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【独自取材】宣言解除後も続く「家庭学習の悩み」。熾烈な受験国・韓国の専門家に聞く「ママの心構え」

「人と教育研究所」の父母研究所長パク・ジェウォン氏。写真・本人提供
本稿グラフィック/すべて筆者作成
本稿グラフィック/すべて筆者作成

それでも家庭学習の時間は続く――。

25日、日本全国での緊急事態宣言解除が発表になりました。しかし学校の再開はいまだ答えが出ていません。地域でばらつきがあります。部分的に再開されども、自宅での学習時間が長い、という時は続くのです。オンライン授業への対応も考えなくてはなりません。

子どもたちと同じように、保護者も悩むところでしょう。

「どうすればしっかり勉強できるのか」

ここでひとつ、韓国の事例を。

日本と同じくコロナ禍での学校休校を経験し、日本よりも熾烈な受験戦争があり、さらにオンライン学習大国だからです。大学受験に関しては公営2社、民間4社のオンライン授業供給会社が競争を続ける状況にあります。「オンライン授業により自宅浪人」という若者も多くいます。

スパルタではない、「韓国からの家庭教育論」

過酷な受験勉強がある分、問題も多いのです。今回はその解決の専門家にご登場いただきました。

「韓国は母親が自分の子どもを大学に送る、と考える国なんですよ。お母さんがつねに”わたしの失敗で子どもが大学に行けなかったらどうしようと、悩むという」

そう問題提起するのは、忠清北道に位置する「人と教育研究所」内の父母研究所長パク・ジェウォン氏。

パク所長はこれまで韓国で「塾での集団無気力」「勉強のストレスからくる学校でのいじめ」「塾の勉強が進みすぎているがための公立学校教育崩壊」などを目にしてきました。これらが社会問題化しつつあるのです。

「日本の塾の状況を視察に行ったことがあります。韓国よりも少し雰囲気が穏やかですよね。韓国は競争が厳しすぎて、塾でも殺気立っている。将来的な大学受験に向けた勉強もかなり幼い頃から始めないといけません」

写真/本人提供
写真/本人提供

ご自身は韓国の最難関校ソウル大人文学科人文第2系列に首席合格した過去を持っています。韓国で最も教育熱の高い、ソウル市江南区の大学受験公式講義陣のトップを務めるなど、教育に携わるキャリアの傍らで、学校側の悩みを聞く活動にも取り組みはじめました。しかし結局は「保護者とも一緒に考えなくてはならない」という思いに至り、研究を始めます。また過度の教育熱により、公立学校の授業崩壊が起きている点に強い問題意識も持っています。地上波「SBS」など数多くの国内メディア出演歴の他、最近は江原道の教育アドバイザーも務めています。

このコロナ禍の下、子どもの自宅での学習と向かい合う保護者の一番大切な心構え。それは「子どもが勉強を楽しいと思うこと」だといいます。特に小学校高学年では”STUDY SMART”の精神が重要だと。

5月、電話で話を聞きました。確かに日本と韓国の事情が違うところはあります。そういったなかで、聞いた「勉強の教え方」ではない「両親の基本的な心構え」とは。

決して「ガリ勉論」ではありません。むしろ逆の話をしています。なにか「今後も続く非日常」の悩み解決のヒントになりましたら。

韓国版「センター試験」の当日の開場前の様子。高校の後輩が受験生を応援するほどに熾烈。筆者撮影。昨年秋、ソウル市内にて
韓国版「センター試験」の当日の開場前の様子。高校の後輩が受験生を応援するほどに熾烈。筆者撮影。昨年秋、ソウル市内にて

勉強させることは本来、学校の役割

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――まずは長く続くコロナ禍での「子どもの家庭学習」に関わる、全般的な保護者の心構えからお聞きします。 

