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コロナ禍の子育て女性就労困難問題を解決せよ!【小安美和×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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長引くコロナ禍で、最も深刻な影響を受けているのが、子育て中の困窮家庭の母親です。失業したり、減収したりしている人の中には、ネット環境やパソコンもなく、キャリアアップのためのスキルを身につける余裕もない方も少なくないようです。これまでの就労支援のほとんどは、平日昼間に開催されているため、現在働いている人は通うことができませんでした。無職であっても、生活費が不足するため、じっくり訓練を受けることができないというジレンマがあります。こういった方々を支援し、雇用につなげるためには、行政や企業はどう変わっていけばいいのでしょうか。

<ポイント>

・専業主婦の強みを言葉にするには

・行政に求められているのは「プッシュ&寄り添う」の支援

・母親が働くことは、次世代の子どもたちにも影響がある

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■専業主婦の経験もスキルに言い換えられる

倉重:「私は現場仕事しかしていなくて、人に教えるスキルはないのです」という人でも、何か強みがあるものですか。

小安:人は誰でも強みがあります。今、「ママワーク研究所」という福岡のNPOの理事長の田中彩さんと、元パソナで全国3,000人のお母さんのインターンシッププログラムのリーダーをしていた蒲生智会さんと一緒に支援活動をさせていただいているのです。田中彩さんは10年間、専業主婦の就労支援をしています。

 それぞれがこれまでの経験で培ったナレッジを全部ここに入れているので、専業主婦の経験も全てスキルに言い換えることができるのです。例えば、「家事をしながら、育児をしながら○○できる」というマルチタスクや、限られた時間の中で効率よくタクスをこなす力が、専業主婦の方には身に付いているケースが多いのです。あと、子育ては自分の思いどおりにならない子どもを相手にするので、コミュニケーション力や忍耐力が鍛えられます。

倉重:子育てで培った忍耐強さは、あんがい外から見ると強みになるということですね。

小安:そうなのです。あとは、コツコツ真面目に取り組む、逃げずに向き合うという言葉に換えていけます。

倉重:なるほど。

小安:プログラムの中では「強みの言葉一覧」というのを提示します。自分では言葉が出てこないから、その中から当てはまるものを選んでもらうのです。

倉重:「強みの言葉一覧」というのがあるのですか。

小安:物事に対する取り組み姿勢だと、「粘り強さ」「忍耐力」「向上心」「責任感」など。人とのかかわり方だと「協調性」「社交性」「誠実」など。学ぶ力・考える力だと「好奇心」「柔軟性」といったように一覧から強みワードを選んでいただきます。

 今回参加した多くの方がおっしゃったのは、「行政の窓口に行くと、『あなたの年齢やキャリアでは難しい』と言われる」ということでした。

倉重:そんなことを言われるのですか。

小安:もちろん、全員ではないのですが、よかれと思って現実を言う方もいらっしゃるのでしょう。言われやすいのは45歳以上でしょうか。40代後半から50歳以上の女性は、ほぼ全員が言われた経験がありました。

「私は無理だ」と思い込み、そういう方は相談窓口に行きたくないと思ってしまったりします。

倉重:そりゃそうなりますよね。

小安:もちろん、転職活動というのは、誰にとっても落ち込んだり辛かったりすることがあります。私ですら、33歳の時に夫と別居して転職活動をした時には、二度とあの時に戻りたくないというくらい辛い経験をしています。

倉重:なるほど。生活困窮している子育て家庭のお母さんには、ちょっとしたネガティブな発言が大きな影響を与えてしまうことがあるのですね。

倉重:せっかく時間をやりくりして、勇気を振り絞ってやっと踏み出した一歩目で「あなたには無理ですよ」と言われたら、「もう駄目だ。終わった」となってしまいますね。

小安:1期生の中には「転職するには不利な年齢になったので、このプログラムで自信を得て、前向きに転職に取り組みたいです」と言って参加してくださった方がいます。また、「このプログラムに参加するまでは不安ばかりでした。でも寄り添ってくれる人がいて、1人じゃないことに気付きました」ということをおっしゃる方もすごく多かったのです。

倉重:いいですね。

小安:相談する相手がいない、自分を肯定してくれる、伴走してくれる人がいないと、窓口があってもそこに行きません。これまでの日本の公的な就労の支援というのは、ある意味、「プル型」というのでしょうか。

倉重:「お待ちしていますよ」みたいな感じでしょうか。

小安:そうです。「プッシュ型」ではない、「プッシュ&寄り添う」という形のプログラムがないと、いつまでもステップアップできずに、結果として給付金などの支援頼みとなってしまうお母さんたちがいるという印象です。

■女性の就労支援における企業側の課題

倉重:Zoomの使い方から職務経歴書の書き方、メイクの指導まで受けて、個別のキャリア面談で自己肯定感を高めるというプログラムを一式受けていただければ、ある程度はキャリアアップできるという実感値があると思います。同時に、課題だと感じていることもあるのではないでしょうか。今の課題感というのはどういうところに持っていますか?

