”上西議員炎上”の裏で! ACL浦和戦暴行の韓国選手 懲罰軽減発表。おさえておきたい2つのポイント
”ナニワのエリカ様”の炎上商法の話題は一段落ついたか?
15日に勃発したこの話題が通り過ぎるのを少し待っていた。その裏でJリーグ有数のビッグクラブ浦和レッズ関連のしっかりとおさえておきたい話題があったからだ。
20日、AFC(アジアサッカー連盟)が控訴審議委員会を開催。5月31日のACL(アジアチャンピオンズリーグ)浦和レッズ―済州ユナイテッド戦での一連の暴行について、6月9日に発表されていた済州側の選手の出場停止処分の軽減が発表になったのだ。
■DFチョ・ヨンヒョン(試合中にレッドカードで退場になっていたにもかかわらず、試合後にピッチに戻り、浦和側との騒動に加わった)。出場停止期間6ヵ月→3カ月。
■DFぺク・ドンギュ(サブメンバーにもかかわらず試合中にピッチに入り、相手選手の顔にひじを当てる暴行を行った)。出場停止期間3ヶ月→2ヶ月。
浦和についての直接的な話ではない。20日の発表では、本件で浦和側に課された制裁金220万円の減免の協議は「来月に行われる」とされた。では、この時点での発表の何が重要なのか。
要は「済州は出場停止の件についてこれ以上何も申しません」としている。ならば、あれこれと分析してみようということだ。
済州側は20日のAFCの発表を受け、韓国メディアを通じ「今回の決定を受け入れ、再発防止に努める」と発表した。発表後に筆者が直接電話取材した済州広報担当も「報じられている通り」と認めた。つまりはこれにより、今回の最悪の事態として想定された「(挑発したとされる)浦和側への出場停止処分」という可能性が消えた。済州は試合中、試合後の動画・映像を集め、浦和がいかに挑発してきたかをAFC側に訴えていたのだ。
一般的に考えて、6月9日の”一審判決”で浦和側の出場停止処分が課されなかったため、今回追加される可能性は低かった。しかし、判決について予測外のことが起きる、というのがというのがAFC関連の懲罰の常。筆者自身、過去にも韓国選手の故意ではないドーピング使用について、周囲の予想以上の厳しい出場停止が課される、といった事例を見聞きしてきた。何が起きるか分からないから、済州を刺激する内容を少し控えてきた。ここらは筆者を含めた日本メディアが、AFCの裁定の決定過程や現場への取材が浅いという反省もあるのだが。
今、このタイミングで押さえておきたいポイントが二つある。
済州側のAFCへの交渉法が明らかに。「パク・チソン嘆願書」の存在も
ひとつめは韓国側のAFCへの交渉法が明らかになった点だ。浦和レッズやJリーグのファンからすると、ここからの済州の話は驚くべきロジックだろう。しかしこれが現実。”相手方の出方”が明らかになった点は貴重だ。この先もAFCに関わる”戦い”は起きうる。この際の忘備録としても記しておきたい。
21日付の「スポーツ朝鮮」は今回の件を詳らかに報じた。まずは6月9日の最初の決定を受けての済州側の大きな方針をこう記した。
さらに、軽減のために細かい点はこう詰めていったという。
同紙はまた、これらの内容を記した「パク・チソン嘆願書」の存在を報じた。パクのほか、2010年南アワールドカップでともにプレーしたイ・ヨンピョ、ク・ジャチョル、女子代表チ・ソヨンらヨーロッパでプレーする選手たちも同調し、書面付きのメッセージを添えたという。
”浦和戦後遺症”から済州はボロボロになっている
もうひとつ、このタイミングで済州について改めて記したいことがある。”ACLショック”のため、チームがボロボロになっているのだ。済州はあの試合のあと成績が急降下しているうえに、多くのメディアから批判的に書かれている。
済州ユナイテッドの浦和戦(5月31日)以降のリーグ戦の結果は次の通りだ。
6月18日 アウェー 江原 1-2 ●
21日 アウェー 蔚山 0-1 ●
24日 ホーム 浦項 3-0 ●
28日 ホーム 仁川 1-1 △
7月2日 アウェー 全南 2-2 △
9日 アウェー 水原 0-1 ●
12日 ホーム 全北 2-0 ○
16日 ホーム ソウル 1-2 ●
19日 ホーム 尚州 3-0 ○
22日 ホーム 浦項 3-2 ○
3勝2分け5敗。確かに今月中旬以降は、首位の全北に勝ち、中位、下位圏のチームにホームで連勝。持ち返してはいる。しかし浦和戦後に6戦連続未勝利を記録するなど厳しい状況に置かれた。リーグでの順位は首位から一気に5位まで落ちた。6月6日のカップ戦でも当時リーグ戦で絶不調だったスーウォンにホームで敗れ、ベスト16で大会から姿を消した。