本来、勉強させること、というのは学校の役割。この点が考えを進める前提条件になります。

お母さんそしてお父さんの基本的な役割は「子どもたちにしっかりごはんを食べさせて、世話をして、健康に育てる」ということなのです。

だから、特に子どもと近くにいるお母さんは、この状況下で「悪役」にならざるを得ません。本来の役割以外のことをやるわけですから。

つまりは

勉強をさせるお母さん←→避ける子ども。

という構図になりがち。これが一番難しい状態です。

一度この関係が出来てしまったら、どんなにお母さんが頑張って勉強をさせようとしても、子どもはこれを避けるようになってしまいます。

結局、これで両者の仲までが悪くなってしまう危険もあるのです。

これを解決するには「お母さんと子どもが繋がっているんだ」という感情を持たせることです。

今のような状況で必要なことは、ひとまず一対一の人間関係として「この人が自分の味方なんだ」と思われることです。そうしてこそ、相手はこちらの話を聞きますよね。

「勉強をしなさい」と押し付けるよりも、学校が休みになっている今の子どもの感情を知ることです。今からでもやるべきだと思います。子どもの感情について、聞き出すこと。学校に行けないストレスについてどう思っているのか、何を望んでいるのか、話を聞くことです。勉強する前に聞くといいでしょう。

話を聞いて、解決してあげられる部分を解決すればいいのです。できないものは出来ない。それでもいい。残念だね、と同意を示せば。

落ち着いた心情でこそ勉強ができる。小中学生にはこの点が一番重要なことです。これ以外の状態で勉強をさせたのなら、肯定的な評価より、後に勉強に関する深刻な副作用をもたらすことになります。

――お母さん自身が「自分が勉強は得意じゃなかった」と考えている場合も多くあるでしょう。この場合、どうすればよいでしょうか。

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確かに。そういう問題はあります。この場合、保護者の役割をいくつかに分けないといけないですよね。

韓国では、消費力や情報収集力も「よい保護者」の条件になっています。日本も同様でしょうが、私が知る限りでは韓国のほうがこの傾向が強いですね。

そうなるためには、両親にマーケティング活動さえも求められる。つまりは「情報力と経済力がある両親こそがすばらしい両親」と考える傾向があるのです。いっぽうで、その保護者自身には自分が子供の頃、自分が勉強で認められなかったため、コンプレックスが残っている可能性もあるでしょう。

大学受験当日、会場に入る直前に子と抱擁する韓国のママ。筆者撮影。昨年秋、ソウルにて
大学受験当日、会場に入る直前に子と抱擁する韓国のママ。筆者撮影。昨年秋、ソウルにて

そうすると、保護者にとって別の重要な役割である「社会で生き延びる力をつけさせる」点にも困難が生じます。なぜなら「保護者の基準」に合わせることになりますから。ご自身のコンプレックスから、過剰に情報を集め過ぎる。すると押し付けという現象が起きてきます。

