今や撮影自体不可能!命知らずの俳優のヤバすぎアクションを劇場で。スピルバーグが9回観た作品も
昨秋、コロナ禍にありながら、連日大盛況となった特集上映<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>。
あの「ルパン三世」や「コブラ」のモデルにもなり、アラン・ドロンと人気を二分するフランスのスターとして活躍しながら、ここ日本では忘れられつつあったジャン=ポール・ベルモンドに再注目した<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>の第2弾が現在、新宿武蔵野館で開催中だ。
そして、昨秋、コロナ禍にありながら、連日大盛況となった第一弾に続く現在の第二弾も再び大きな反響を呼んでいる。
先日、本特集の仕掛け人である配給プロデューサーで映画評論家の江戸木純氏のインタビューを2回(前編・後編)に分けてお届けしたが、今回は番外編として、<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2>の全5作品の江戸木氏的見どころを語っていただいた。
「リオの男」を見ずして冒険アクションは語れない
まずはベルモンド映画総選挙第1位に輝いた、最高傑作と名高い「リオの男」から。
「『リオの男』は言うまでもなく冒険アクションの傑作中の傑作。
(スティーヴン・)スピルバーグが『劇場で9回観た』と絶賛していて、彼の『インディ・ジョーンズ』シリーズに多大な影響を与えている。
古代文明の秘宝をめぐって、ベルモンド扮するフランス空軍パイロットのアドリアンと恋人のアニエスという男女が冒険を繰り広げるというのは『インディ・ジョーンズ』だけではなく、あらゆる冒険アクションのお手本というか、バイブルにして原点になっている。
これを見ずして冒険アクションは語れないところがあると思います。
ヒロインに扮するのは『ロシュフォールの恋人たち』で知られるフランソワーズ・ドルレアック。彼女とベルモンドのコンビぶりも大きなみどころです」
個人的に「リオの男」で際立つのは、ベルモンドの走るシーン。本作においてベルモンドは颯爽と走りまくる。
そのアクションシーンにおける疾走のDNAは、トム・クルーズらに確実に受け継がれていると感じる。
「ほんとうに痺れる走りっぷり。
そして、ベルモンドが走って、何かにのぼって、のぼった先から別の場所へと飛んでといったアクションのつながりで、全部ストーリーが展開していく。
『リオの男』は盛りこみすぎなくらい盛り込まれていて、後半はなんかおなかいっぱいになっちゃう(笑)。
初めて見た人は、みんなびっくりすると思います。だから、ほんとうに『リオの男』をまだ見たことのない人は絶対にみてほしい」
「カトマンズの男」はたがが外れて、もうすべてがぶっとんでいる
次は「リオの男」の流れをくむ、フィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビによる「カトマンズの男」。
「前のインタビューでも少し触れましたけど、『リオの男』はまだ正統派で物語もきちんとしている。
でも、『カトマンズの男』はそこからたがが外れて、もうすべてがぶっとんでいる(笑)。
『リオの男』はブラジルが舞台でしたけど、『カトマンズの男』になると、香港、インド、ネパール、マレーシアとアジア各国にまたがって、『リオの男』以上に危険な正気とは思えないアクションが満載。
ストーリーなんてあってないようなもので突っ込みどころが多々ある。
でも、ベルモンドのアクションの連打で、もうどうでもよくなるというか。『映画はこれでいいんだ』と納得させられてしまう。エンターテインメント映画の極みだと思います。
そして、主人公が見知らぬ異国で大暴れするアクション・コメディのひな型にもなっている。
観れば、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA2』あたりはそうとう影響を受けていることがわかるし、『燃えよドラゴン』のオープニングやマッサージ・パーラーなど、ロバート・クルーズ監督は絶対お手本にしているんじゃないかなと思います。
そういう意味では、香港アクション映画にも多大な影響を与えている1作といっていいかもしれないですね。
あと、見逃してほしくないのがヒロインのウルスラ・アンドレスです。
ウルスラ・アンドレスは『007/ドクター・ノオ』で初代ボンド・ガールを演じた美女なんですけど、『カトマンズの男』の撮影途中で彼女とベルモンドは恋仲になってしまうんです。
映画を観ていくと、後半になればなるほどベルモンドがウルスラ・アンドレスのことが好きでたまらないみたいなことがスクリーンからにじみ出ている(苦笑)。
これはみなさんスクリーンで確認してみてください。
まあ、でもベルモンドが惚れてしまうのも納得で、ウルスラ・アンドレスってすごくスクリーン映えする女優さんで。
写真で見るよりも映画で動く姿をみると、ほんとうに魅入るところがある。
ベルモンドをとりこにした女性ということで注目してください。
もうひと言加えておきますと、『リオの男』と『カトマンズの男』は、もうこの2本を見ないでアクション映画とか語ることは絶対できない。
この2本を見ずにアクション映画は語れない。そう言っても過言ではない最高峰の作品です。
ベルモンドのアクションがとにかく満載。CGを使ってない映画のすごさというのはやはりスクリーンで見ないと分からないですよね。
いまいろいろな事情でベルモンドがやっているようなアクションは、やること自体が許されない。
いま誰かにやれといってもできないんです。CGで済ますしかない。
いまではできない、CGじゃない、本物のアクションのすごさを味わってほしい。
『カトマンズの男』と『リオの男』は、フィリップ・ド・ブロカとベルモンドとという2つの個性だから成しえた作品で。二人が最も幸福な融合を果たしている作品といっていい。
その作品は色あせず、作られてから50年経っても文句なく面白い。
正直なことを言うと、第一弾でこの2作品を外したのは苦渋の選択だったんです。
でも、いまみなさんのリクエストを経て、こうして上映できて良かったと思います。この2本をやらないと、<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>は終われないと思っていたんですけど、今回でひとつの目的を果たすことができました。
個人的にはもうこの2本は映画という文化遺産。ぜひスクリーンでみてほしいです」
ベルモンドのクールなかっこよさを引き出している「相続人」
続いて「相続人」は?
