対外直接投資「日本の中国離れが加速」をどう読み解くか
日本の対中直接投資が半減
2014年の上半期、日本の中国に対する直接投資が前年同期に比べ50%近くも激減していたことが国際コンサルタント会社IHSの分析で明らかになった。
「日本のアジア回帰」と題したIHSエコノミクスのRajiv Biswasアジア・太平洋首席エコノミストのレターによると、日本の中国に対する直接投資は2013年、93億ドル(約9540億円)。
一方、日本の東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する直接投資は229億ドル(約2兆3490億円)。日本が東南アジアへの投資に再び焦点を当てていることが浮き彫りになった。
11~13年、日本のASEANに対する直接投資は563億ドル。中国に対する直接投資は350億ドルだった。
東南アジアへのシフト
日本の東南アジア・シフトの背景には(1)中国沿岸部の工場労働者の賃金上昇(2)沖縄・尖閣諸島をめぐる緊張、反日暴動などのリスク――に加え、自由貿易協定(FTA)のネットワークを広げる東南アジア市場への期待可能性がある。
人口6億3500万人を擁するASEANの域内総生産(GDP)は2兆4千億ドルに達しており、中産階級が急速に拡大している。
人口減少で消費市場が縮む日本にとって東南アジアは今後20年以上にわたって、有望な市場になるとBiswas氏は指摘。電気、自動車、建設機器、産業機械、銀行やロジスティクスなどサービス産業も東南アジアに興味を示す。
三菱UFJフィナンシャル・グループはタイのアユタヤ銀行を5360億円で買収した。
日本の安倍晋三首相は中国の習近平国家主席とは会談できていないが、再登板1年目にすべてのASEAN諸国を訪問。日本企業が東南アジアに進出する環境を整えた。
日銀によると、日本の対外直接投資は13年末で残高117兆7千億円。前年に比べ27兆9千億円(31.1%)増え、初めて100兆円を突破した。景気が回復した欧米への直接投資が増える中、対中投資の冷え込みが目立つ。
対外資産から負債を引いた対外純資産残高は前年の296兆3千億円から13年末には325兆円に増え、過去最高の水準だ。
中国は「有望国」1位から転落
国際協力銀行(JBIC)が昨年11月発表した製造業の対外直接投資アンケート(625社回答)で「今後3年で有望」とする国でずっと1位だった中国が4位(183社)に急落。インドネシアが1位(219社)、インド2位(213社)、タイ3位(188社)と1~4位までが拮抗した。
中国事業の中期的な懸念は(1)労働コスト上昇・労働力確保が困難32.6%(2)他社との競争激化25.3%(3)中国経済の減速23.6%(4)日中間の政治的な関係の行方17.4%――という順番だった。
今後10年程度ではインド1位、中国2位だった。
「中国はGDPで米国を追い抜けない」
米共和党系の保守中道派シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が笹川平和財団と共同で立ち上げた「日米安全保障研究会」が先月中旬、中間報告を行った。
「中国の今後の経済成長と東アジアの安全保障」という資料の中で「中国の高成長はもはや続かず、米国をGDPで抜く日も来ないであろう」と指摘している。
そして、こう続ける。
「今後の中国の経済成長が世界中で過大に見積もられてきたことが中国と周辺国の外交・安全保障問題に看過できない悪影響を及ぼしている」
「リーマン・ショック後の09年以来、中国人の対外意識は地滑り的な変化を起こし、自信の高まりがassertive(独断的)な対外姿勢(を生み)、特に領土領海問題について妥協を拒む『核心的利益』論が台頭している」
「日本人が感じる『際限なく強大化する中国』という『悪夢』もまた『幻想』であった。日中双方は裏と表から、同じ錯覚をしているようなものである」
日本の対中直接投資の急落は、その前兆現象か、それともその証左なのか。
中国の債務レベルはGDPの200%
中国の第2・四半期の成長率は前年同期比7.5%となり、市場予想の7.4%を上回った。
中国共産党は7月29日、胡錦濤前政権の最高指導部の1人で、党内序列9位の周永康・前党政治局常務委員を「重大な規律違反」の疑いで調査していると発表した。
「トラ(大きな腐敗)もハエ(小さな腐敗)も一緒にたたく」習近平国家主席の反腐敗運動と、李克強首相の輸出主導から内需主導への経済政策の転換は回転し始めている。
英誌エコノミストは、中国経済について「不動産バブルの崩壊、企業のデフォルト(債務不履行)、反腐敗運動に伴う緊縮策への懸念はすべて無に帰した」と報じている。
李首相は貸出条件を緩和して成長を維持した。中国の債務レベルはGDPの200%。今後も債務が増え続けるのは間違いない。では、中国経済は「借金漬け」なのかと言えば、決してそうではない。
もっと借金をしている国はたくさんあるのだ。少し古い資料になるが、2012年1月に発表された国際シンクタンク、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)の報告書から抜粋しよう。
日本の債務レベルは11年半ばでGDPの512%に達していた。200%の中国が危なくて、どうして日本が大丈夫と言い切れるのか。CSISと笹川平和財団の「日米安全保障研究会」の中間報告は甘すぎるのではないか。
輸出主導から内需主導への切り換えを図る中国の経済成長はまだ続くというのが国際金融都市ロンドンの見方のように筆者には思える。
中国の独断的な行動を許してはならない。中国経済を過大に評価するから、中国は増長する。だから、中国の成長力を評価するのをやめようという思考法は「希望的観測」というものだ。
中国は中国のやり方で構造改革を進めている。アベノミクスの成長戦略は大事だが、日本も年金問題などの財政改革をいつまでも先延ばししているわけにはいかない。
(おわり)