「日本に臼杵市があってよかった〜キャンディ市・臼杵市 姉妹提携50周年を記念して〜」
スリランカ。「世界で一番、素晴らしい島」「インド洋に浮かぶヒスイのペンダント」とこの国を褒め称えたのは、13世紀にスリランカを訪れたマルコポーロだった。
そんなスリランカ人気がまた近年になって目立つようになった。2010年には「ニューヨークタイムズ誌」で「訪れるべき国第1位」に、2013年には、世界的に有名な旅行雑誌「ロンリープラネット」で「最も旅行したい国1位」に、2015年には、日本の旅行代理店が選ぶ「行きたい国アンケートランキングで1位」になった。まさに今 スリランカに世界中の熱い視線が注がれている。
そんなスリランカにある最も魅力的な街は「キャンディ」であると言っても異論はいないだろう。
覚えやすく可愛らしい名前でもある。「飴」などを想像する人もいるだろうが、キャンディは、カンダ・ウダ・ラタ(山の上の国)という地元のシンハラ語の言葉が元になっており、後からこの国を支配するようになった英国民が呼びやすいように「キャンディ」に変わっていったと言われる。
豊かな歴史と深い文化が残るキャンディは、この国の人々の誇りでもある。街の中心にそびえ立つ「仏歯寺」。ここには、8億万回ものブッダの教えに直に触れた、数ある仏舎利の中でも最も尊いとされ、国の最大の宝としても崇められているブッダの犬歯が祀られている。国の権力の象徴でもあった仏歯が、キャンディにあるのは、この地が国の権力の中心地であった証でもある。ここは英国支配にわたる直前までの都であった。
そんなキャンディと姉妹都市提携を結び、半世紀前にわたって関係を育んできた日本の街がある。臼杵市(大分県)である。
姉妹提携に至ったきっかけはある日突然やってきた。1967年6月1日発行の「市報うすき」にそのことについて触れている。
「キャンディ市との姉妹都市は、昭和三九年五月三十日当時のセイロン大使M.M.マハルーフ氏が臼杵大仏を訪れた時、石仏のりっぱなのに感激同じ仏教国でもあり、また仏教文化の中心地でもあるセイロンのキャンディ市との修交が話題になりました。」
セレンディピティである。
偶然を必然としてとらえ幸運にかえようと姉妹都市提携に向けて奔走した足立義雄 当時の臼杵市長などの功績を忘れてはならない。大使のマハルーフと言う名前からするとおそらくイスラム教徒であると思われる。ならば臼杵市とキャンディ市は、イスラム教徒が引き合わせた有難い仏縁ということにもなる。
両市に多くある共通点。やはり中でも最も強い印象を受けるのは互いが仏教都市であること。臼杵市の国宝臼杵石仏に代表される仏像群、歴史ある寺院や山頂から街を優しく眺める大きな仏舎利塔。街の雰囲気はキャンディとよく似ている。スリランカでは、理想的な街にウィワ(湖)と ダーギャバイ(仏舎利塔)があるという。
湖は、農業中心のスリランカの豊かな経済的な基盤を表し、仏舎利塔は、精神面の豊かさを表している。両者の両立・調和が大事で、そこに豊かなオバイ・ママイ(人間関係)が加わる。臼杵は、湖は豊かな海に代わるだけで、2つの街は同じに映る。
キャンディは、多文化な街でもある。街そのもの世界遺産になっているがキャンディだが、そこには元来からの仏教文化はもちろん、英国民が創り上げた建物なども街の必要不可欠な要素となっており、世界四大宗教の寺院なども街に散りばめられている。臼杵もまたキリシタン大名でもある大友宗麟が南蛮文化などを受け入れ、育んできた豊かな多文化な街である。
何よりもスリランカ人にとってのキャンディは心の故郷なのであると言われるが、日本人の心の故郷もここ臼杵にある。
臼杵市とキャンディ市が正式に姉妹提携が行なったのは、最初のきっかけから約3年後の1967年5月27日である。「市報うすき」によると、式典会場の壇上には、両国の国旗が飾られ中央には仏壇が安置され、ロウソクが灯されていた。会場には500人を超える市民が集まっていた。そこで次のような姉妹提携の宣言が行われた。
「姉妹都市宣言」
仏教文化の古いゆかりを同じくする日本国大分県臼杵市とセイロン国キャンディ市とは相互の親交、発展を通じて日本と東南アジア諸国間理解を深め進んで世界平和の促進に寄与することを念願し、ここに姉妹的な友情の盟約を結ぶことを宣言する。
昭和四十二年五月二十三日
臼杵市長 足立義雄 キャンディ市長 E.L.セナナヤカ
「姉妹都市宣言をすると会場からは割れるような拍手がおこった(「市報うすき」昭和42年6月)。
2017年5月23日。50年前の署名式にタイムスリップしたような気持を覚えた人も多いのではないだろうか。キャンディから使節団が来臼し、50年目の節目に「姉妹提携宣言」を新たに(再確認と更新)した。多くの臼杵市民と在日スリランカ人が会場に集まり、その歴史的瞬間を目に焼き付けた。
歓迎式典などでは、温もり溢れる地元の伝統料理などが振舞われ、両市の文化交流が行われた。私なども臼杵市内の中学校を回って生まれ故郷(キャンディ)を紹介するご縁に恵まれた。
国宝臼杵石仏の近くに、記念碑と共にそびえ立つ、地にしっかり根を下ろした立派な巨木がある。夏に美しいクリーム色の花を咲かし、優しい芳香を放つこの泰山木は、50年前の姉妹都市提携を祝い植樹された。花言葉が「前途洋々」や「壮麗」であることがこの木を選んだ由縁である。
泰山木の花言葉にも答えるかのように、立派に育まれた半世紀に渡る両市の豊かな関係。
そのすぐ近くに姉妹提携50周年を記念して新たな植樹が行われた。今回選ばれたのはハナミズキである。花言葉を引くと「永続性」「返礼」「逆境にも耐える愛」と出てくる。未来に向けた両市の相思相愛が一目瞭然である。
日本が海外と最初に姉妹(友好)都市提携を結んだのは1955年で、現在ではその数は都道府県市区町村合わせて1708にのぼる。交流は大事と考えられている中で「国際交流」も、「民際交流」も素晴らしいが、ちょうどその中間にある「姉妹都市」こそ交流を営むにあたってちょうどいい塩梅(規模)ということもあるに違いない。
臼杵・キャンディには姉妹提携の良き模範になることを期待すると同時に、この機会に、新にご縁をつくるのはもちろん、既にキャンディとご縁のある者は臼杵を、臼杵とご縁ある者はキャンディを訪れ、半世紀に渡って両市が育んできた豊かな友好の歴史を感じ、今後に向けた多くの可能性について思いをはせてはいかがでしょうか。
<追記> せっかくなので筆者の方からも一つ提案をさせて頂きます。臼杵といえば、竹宵がたいへん有名だが、キャンディ(スリランカ)にも同じ竹を使い提灯を作って灯す祭りがある。仏縁で結ばれ、姉妹提携の署名を行ったと同じ5月の満月に仏陀の誕生、悟りと涅槃を記念して行うウェサック祭り。「臼杵でウェサック]」もきっと素敵であるに違いない。
参考記事:ブッダと過ごすゴールデンウィーク