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「バスケ日本代表の引き立て役になる」とも。韓国メディアの展望。選手から大谷翔平の名言も出たが…

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
バスケ男子韓国代表と対戦するバスケ男子日本代表(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

7月26日から始まるパリ五輪に向けて、着々と準備を進めるバスケットボール男子日本代表。本日7月5日と7月7日には強化試合として韓国代表と対戦する。

スター選手は女性スキャンダルに

パリ五輪に向けた国内最後の強化試合となるだけに何かと注目が集まるが、一方のバスケ韓国代表のほうは明るいニュースは少ない。最近で話題になっているのはKBL(韓国プロバスケットボールリーグ)の2023-2024年シーズンのプレーオフMVPに輝いたSGホ・ウンの女性スキャンダルだ。

ホ・ウンは、韓国バスケ界のレジェンドで「バスケ大統領」と呼ばれたホ・ジェの長男。幼き頃から大衆に知られ愛されたサラブレッドで、2016年から韓国代表としても活躍。昨季は所属する釜山KCCイージスを優勝に導く原動力になったが、先月6月に元恋人とのドロ沼訴訟合戦がスタート。プライベートが騒がしく、代表に呼ばれるどころか公にも姿を見せられない雲隠れ状態だ。

このホ・ウンもさることなとがら、今回のチームにはこれまでバスケ韓国代表の主軸を担ってきた選手は少ない。

2018年から帰化選手としてチームの主力を務めてきたラ・ゴンア(35)をはじめ、キム・ジョンギュ(33、原州DBプロミ)、イ・スンヒョン(32、釜山KCCイージス)、キム・ソンヒョン(36、ソウルSKナイツ)、イ・デソン(34、ソウル三星サンダース)など、代表を長年支えてきたベテランはいない。

今回のチームの平均年齢は24歳。『スポーツソウル』のバスケ担当によれば、韓国の男子バスケ史上最も若いチームだという。

相次ぐ不振と日本戦の敗北ショック

「そんなこともあって今回のバスケ韓日戦の関心はさほど大きくありません。というよりも、近年はバスケ韓国代表に寄せる期待と関心すら落ちているというが正直なところです」(『スポーツソウル』バスケ担当)

そもそも近年の韓国バスケは不振続きだ。

2022年のFIBAアジアカップではベスト8敗退。名誉挽回と兵役対象選手の「免除=金メダル」を目指し挑んだ2023年アジア大会でも、準々決勝で中国に敗れて5位〜8位決定戦に回り、7位に終わった。2006年ドーハ大会以来続けてきたメダル獲得が潰えただけに国内メディアは厳しかった。

特に日本との試合結果には辛辣。当時の日本はパリ五輪出場がかかったW杯を戦った主力選手たちが不在の若手チームだったのが、KBLの精鋭たちで構成させれ韓国は苦杯を舐めた。『スポーツソウル』でもこう報じたほどだ。

「最精鋭ではなく実質2陣クラスで構成された日本に痛恨の敗北を喫した。それも試合を通して日本にリードを許し続けたことも衝撃的だった。日本はスペーシングをベースにしたバスケを展開した。豊富な運動量でダイナミックなプレーを展開し、3点シュートを武器に世界の舞台でも高さの劣勢を克服している。これに対処できなかった韓国は、ベストメンバーを送らなかった日本相手にもひざまずくしかなかった。日本戦の敗北により、韓国は世界のトレンドから出遅れた“古いバスケ”をしているという認識を打ち消すことができなかった」

新指揮官は68歳。韓国の“古いバスケ”を変えられるか

このアジア大会を最後に、それまで韓国代表を率いていたチュ・イルスン監督(韓国バスケ界では監督=ヘッドコーチ)は退任。今年1月からチームの立て直しを任されたのが、アン・ジュンホ監督だ。

韓国バスケットボール連盟の専務理事や慶煕(キョンヒ)大学のスポーツ指導者学科の教授も歴任した人物だが、現場復帰は2011年以来13年ぶり。

2月から始まったFIBAアジアカップ予選では、オーストラリアに逆転負けするも内容面での評価は高く、タイ戦では完勝してまずまずの評価も得ているが、「今年で68歳になる1956年生まれの指揮官が刻々と変化する現代バスケの流れを掴み対抗できるか未知数だ」(『ソウル新聞』)という懸念がつきまとっているというの正直なところだろう。

ただ、今回選ばれた選手たちの若さとエネルギーには期待したい。そう報じているのはネットメディア『OSEN』だ。今回の一戦のため来日している『OSEN』のバスケ担当記者は報じている。

若くて明るいが、「日本の引き立て役に転落するか」

「“MZ世代”が多く代表内の雰囲気は若く、明るくなった。特に、イ・ジョンヒョン(25、高陽ソノ・スカイガンナーズ)やハ・ユンギ(25、水原KTソニックブーム)、ヤン・ジェミン(25、仙台89ERS)、イ・ウソク(24、蔚山現代モービスフィバス)など1999年生まれの選手が主軸だ。ユース時代から世代別代表で10年以上も連携を深めてきた彼らが、いよいよ韓国代表で中心選手になるかもしれない」

もっとも、若さはあっても経験は乏しく、イ・ウォンソク(24、ソウル三星サンダース)、イ・ドゥウォン(23、水原KTソニックブーム)、ユ・ギサン(23、昌原LGセイカーズ)、パク・イヌン(23、原州DBプロミ)など韓国代表初選出の選手も多い。

それだけに『スポーツソウル日本版』も、「韓国代表に選ばれた選手たちが、アウェイ東京でパリ五輪出場を控えた日本代表の“引き立て役”に転落するのではないかという懸念の声も、国内では一部から挙がっている」と心配する。

(参考記事:八村&渡邊合流のバスケ日本代表に韓国メディア注目も、「“引き立て役”に転落か」と自国を嘆くワケ

大谷翔平の名言スピーチも引用して意気込む

ただ、『OSEN』のバスケ担当記者によれば選手たちに気負いはないようで、有明アリーナのサブアリーナで行われた昨日の練習後にはチーム最年少のムン・ジョンヒョン(22、水原KTソニックブーム)がこう言ったという。

「明日は日本という強いチームと対戦しますが、一日だけは尊敬心を捨て、同じ相手としてコートで同等に戦うことができたら良いと思います」

大谷翔平が韓国でも人気であることは知られているが、昨年のWBC決勝前に大谷翔平が放ったスピーチに似せて放ったこの言葉に、今回の韓国選手たちが抱くバスケ日本代表の印象を代弁しているとも言えるだろう。

いずれにしても韓国にとっては格上・日本に胸を借りる“強化試合”。日本にとっては大事な本番も控えているだけに、両チームともにケガやアクシデントがない好勝負を期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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