労使交渉、賃上げ以外の3つの注目点 味の素が労働時間削減、日立は介護休職給付金
春闘でベースアップ金額の減少が報道されていますが、今年度の労使交渉は賃金以外にも注目すべき動きがいくつかあったように思います。育児や介護と両立しやすい働き方につながる可能性がある3つのポイントをまとめました。
(1)賃上げから労働時間の削減へ
味の素が、社員の所定労働時間を1日あたり20分短縮する労使合意をしたと報道されています(時事通信の記事)。普段から所定労働時間がほとんど意味をなさないような働き方をしていれば意味はありませんが、基本給は変えないため、実質的には月1万4000円以上のベアに相当するそうです(広報に取材申し込みをしたものの現時点で連絡を得られておらず、追加情報があれば後日追記します)。
以前登壇させていただいたRIETIのシンポジウムで慶應義塾大学の鶴光太郎先生が、残業がなくなることなどで労働者の生活満足度、仕事満足度がどの程度上がるかを金額換算した調査結果(資料の29ページ目)を発表されていました。
働く時間が短くなるのであれば、多少給料が減ってもいいと思う従業員もいるわけです。無制限に働ける人ばかりではなくなっていく中で、今後労使交渉は賃金だけではなく時間にも焦点が当たるようになっていくかもしれません。
(2)扶養手当は廃止へ
昨夏の労使交渉で、トヨタ自動車が扶養手当を廃止する一方で子ども手当を拡充して話題になりました(朝日新聞の記事)。企業は従来、“一家の大黒柱”が家族を養うための手当として、費用の一部を負担してきました。ただ、バブル崩壊後は企業が人件費見直しを迫られ、本人の仕事ぶりや能力と関係なく家族の人数などによって給与が決まる構造自体が見直されています。結婚しない人や共働き世帯も増え、会社が「内助の功」を評価し、家族まで丸抱えで支える構造は崩れつつあります。
扶養手当は、経済全体への悪影響も指摘されています。以前主婦の再就職を取材したときに、条件面についての希望について「子育ても一段落して週5日働けるのですが、時給が高ければ扶養手当に引っかからないように週3日でもいいです」などの声を非常に多く聞きました。税金、社会保障の103万円の壁、130万円の壁に加えて、夫の企業の扶養手当が加わると大きな壁となり、主婦層の就労意欲を抑制しています。最低賃金にも影響しているでしょう。
今後労働人口不足が見込まれ、政府が一億総活躍を目指す中で、扶養手当を廃止する動きは当然の流れと感じます。厚生労働省の検討会では現在扶養手当の廃止について議論がされており、私がメンバーとして出席した「働き方の未来2035懇談会」でも先日(3月17日)、厚生労働省から「来年の春闘では話題にしていただきたい」という発言がありました。
(3)福利厚生から「働き続けるため」のケア支援へ
一方で、家庭内に育児や介護などの「ケア」の必要性がある場合、そこに費用がかかるのは事実です。従来は女性が外での仕事を辞めて家庭での無償労働を担うことが多かったわけですが、共働きや介護を抱える現役世代が増える中では、こうしたケア労働は、現役世代が外で働くための費用として立ち現れてきます。
今年の労使交渉でもう1つ注目したのが、日立製作所の介護休職に対する給付金支給(日経新聞の記事)です。ケアを外部委託するにせよ、休むなどして働いている人が自分で担うにせよ、企業が子育てや介護などへの補助をすることは、福利厚生というよりは企業にとってその従業員に働き続けてもらうための投資ととらえられます。
本来は介護保険や認可保育園など公的な支援と現役世代の無理のない働き方でケアが行き届く社会が理想です。ただ、まだまだ仕事との調整をしたうえで家族が担わざるを得場面も多いでしょう。そのような中で、企業が費用負担をすることはこれまでの無償労働を有償化する可能性も秘めていると思います。
補助を出すことで、「ベビーシッター代を出すから長時間労働もできるでしょ」などと働き方の見直しがされない懸念も一部あります。ただ、企業側もコスト意識が高まり、むしろ長時間労働削減につながる余地もあるでしょう。国としても、今回は見送られてしまったのですがベビーシッター費用の税控除はぜひ導入してもらいたいものです。