小安:企業側だと思います。私たちが女性のマインドセットや自己肯定感を高めても、送り出した先の企業の働く環境のあり方も変えていかないと、定着が難しいケースがあると思います。

倉重:「残業できないのですか」と聞かれたりすると困りますよね。

小安:そこから先はひとり親に限らずの話なのですが、時間的・空間的な制約があるお母さんたちのために、柔軟な時間と場所で働けるジョブの創出を、企業がどれだけできるのかが大事かなと思っています。それが1つです。

倉重:そこはテレワークで広がっていますからね。

小安:広がっています。わたしみらいプロジェクトの1期では6社に参画いただいて企業相談会を実施したのですが、多くの企業が在宅ワークや柔軟な勤務が可能なジョブを紹介してくれました。

倉重:多種多様なジョブがあると。

小安:応援企業の中でも、パソナは、「淡路島で100人のひとり親を採用する」と掲げています。コロナ禍で困窮しているけれどもスキルやマインドがあるお母さんたちを優先的に採用してくださっていることは素晴らしいなと思います。ただ、やはり1社、2社ではマッチングが難しいので、何十社にも増やしていきたいということです。

倉重:これをムーブメントにしなければいけないですね。

小安:そうです。今回、22人のお母さんと6社の応援企業が集まったのですが、そこで何人のマッチングが生まれるか。

 地域の中でフレキシブルなジョブをつくってくれる企業を集めれば、かなりの確率で決まります。多岐にわたる職種を集めることが重要なのですが。

 オンライン就労支援プログラムは、全国からお母さんが集まっています。東京だけではなく、東北、関西、九州の方もいらっしゃるため、空間を超える働き方を増やさない限りマッチング率は低い状態となります。

もう1つの課題はやはりITスキルです。「在宅で働きたい」という方はとても多いのですが、一方で、在宅で働く際にはITスキルが必須です。この「ITスキルが不足している」ということが、課題ではあるかなと感じています。ここに対するリスキリングというものをしていかないといけません。

倉重:そこは「国がやってくれよ」という感じもありますか。

小安:支援プログラムはあるのですが、困窮家庭のお母さんの認知率や利用率はまだ低い状況です。(わたしみらいプロジェクト1期生アンケート結果より)

倉重:なるほど。マッチングという観点からしますと、やはり参加企業が増えれば増えるほど、マッチングの精度も上がっていくと思います。そこにもっとジョインしてもらうために、企業人事の方に対して言いたいことをもう少しお願いできますか。

小安:どこの企業も、恐らく人が余っているところはないと思うのです。人手不足の企業に関して言うと、これまでと異なる人材にも目を向けてほしいと思います。これからは、「フルタイムで働けます」という人材はどんどん減っていくわけです。ひとり親のお母さんの場合、フルタイムで働ける方も多いのですけれども、例えばフルタイムでなく、在宅でしか働けないという方にもジョブを創出していただくことによって、企業にとっても良い人材を確保できる手段になるかもしれません。

倉重:それは地方でもそうですよね。

小安:地方で言うと、時間と空間を超えたジョブを創出する必要があります。そのためには、業務プロセスを可視化して、業務の分解をして、ジョブを創り出さなければいけません。

倉重:DXも関係してきますね。

小安:関係してきます。コロナ前までは、「時間と空間をフレキシブルに超えるジョブをつくってください。それだけで人は採用できます」と言ったのですけれども、去年ぐらいからは、それに「×テクノロジー」と伝えています。テレワークもそうですけれども。テクノロジーによって働ける人が増えたり、もしくは採用確率が上がったりするということを、企業の皆さんにはお伝えしたいです。

倉重:ありがとうございます。「女性の就労は非常に難しい課題がある」という話を聞くと、「将来、怖いな」と思う若い人や、女性の方も結構いらっしゃるのではないかと思います。若い方に向けたアドバイスをお願いいたします。