だからこそ言いたいのです。

「むしろ子どもにとって必要なものを提供するという考え方が必要」。

そこに合わせられる保護者こそ、よい保護者なのではないか。そう思います。

子どもが仮に勉強を好むのなら、勉強の方に向かわせるといいでしょう。しかしそうではない場合、何を必要としているのかを聞き、そこに寄り添うことが大切だと思いますね。

韓国でもほんの少しずつではありますが、「良い保護者像」が変わりつつあると感じますね。子どもの基準で向かい合えるかどうかが問われているのです。

――では年齢帯別の「保護者の心構え」をお聞きしましょう。まずは小学校1、2年です。

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この学年は、子どもが最初に勉強を経験する時期です。

どんなものに接するときでも「最初に感じる感情」というものがあるでしょう。

この感情がよくないと、後に勉強をしなくなる可能性が高いんですよ。

「子どもが勉強に対してどんな感情を抱いているのか」。ここを観察する必要があります。

まずは、勉強に否定的な感情を抱かせないこと。

子どもが難しいと思うこと、そして解けない問題は思い切って「飛ばす」ことですよね。楽しいと思うことを思う存分させること。

この年齢層の両親にはよくこういう話をしますよ。

「子どもが勉強と友だちになるように」

その友だちと会って、いいことがあればまた会うし、違えば会わない。

愉快な感情を持つこと。

そのためのテクニックがあります。保護者の方が子どもの勉強に付き添う際、こういう採点方法をやってみるのはどうでしょう。

出来る問題には◯

出来ない問題には□

バツマークはつけない。だってネガティブな気持ちになるでしょう。出来ない問題は置いておく。できることをやる。

楽しく勉強させる、ということはすべての年齢に必要なことですが、特にこの年齢では注意深く見てあげるといいでしょう。

――続いて3、4年生。日本では「中学年」ともいいますが、韓国ではどうでしょう?

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同じく、「中学年」と言いますよ。

この学年は韓国では「教科別の勉強を本格的に始める学年」です。

この際に再びつまずくと、この先に勉強をしなくなる可能性が高い。

この段階では子どもが難しいと判断したことを、はっきりと診断することが大切です。

「学力でのプレッシャーが厳しくなる前の予防」という考え方ですね。

だから、国語のこの部分に問題がある、算数のこの部分に問題がある、という点を解決する。この段階で解決できなければ非常に勉強が難しくなります。

低学年と同じく楽しくやることには変わりはない。ただし、出来ない問題にも取り組んでいく。この点がポイントになるでしょう。

――小学校5、6年生。高学年はいかがでしょうか。

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勉強を「いかに効果的にするか」を教える学年です。

日本ではどうか分かりませんが、韓国ではこんな現象が起きています。

「親の世代は必死に長い時間勉強をすれば成績がよくなると考えるが、子どもの世代はそこにモチベーションを持てない」

これはかつて、勉強が、親の世代にとって”決して裕福ではない環境から抜け出すための唯一の方法”として存在したためのものです。

今の子どもたちは、やりたいことが多くて、楽しいことも多い。

この現実を認めなくてはいけません。

だから今の子供たちに合うスタイルというのは

STUDY HARD

ではなく

STUDY SMART

なのです。

効果的に勉強できることとは何なのか。

つまり子どもたちは「効果的なんだな」ということに喜びを感じる。この経験をさせなくてはいけません。

たくさんやることを嫌がる子どもはいますが、効果的にやれることを嫌がる子どもはいません。

――効果的、とはどういう意味でしょうか。

予習・授業・復習が結びついていることです。

このサイクルが繋がった習慣です。昔から言われていることもありますよね。でも今の状況ではこう見守ってあげるのはいかがでしょうか。

自宅でのオンライン授業がある。

この段階ですでに、予習をしていて授業内容に関心がある、という状況を作り出すことが重要です。

そして復習をしながら、その時その時に勉強したことが積み重なっていかないといけないんです。

写真/本人提供
写真/本人提供

私は「勉強所得」という言い方をするのですが、勉強をしたことで「得した」という体験は必要なのです。

得、というのはつまり「記憶」です。

記憶が積み重なっていけば、勉強は簡単になります。小学校5、6年生で重要なことは「学んだことがちゃんと記憶に刻まれている」という感覚です。

一番簡単な方法は、予習の段階で簡単な問題を一問解いておくことです。

その時、正解かどうかを確認しない。

すると授業で「答えがどうなるか?」が気になるでしょう?

その状態で授業に臨むと集中しやすい。

また復習は「授業後すぐにある試験」ですよね。どういったことが記憶できたのか、知る機会。

なぜ学校で定期的に行われるテストでの成績が落ちるのか。それは授業をやった直後にやらないからですよ。授業が終わるごとに「小テスト」のつもりで復習をやる。記憶をその時に刻んで、これが積み重なるようにするんです。すると多くの場合で「試験勉強」がなくとも点数がよくなるんです。

結局はこれが一番効率的だ、という点を伝えるといいでしょうね。

――この年齢では、オンライン授業との連動がより重要だと。いっぽうでこの環境は韓国のほうが整っていて、日本ではここからより整備をしていく段階にあります。

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大事なことは「ネット環境があるかないか」ではありません。

