「萩焼まつり」に見る産業振興催事のあり方
山口県萩市は「萩焼」の産地だ。萩焼は茶道の世界に一楽二萩三唐津という言葉があるほど評価が高い焼物で、400年の歴史がある。貫入(かんにゅう)と呼ばれるひびに茶や酒がしみて変化するのが特徴で、萩焼事業者は市内だけでも約100社ある。
そんな萩焼の魅力を発信する「萩焼まつり」が91年から毎年、春の大型連休に開催されてきた。19年は4万人以上を集客し約4500万円を売り上げた催事だが、20年は新型コロナウィルス感染症拡大を受け初めて中止に追い込まれた。観光客も激減する中、窯元や小売業者をどう支援するか。萩焼関連事業者や萩商工会議所から成る萩焼まつり実行委員会は、20年2月に新規オープンした萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)にも協力をあおぎ、まつりの開催方法について全員で知恵を絞った。
従来の様に1カ所の会場に大勢の人を集める事はできない。20年はネット開催に踏み切った。萩焼の魅力をいかにより多くの人達にわかりやすく伝えるか、インフルエンサーの活用やインスタライブ、作品プレゼンテーションの工夫など、考えうる手段は講じ、全国の800人以上に計約2500点を販売した。認知度向上は達成したがネット活用に慣れない事業者も多いとわかった。
そこではぎビズは、21年からはネット販売に加え、市内全域を萩焼まつり会場とし来場者に周遊してもらう形を提案した。点在する窯元や小売店の場所を記した地図も作り、期間中一斉に販促イベントを実施した。アクセスの悪い窯元や小売店があったので、22年にはそれらの事業所の作品等を集めた小規模会場を設置したほか、萩焼の知識がある萩商工会議所や萩市役所の担当者、はぎビズの獅子野美沙子センター長などが「萩焼コンシェルジュ」となり、来場者の要望に合う窯元や小売店を紹介し周遊を助け、顧客と出店者から好評を博した。
市内周遊型の開催が板についてくると食事場所がわかりづらいという声が目立った。そこで23年には飲食店協同組合に協力をあおぎ、萩焼の器で食事ができる店も地図に盛り込んだ。その結果、コロナ前を上回る58の窯元や小売店が参画し、総売り上げは約3800万円に上った。
催事の本来の目的は何か
3年以上にわたる試行錯誤を経て、いま関係者には地域のより多くの事業者が潤う開催方法を確認しあえたという手ごたえがある。また23年は、高名な窯元が参画してくれた事が大きなインパクトをもって受け止められたという。割引販売を慣例とせず、「作品の魅力を高める陳列方法や求める顧客との出会いに重点を置いたことで、作家の思いに寄り添った催事に進化させられたのかもしれない」と彼らは考えている。
名の知れた地場産業を持つ地域は、その活性化のために行政等が主体となり催事を行うことが多い。本来はその産業の価値を明確に伝えファンを増やし売り上げにつなげるのが目的なのに、イベント色が強くなり、またどれだけ集客するかに集中するあまり、催事の内容が目的から遠ざかる傾向がある。萩のケースはコロナ禍という厳しい環境の中で出しあったアイデアが、そうした課題の解決も導き出した好事例だと思う。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)470号 2023年10月16日号 P27 企業支援の新潮流 連載第7回より】