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B2西宮の本拠地移転問題から考えるプロチームと地方自治体の関係性

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
本拠地移転計画について説明する渡瀬吾郎代表取締役(提供:西宮ストークス)

【B2西宮が発表した本拠地移転計画】

 BリーグのB2に所属する西宮ストークスが3月26日、将来的に本拠地を神戸に移転する計画があることを明らかにし、週末に実施されたホーム試合でブースターに向け代表取締役の渡瀬吾郎氏から説明がなされた。

 西宮はNBL時代の2015年から同地を本拠地とし、2016-17シーズンからスタートしたBリーグ移行後はB2に振り分けられ、いきなり初代B2チャンピオンに輝きB1昇格を果たしている。

 だが2018-19シーズンにB2に逆戻りすると、それ以降シーズン勝ち越しはできていたものの、なかなか昇格チャンスを掴み取るまでには至らなかった。

 ところが今シーズンは西地区で首位を走り続け、3月28日の試合で熊本を破り、B2プレーオフへの進出を決めることに成功。同プレーオフで決勝に進出すればB1に自動昇格できる機会が与えられた。

 と、ここまで聞けばチームは順調に来ているように思えるのだが、なぜ本拠地移転を考慮しなければならなかったのだろうか。

【成績以上に重要なライセンス問題】

 実は前述のB1昇格に関する説明に、多少不正確な部分がある。もし現状のまま西宮がB2プレーオフで決勝進出できたとしても、B1に自動昇格できない可能性があるのだ。それがライセンスに関する問題だ。

 Bリーグでは毎シーズン、各チームの財政状況などを含め審査を行った上でライセンスの交付をしているのだが、西宮の場合B1昇格の最低条件となってくるB1ライセンスが交付されていないのだ。

 今シーズンに関しても、B2所属の群馬、仙台、熊本、茨城にB1ライセンスが交付されているのだが、西宮はB2ライセンスに止まっている。

 その原因となっている1つが、「5000人以上を収容できるホームアリーナの確保」だ。現在本拠地にしている西宮市中央体育館の収容人数は2500人前後に止まり、基準の半数程度でしかないのだ。

 つまり現状のままではB1ライセンス取得は厳しい状況にあり、それは同時にB1昇格の対象外になってしまうことを意味している。

【神戸に誕生する1万人規模の新アリーナ】

 チームが今回発表したリリースによれば、チームとしては西宮市内で基準を満たすアリーナの確保を目指してきたようだが、「西宮市内で実現することが現時点で難しい状況にある」と判断。そのため神戸市の新港突堤西地区に建設予定の新アリーナに移転する計画を打ち出したというわけだ。

 この新アリーナは、収容人数が1万人を超えるもので、関西圏でも数少ない大規模アリーナになる。単にB1ライセンスの基準をクリアするだけでなく、収容人数が増えれば、チームとしても増収が期待できるのだ。まさにチームにとっては願ったり叶ったりと言える計画だ。

 この新アリーナが完成した暁には、チームは2024-25シーズンから同地を本拠地にする予定になっている。

【米国では地方自治体がプロチームを奪い合うのが当たり前】

 今回の背景にあるのは、チームの要望に西宮が対応できなかった一方で、要望に応えてくれる神戸が登場したという点だ。つまり地方自治体の取り組みの差が、今回の移転問題を生み出したというわけだ。

 実は米国では、今回のようなケースが頻繁に起こっている。地元にプロチームを誘致することで経済を活性化させようと、地方自治体の間で熾烈な獲得競争が繰り広げられている。

 例えばNBAの場合、2000年以降だけを見ても、以下のチームが本拠地を移転している。

 グリズリーズ:バンクーバー→メンフィス(2001年)

 ホーネッツ(現ペリカンズ):シャーロット→ニューオーリンズ(2002年)

 スーパーソニックス(現サンダー):シアトル→オクラホマシティ(2008年)

 ネッツ:メドウランズ→ブルックリン(2012年)

 ピストンズ:オーバーンヒルズ→デトロイト(2017年)

 ウォリアーズ:オークランド→サンフランシスコ(2019年)

 こうした本拠地移転は、すべて地方自治体が収益性の高いアリーナを建設し、プロチームを迎えられる環境を用意したために実現したものだ。

【地元住民に負担をかけずに資金確保を目指す】

 もちろんプロチームを誘致するには、施設建設を含め莫大な資金が必要になってくる。そのためには税金も投入しなければならなくなるだろう。

 だが米国では地元住民に直接負担を強いているのではなく、地方自治体として地元にあるホテルや娯楽施設等の利用者から間接税を徴収することで、資金を確保するなどの工夫をしている。

 また多目的の大規模アリーナなどの施設をつくれば、プロチームを誘致できるだけでなく、様々な娯楽イベントを地元住民に提供できるようにもなる。

 地方自治体の中には施設の運営を企業に任せ、様々なイベントを企画、運営させることで施設の収益性を高めようとしている。一方で地方自治体は運営企業から施設レンタル料を定期的に徴収できるので、建設費等の支払いも確保できることになる。

 まさにアリーナ等の施設建設は、地方自治体にとって希望の光とも言えるものなのだ。

 まだまだ地方自治体の考え方は米国に追いついていないが、今回の西宮のようなケースが増えてくれば、近い将来日本でも地方自治体の間でプロチームの奪い合いが起こる時代が来るかも知れない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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