鈴鹿8耐でしか楽しめない、世界トップレベルの戦い
今年も「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」が7月23日(木)〜26日(日)に三重県の鈴鹿サーキットで開催される。1978年にはじまり、今年で第38回大会となる夏の伝統的な耐久レースが再び息を吹き返し始めている。
バイクブーム後の低迷
1980年代のバイクブームに乗って、90年代まで隆盛を極めた日本のバイクレース。この時代、鈴鹿8耐や世界GPといったバイクレースに熱狂したという人も多いだろう。しかし、2000年代に入るとその勢いや世間の関心は急激に失速。モータースポーツの全体的な低迷の中で、とくに深刻な影響を受けたのがバイクレースだった。
現在、日本で最も多くの観客動員数を誇るレースイベント「鈴鹿8耐」もその影響は大きかった。2000年代になると各バイクメーカー直属のワークスチームが相次いで撤退。ホンダのワークスチームだけがかろうじて残ったが、大メーカーのワークスチームに対抗しようとプライベートチームが主体のレースへと変わっていった。
さらにリーマンショックが大きな打撃となり、ついに2009年からはホンダワークスチームも参戦せず、バイクレースの最高峰「MotoGP」に参戦するライダーの出場もなくなり、ケニー・ロバーツ、ワイン・ガードナー、ヴァレンティーノ・ロッシなどのグランプリライダーが多数参戦した全盛期を知るファンには寂しい状況が続いていた。
続々と発表される海外のトップライダーの参戦
それでも、「鈴鹿8耐」は毎年のお祭り的な恒例行事として、誰が出場しようが来場する熱心なバイクレースファンに支えられてきた。プライベートチームの戦いの場となっていた「鈴鹿8耐」の潮目が変わり始めたのは今年に入ってから。
まず、「MotoGP」の元ワールドチャンピオン、ケーシー・ストーナーが突如、2年連続の優勝チーム「MuSaShi RT ハルクプロ」(ホンダ)からの参戦を発表すると、新型のYZF-R1を投入するヤマハが鈴鹿8耐へ「YAMAHA FACTORY RACING」としてのワークスチーム参戦を表明。なんとそのライダーには、現役でMotoGPを戦う若手ライダー、ポル・エスパルガロとブラッドリー・スミスを起用することをアナウンスした。
今後、スズキやカワサキのトップチームが6月中に体制発表を行うと見られるが、現役MotoGPライダーの参戦は難しそうだが、バイクレースファンなら一度は走りを見てみたい海外のトップライダーの参戦が期待されている。
【各メーカーの主なトップチーム】
◯ホンダ
No. 634 MuSaShi RT HARC-PRO
ケーシー・ストーナー / マイケル・ファン・デル・マーク / 高橋巧
No. 778 F.C.C. TSR Honda
ジョシュ・フック / ドミニク・エガーター / カイル・スミス
No. 104 TOHO RACING with MORIWAKI
山口辰也 / トニー・エリアス / (未発表)
◯ヤマハ
No .21 YAMAHA FATORY RACING TEAM
中須賀克行 / ポル・エスパルガロ / ブラッドリー・スミス
◯カワサキ
No. 87 TEAM GREEN
柳川明 / 渡辺一樹 / (未発表)
◯スズキ
No. 12 ヨシムラスズキ シェルアドバンス
津田拓也 / (未発表) / (未発表)
No. 17 TEAM KAGAYAMA
加賀山就臣 / (未発表) / (未発表)
※データは2015年6月4日時点
若きヤングタイガーたちが世界レベルを披露する!