「この作品を手掛けたフィリップ・ラブロは、第一弾の<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>で上映した『危険を買う男』の監督です。
ラブロ監督は、ド・ブロカ監督とは正反対。とにかく知性派の監督で、作風もシリアスで、ベルモンドのクールなかっこよさを引き出している。
日本で言えば『華麗なる一族』のような物語なんですけど、そこにきっちりベルモンドの魅力をはめ込んでいる。
そもそもベルモンドの演じる役の多くは、不倫とか浮気とか存在しないというか。自由でその愛嬌ですべてが許されるような男として存在していて物語自体もおおらか。
でも、こちらのラブロ作品は完璧にシリアスでクールに徹している。でてくるヒロインも二人とも悪女で、恋愛というか差し違えるか否かのようなピりついた関係になる。
『相続人』は、ベルモンドのもうひとつの顔的なクールなかっこよさを堪能できる1作といっていいかもしれません。
それと危険なアクションというのは抑え気味なんですけど、この作品は内容自体がかなり危険なんですよね。
いま、こういう物語を描けるかというぐらい、危険な大企業の内幕に突っ込んだ映画なんです。
ベルモンドのフィルモグラフィーの中でも異色作ですけど、これも見逃せない1作です」
日本では劇場未公開に終わっていた「エースの中のエース」
続いて「エースの中のエース」は?
「江戸木純セレクションとさせていただきましたけど、この作品は、フレンチ・コメディの大巨匠、ジェラール・ウーリー監督とベルモンドが組んで、フランスでは1982年の年間興行収入でスピルバーグの『E.T.』に次ぐ2位となった大ヒット作なんです。
世界中のベルモンド・ファンの間でも人気が高い。なのに、日本では劇場未公開に終わっていた。
今回ついに劇場公開ということで、スクリーンで見る意義はすごくあると思いますし、ベルモンドとヒトラーの対決というのは映画史上、空前の闘いだと思います」
「アマゾンの男」は「リオの男」とセットで
最後に「アマゾンの男」は?
「前のインタビューでも少し触れましたけど、『アマゾンの男』は、『リオの男』から36年ぶりにド・ブロカとベルモンドがアマゾンに戻って撮った作品。
『リオの男』の同窓会みたいなことをやっている。
なので、『リオの男』を見ていないと100%楽しめないところがあるのは確か。
だから、『リオの男』とセットでみたいところがあります。そうすると実に味わい深いところが随所にある。
ド・ブロカ監督が亡くなる4年前の作品なんですけど、ひとりの映画作家が晩年にいろいろな今までの思いを込めて、もう一度ベルモンドという最高のコンビと組むことにした。
それが意味することを込みでみてほしいですね」
最後にこう言葉を寄せる。
「重ねてになりますけどとにかくベルモンドの映画はスクリーンでこそなので、なかなかいま劇場に来てくださいといいづらいんですけど、ひとりでも多くの人がベルモンドと出会っていただけたらと思います。
そして第三弾につなげられたらなと。
それから今回の第二弾の特集上映に合わせて、第一弾の作品を集めたブルーレイボックスなどがリリースされてますので、そちらもよろしくお願いします」
<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2>
新宿武蔵野館、名演小劇場、京都シネマにて公開中!
フォーラム仙台、横浜シネマ・ジャック&ベティ、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、中洲大洋映画劇場ほかにて上映決定!
詳しくは公式サイトへ
<ブルーレイ情報>
「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選
Blu-ray BOXⅠハードアクション編 <初回限定版>」発売中
価格:¥22,000(税抜価格¥20,000)
制作国:フランス
収録タイトル:①恐怖に襲われた街 ②危険を買う男 ③警部 ④プロフェッショナル
「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選
Blu-ray BOXⅡ冒険ロマンス編 <初回限定版>」 6月9日(水)発売決定
発売日:2021/6/9
価格:¥22,000(税抜価格¥20,000)
制作国:フランスほか
収録タイトル:①大頭脳 ②大盗賊 ③オー! ④ムッシュとマドモアゼル
いずれも詳細は公式サイトへ
場面写真は「リオの男」
L’HOMME DE RIO a film by Philippe de Broca (C)1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.
「カトマンズの男」
LES TRIBULATIONS D’UN CHINOIS EN CHINE a film by Philippe de Broca (C)1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.
「相続人」
L’HERITIER a film by Philippe Labro (C)1972 STUDIOCANAL - Euro International Films S.p.A All rights reserved.
「エースの中のエース」
L’AS DES AS a film by Gerard Oury(C)1982 / STUDIOCANAL - Gaumont - Rialto Films GmbH All rights reserved.
「アマゾンの男」
AMAZONE a film by Philippe de Broca (C)1999 STUDIOCANAL - PHF Films All rights reserved.