「バイロス」、北では「ビルス」と言う。
また、韓国の中央日報系のテレビ局「JTBC」が7月1日に「北朝鮮のコロナ関連情報が2ヶ月ぶりにアップデートされた」と報じた。アメリカの北朝鮮専門サイト「NK NEWS」が明らかにした北朝鮮側のデータ「感染者数0、隔離者255」の数値を紹介したのだ。WHOの平壌局長エドウィン・サルバドール氏が北朝鮮保健省の週間報告を基に伝えたものだという。255名に対し、感染者ではないのに隔離を行っている理由は不明だ。
北朝鮮内での発熱検査の状況を伝えつつ、上記ニュースを紹介するJTBC。
記事は、最高指導者のより詳しい指示内容へと続いていく。
太字部分は原文のままだ。「ここまでは悪くはないから引き締めるな」「これからも取り組んでいく」といった点を太字にして強調している。「労働新聞」に最初に「コロナ」の文字が掲載されたのが今年1月26日。「コロナを防ごう」という見出しで記事が出た。そこから約6ヶ月の”成果”を国家のボスが評価するという意味合いだった。
ちなみに北朝鮮には、ウイルス対策法「朝鮮民主主義人民共和国 伝染病予防法」があり、隔離や予防法について厳密な取り決めがある。1999年に最高人民会議常設会議の第100号決定として採択され、これまで4度修正や補充されている。韓国側が把握している最新の修正補充の日付は2015年1月7日だ。この法については追って紹介したい。
記事は最後の段落へ続く。
最後のくだりは、新型コロナ以外の議題の紹介となった。今年3月17日に着工した平壌総合病院については、韓国側では「経済制裁のうえに新型コロナのために中朝国境が封鎖されるなか、工事は容易ではない」との見方もある。ちなみに「大型工事の”速度戦”」というのは北朝鮮が対外に自らの体制をアピールする重要なポイントとなっている。中国発の「高麗航空」の機内での映像では、国内の建築物を紹介しつつ「何日で工事を終わらせた」という点を丹念に紹介するものもある。
新型コロナ感染状況の正確なデータは出てこない。「上手くやっている」というアピールと、引き続きの警戒は内外に示した、という記事だった。韓国側がポイントとした点は、金正恩委員長が公式に新型コロナに言及した点と、「この会議で南北関係への言及がなかった」という点だった。