小安:ありがとうございます。若い方は、とにかく中長期を見据えて、「自分がどういう仕事をしていくのか」ということを、高校生、大学生のときから考えてほしいと思います。お母さんなどの身近なモデルを見て「私も結婚したら仕事を辞めたい」「パートでいい」と言う方もまだまだ多いのですけれども、やはりリスクがあります。配偶者がどうなるか分からないので、自力で稼ぎ、生きていくためには、目先だけではなくて、中長期を見据えて働く選択肢をたくさん見てほしいと思います。

倉重:それはいつ頃からですか。高校生ぐらいからですか。

小安:いや、もう中学生、小学生ですね。

倉重:うちはちょうど小学生と中学生の娘がいるのですけれども、もう考え始めたほうがいいですか。

小安:ぜひ。私は小学校の頃、父に「美和ちゃん、将来何になりたい?」と言われて、「お嫁さん」と言ったわけです。そうしたら、ボコボコにされました。

倉重:そうなのですか。

小安:「何言っているんだ。これからの女性は働くんだよ」と言われて。でも、母は専業主婦だったので、「だって、お母さん、働いていないけど」と言ったら、「時代はこれから変わるんだ」と言われたのです。

倉重:すごく先見の明がありますね。

小安:先見の明があって、父には本当に感謝しているのです。一方で、母からは子どもの頃に、「あなたは女の子だから、お嫁さんに行くのよ。そんなに勉強も頑張らなくていい」というふうに言われていました。父は「そうではない。大学も経済か理系か、どっちかだ」と言われて。

倉重:とてもいいアドバイスですね。

小安:私は文系なのですが。大学の学部の選択の時に大げんかして。「理系じゃなかったら、経済学部しか駄目だ」と言われました。

倉重:結構、言ってきますね。

小安:父は若い頃にお金に苦労したのです。子どもの頃に裕福な家庭ではなかったので、「最初からお金があると思うな」というふうに言われました。それがあったから、仕事を続けられたのです。私は高校生、大学生の時から「正社員になる」と思っていました。

倉重:すごいですね。具体的にですか。

小安:正社員と非正規の間に賃金格差があることを知っていたから、大学に行って、総合職で就職して正社員になりました。目標がないと、人は目の前にある選択肢を選ぶわけです。よく「女性が非正規を選択しているのではないか。それを批判するのか」と言われることがあります。確かにその方の選択なので、困っていないのであればそれでいいのかもしれません。

倉重:そうですね。

小安:ただ、何かあった時にそれはリスクになります。少なくとも「違う選択肢がある中で本当に選び取っているか」ということをきちんと問わなければいけないし、全ての選択肢をきちんと見せた上で選ぶ状況を女の子にもつくってあげなければいけないと思います。

倉重:なるほど。親の存在は大きいですね。

小安:大きいです。親と学校ですね。

倉重:言われてみれば、私も両親が税理士だったので、「資格を取るものだ」と思って生きてきたところがあります。

小安:すごいですね。あとは学校です。

倉重:教育から変えなければいけないし、親も変わらなければいけないということですね。

私は「自分の好きなことをとことんやるような仕事を探せ」と言っています。娘は「宇宙関係の仕事をやりたい」と言っているので、「どんどんいけよ」と後押ししています。

小安:そこでバイアスがあるお父さん、お母さんは、「女の子なんだから」と言うのです。実際に高校生から相談を受けたことがあります。「医学部にいきたいのだけれども、お母さんが『婚期が遅れる』と反対する」と。

倉重:これはよくあることではないですか。

小安:やはり娘の夢をお母さんが阻害しない社会にしたいですね。

倉重:よかれと思って、しかし「母親ブロック」をしてしまっているケースはありますよね。

小安:倉重さんがおっしゃったように、自分がやりたいことをとことんやっているお母さんの子どもは、同じようになるのです。

倉重:背中を見ていたらそうなるのですね。

小安:私自身は子どもがいないので、「なんでお母さんの支援をやるの?」とよく言われます。「お母さんが働くことが、次世代の子どもたちに影響がある」と信じて行動しているのです。

(つづく)

対談協力:小安美和(こやす みわ)

株式会社Will Lab (ウィルラボ)代表取締役

株式会社インフォバーン 社外取締役

株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役

内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員

東京外国語大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年より、リクルートホールディングスにて、「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月同社退社、6月 スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了、2017年3月 株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成に取り組んでいる。2019年8月より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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