上記の各メーカーが力を入れるトップチームのラインナップを見てみると、先にあげたMotoGPライダーに限らず、その傘下のMoto2(600cc)や鈴鹿8耐と同じ市販車ベースのSBK(スーパーバイク世界選手権)などのレースを戦うライダーが居る。最高峰MotoGPライダーの実力が折り紙つきなのは当然。そんな中で、今後そういった最高峰へのステップアップを狙うライダーたちの活躍が実は「鈴鹿8耐」の大いなる注目どころでもあるのだ。
その代表格と言えるのが、ロードレース世界選手権Moto2に参戦するスイス人、ドミニク・エガーターだ。彼は昨年、スズキのトップチーム「TEAM KAGAYAMA」から鈴鹿8耐に初挑戦し、いきなりの速さを披露して、チームを3位表彰台に導く原動力となった。そして、鈴鹿8耐の翌週に行われたMoto2のレースで優勝を飾り、鈴鹿8耐で日本のバイクレースファンの中で有名になっただけでなく、今後要注目のトップライダーとして世界的な名声を得ることになった。
そんなエガーターは今年の鈴鹿8耐を3度の優勝を誇る名門チーム「F.C.C. TSR Honda」と共に戦うことになった。今季、レギュラー参戦するMoto2では前半戦で予想外のスランプに陥っていたが、後が無い状況を打破するべく、ホンダのワークスマシンを貸与される同チームからのオファーに応えた。
イタリアGPで今季初の3位表彰台を獲得したエガーターは、レース後すぐに来日。「F.C.C. TSR Honda」のホンダCBR1000RRに乗って2日間の合同テストに参加した。彼にとっては1年ぶりの鈴鹿、1年ぶりの1000ccバイク、そして初めてのホンダ、初めてのブリヂストンという何もかもが普段のレースとは異なる環境の中、落ち着いてテストメニューをこなした。そして、なんと総合2番手タイムをマークする実力をいきなり披露することになったのだ。
何もかもが久しぶり、初めてづくし、そしてヨーロッパから渡航してすぐという状況の中でも、確実に自分の役割をこなすライダー。実はこういったライダーが持つ大きな可能性が証明されるのが鈴鹿8耐という舞台と言える。
日本のレースが世界のトップレベルと出会う機会
FIM世界耐久選手権の1戦にも組み込まれ、世界選手権の1戦である「鈴鹿8耐」だが、優勝争いを展開するのはほとんどが日本をベースにした「全日本ロードレースJSB1000クラス」を戦うチームだ。チームスタッフもほぼ100%が日本人というローカルなチーム体制で、文化も言語も違う環境の中で、これまでも多くの外国人ライダーたちがその実力をいかんなく発揮し、名声を得てきた。
後にロードレース世界選手権の最高峰クラス「GP500」でワールドチャンピオンになるエディ・ローソン、ワイン・ガードナー、ケビン・シュワンツらの名ライダーたちも「鈴鹿8耐」で速さを証明し、それを機にビッグチャンスを掴んでいった。彼らに共通して言えるのは「鈴鹿8耐」に参戦する前は世界的には無名の存在だったこと。歴史が証明する通り、「鈴鹿8耐」は未来のトップライダーが浮上のチャンスとするレースなのだ。
実は今の時代、こういった世界のトップレベルの選手が日本のチームや選手と相見えるレースは珍しい。4輪レースでいえば、現役のF1ドライバーが国内レースにスポット参戦することはまずありえないし、F1を降りたドライバーの参戦はあってもワールドチャンピオンが参戦することは考えられない。かつてレーシングカートの世界では海外の強豪と日本のトップドライバーが実力を競う1戦限りのレースがあったが、最近はヨーロッパからの参戦がほとんどなく、日本のレースと世界のレースが融合する機会というのはほとんどないのだ。
しかしながら、「鈴鹿8耐」は昔から伝統的にこの役割を担い続けている。日本のチーム、ライダーにとってもそういったツワモノたちと戦うことは国内レースのレベルアップにつながるし、大きな試練とも言える。MotoGPを戦うライダーが実力をいかんなく披露し、それを目指すライダーたちが負けじとタイムを削る。まさに国内外のトップクラスの人間たちが意地をぶつけ合う舞台、それが「鈴鹿8耐」。そして、これこそがまさに「鈴鹿8耐」が40年近く続いている最大の理由ではないかとさえ感じる。