「スポーツ韓国」は7月14日の記事で済州の状況をこう記している。
”去る5月31日浦和レッズ(日本)とのアウェーゲームからだった。5月にはKリーグの首位を走り、韓国から唯一ACLのベスト16に勝ち残り、大韓協会カップの優勝の可能性も残していた。すべての面で完璧に見えた済州ユナイテッドがこの試合に敗れた。結果、(アジアの)大会での敗北はもちろん、乱闘劇まで繰り広げたことで論争の中心に立つことになったのだ”
下降線を辿る事態には、明確な理由がある。他でもない、浦和戦の乱闘騒ぎにより出場停止で選手を欠く影響だ。当初6ヵ月の出場停止処分を受けていたチョ・ヨンヒョンは守備の核であり、槙野智章を追いかけたDFクォン・ハンジンも2試合の出場停止で欠いた。3カ月の出場停止だったぺク・ドンギュもDFだから、一気に守備の選手を3人欠くことになったのだ。
いっぽうで、済州のチョ・ソンファン監督は、浦和戦のメンタル面での影響を直接的に、こう表現している。
「(ACLと国内カップ戦への)期待値が高かっただけに、敗戦のショックが大きく押し寄せているようだ」
「シーズン序盤はいい戦いを見せていたが、その勢いを失った喪失感と不幸な事態を経て、選手は心理的・肉体的に大きく疲労している」(6月下旬、国内メディアに向けた取材時に)
浦和レッズも5月31日の済州戦以降、リーグ戦で2勝5敗の成績だ。順位も8位にまで落ちている。ACLの激戦との因果関係の詳細を分析するのは別の機会に譲るが、データ面でだけ言うと「ACLと国内リーグを両立する難しさ」があるように見える。この点の解決、あるいはこの難しさのリアリティをメディアが伝えていく点は、両国に共通するテーマでもある。
余談になるが、「スポーツ朝鮮」のように済州に寄り添って報じるメディアがある一方で、済州に対して批判的な視点を向けるメディアも多い。「イルガンスポーツ」は18日、「”Kリーグの問題児”済州、”意思疎通難”に加え、”勝ち点自動販売機”」という記事を発信した。先般の暴行事件でのイメージ失墜。さらにチームの不振から、ホームスタジアムでサポーターが応援を拒否する事態も起きたこと、さらにクラブ側は否定しているものの、済州からのホームタウン移転の噂が報じられている。母体企業の財閥グループSKと済州道側のホームタウン契約が今年いっぱいとなっているうえに、ソウル近郊の龍仁市がKリーグクラブ設立運動を旗揚げしたことから、「移転があるのでは」と国内複数メディアが報じた。いずれにせよ、済州に向けられる視線は厳しい、といえる。
浦和は勝者。今回の発表が何らかの発奮材料となれば
では本稿で結局何が言いたいのかというと、ふたつのポイントとは「韓国側のAFCへの交渉法が明らかになった」という点と「済州の浦和戦後の転落」についてだ。
あわせて、目の前のリーグ戦を戦う浦和に言いたいのがこの点だ。上西議員の件と合わせ、”今回の発表も浦和の発奮材料にしてほしい”ということ。
浦和はあのゲームで勝ち、8月23日の準決勝に進む資格を得た。浦和も済州もあの試合の後に成績が下降するなか、こちらは勝者であるという事実は歴然としている。ダメージからすれば小さくて然るべきだ。重ね、勝ったのだから。
筆者の目から見ても、済州の日本のホームでの暴力は許し難かった。結局日本側への謝罪はない。一時「阿部勇樹にエルボーを食らわせたぺク・ドンギュが日本に謝罪に訪れる」とも報じられたが、今回の済州クラブ広報への取材で「実際に動きはなかった」という点も明らかになった。さらには罪の軽減のためにあれこれと策を張り巡らせている点も、合法的な方法ではあるものの、感情的にはもちろん快くはなかった。頭の中にクエスチョンマークが灯った。ここまでやるのか、と。
その一方で、済州に課された罰と敗戦の影響は大きい。選手を失い、チームが停滞している。韓国内でのイメージも大きく失墜した。
健全な日韓関係とは、しっかり相手を批判し合えることだ。感情的になりすぎることなく、怒るべき点はパッと怒るぐらいがちょうどよい。そのうえで相手が受けた罰の内情を知り、ひとつの区切りをつけて発奮材料としていただければ。もちろん来月のクラブへの罰金軽減は重要なマターだが。
ACL日韓対決ををウォッチングする立場からの今回のリポートだ。Jリーグを愛する者として浦和のようなビッグクラブには常に強くあってほしいと願う。ACLの準々決勝の段階での”戦禍”で弱っているとも見える結果を示してほしくはない。浦和レッズは28日14時からJ1第19節を戦う。コンサドーレ札幌とのアウェーゲームだ。