先生が「各家庭の環境が違う」という点を知ることです。そして保護者側も家庭の状況を伝えていくこと。

韓国でもある子どもが「お母さんが一緒にいればオンライン授業を聞くけど、仕事でいなければ聞かない」ケースが多くあります。

そういった状況に合わせて、両親と先生が連絡を取り合うよう韓国では勧めています。「先生、ウチの状況はこうですから、オンライン授業参加へのサポートをお願いします」と。協力して。

オンライン学習について、日本の状況は詳しくは分かりませんが、「リアルタイム」だけではなく「録画でも閲覧可能」というやり方があるでしょうか。

すると、後者のほうが効果的な学習ができることが多いでしょう。

韓国でもオンライン授業の各コマの開始時には出欠の確認をしますが、実のところ、「その時間に授業を聞いているか」よりも「ちゃんと学んだか」のほうが大事。だから「録画」で授業が見られる場合にはそちらを優先してもいいと思います。思い切って。

子どもによって、状況が違うわけですから。オンライン授業ではこの点が大切なわけです。

そして先生のほうは「課題をはっきりと定め、与える」ということ。仮に動画のページにテキストで内容を補完できる場合には必ず「この授業の課題はなにか」をはっきりと示すべきですね。

――中学生にはどんな心構えを?

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この年齢になれば、小学生からの”学生経験”もありますからもう自立をし始めている存在ですよね。勉強に関心がある子どももいれば、別のことに関心がある場合もある。

それを認めることが重要です。もし関心があるのなら、この段階で注意すべきは

「理解ではなく、誤解をしているのではないかの確認」です。

分かったつもりで分かっていないということ。この年代だと自立した精神が生まれることもあり、自分が「分かった」と誤解して、次の課題へと移ることが多い。これをはっきりと分かったか、確認することです。非常に多い。

これを防ぐには、勉強した内容を、他の人に説明することです。文字で書いてもいいし、口頭で伝えてもいい。「何勉強したの? 言ってごらん」と聞いてみるといいでしょう。理解と誤解。この世代の保護者の方々は、この違いを見極めるとよいでしょう。

――もちろん、子どもに対して余裕をもって接することができればいい。でも親子関係とはそうもいかないところがあるようです。東京の筆者の周辺にいる、小学生のお母さんからこんな質問がありました。

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”小学校2年生の子どもにiPadで勉強させようとしているのですが、目を離した隙にすぐYouTubeを見ている。またスマホでずっと友だちとLINEをしていたりして大変です。親子だとどうしても冷静さを失って強く叱ってしまうことも多くて”

その年齢なら当然のことです。やはりここでも”認めてあげる”ということが大切でしょう。だって、大人でさえそうなのです。仕事中につい関係のないサイトを見たりするでしょう。

この対策として重要なことは、勉強をする前に「この時間が何のための時間なのか」を知らせること。

iPadを見たり、オンライン授業を受講したりする時、考えるべきことは「近くに見てあげる人がいるかいないか」ということです。

だからお母さんも先程の話と同じですが、「この時間の課題は何?」という点をはっきりと伝えるということです。

そしてこの勉強をした後に、すべきことを伝えること。

「この勉強が終わったら、問題を一問解いてみようね」

「お母さんに勉強したことを教えてね」

などが効果的です。そうすると、勉強時間に他のことをする可能性が下がるでしょう、

(インタビュー了)

オンライン授業の経験については日韓の違いがあります。日本だと「そもそも今回、初めてオンライン授業に触れる」というケースも多いのではないでしょうか。

いっぽう、韓国の話は「日本よりも極端な教育熱の国の事例」です。その国の最新トレンドが「子どものやりたいことに寄り添える両親」という点は筆者自身にとっての大いなる発見でした。

「少し違った視点」の紹介により、この日常の悩み解決の一助となりましたら。

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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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