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エボラ臨床試験薬に効果の朗報、他州への感染拡大、日本も援助隊を派遣

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
エボラの立て看板を見る少年たち。ゴマに新設された国境なき医師団の治療センター前で(写真:ロイター/アフロ)

世界保健機関(WHO)と米国立衛生研究所(NIH)は8月13日、アフリカ・コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で臨床試験下にあったエボラウイルス病(以下、エボラ)の4種類の治療薬について、うち2種類に高い効果がみられるとの見解を発表した。この朗報が世界を巡る最中、15日には流行州だったイトゥリと北キブ以外の南キブ州でも、母子のエボラ感染が確認される。他方、同国でははしかによる死者が年初からの累計で2758人にのぼり、今回のエボラによる死者数をはるかに超えていると、国境なき医師団(MSF)が改めて警鐘を鳴らした。

2種類の臨床試験薬に高い効果を確認

エボラは専門家の間で、“まぼろしのウイルス”とも言われる。ある日、突然現れて、猛威を振るい、へき地で発生した場合には、住民の多くを襲い、人々の死とともにウイルスも絶えるからだ。西アフリカでのエボラ大流行で一時活発化した治療薬の研究はその後下火になり、現在も承認薬はまだ存在しない。今回のコンゴでの流行を受け、昨年WHOに専門チームが再結成され、臨床試験の設計を経て、11月から4種類の候補薬を使った臨床試験が開始された。

4月末に、WHOの臨床試験担当者で医師のPさんに、臨床試験の途中経過と今後について、話を聞いた。Pさんは設計の全体像と、1種類の薬ごとに125のサンプル取得を目指していること、もし今回の流行が近々収まり、目標のサンプル数が集まらなければ、次にエボラが発生した際に臨床試験を再開してサンプルを再び集めることなどを説明してくれた。

「もし目標数に届く前に、4種類の中で効果に明らかな差異が見えてきた場合、臨床試験は続けるのですか」との問いに、Pさんは一呼吸おいて、「治療効果を考えても医療倫理的にも、それはない。そうした結果が出たときには、現在の臨床試験は見直す」と話してくれた。

その後も残念ながらエボラの流行は収まらず、結果として臨床試験に必要なサンプルも蓄積されていった。今回、2種類の薬剤に高い効果が確認されたとの発表では、4種類の臨床試験は中止し、効果のみえた2種類に絞って投薬を続けることも明記されていた。

効果の期待できる薬剤があることがわかったからこそ、その治療に一人でも多くの患者さんがアクセスできる環境が必要だ。先週行われたアフリカ47ヵ国の保健大臣会合では、2020年~2030年の10ヵ年戦略が採択されたが、その中でも住民理解、予防、調査、早期発見・治療、追跡など、あらゆる感染症対策の基礎となるコミュニティ・ベースの取り組みの強化が掲げられている。

国内・周辺国での予防対策もいっそう活発に

コンゴでは、流行当初からMerck社製のワクチン1種類が採用されてきたが(こちらも臨床試験段階)、流行拡大に伴う数の確保などの面から、コンゴでは第2候補のJohnson & Johnsonグループ製のワクチンの議論が数ヵ月にわたって続いている。そのワクチンの大規模臨床試験が今月頭から、隣国のウガンダで開始された。エピセンター(MSFの疫学研究機関)とロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院の協力のもと、ウガンダ保健省が、コンゴとの国境地域で活動を行うスタッフ800人を対象に、2年の計画で試験を実施する。

北キブ州の首都ゴマや南キブ州での感染確認は、当然ながら、周辺国にいっそうの緊張をもって受け止められ、ウガンダ以外の、ブルンジ、ルワンダ、南スーダン、アンゴラ、中央アフリカ共和国、タンザニア、ザンビアでも、発熱の測定や人の移動の把握などの国境対策、市民への広報などにいっそう力を注いでいる。

コンゴ国内でも、これ以上の感染拡大を何としても食い止めようと、感染が確認された3州からの人の出入りの監視を強化している。日本の国際緊急援助隊(JDR)も今月2回にわたってチームを派遣し、コンゴ中央部に位置するツォポ州の州都キサンガニで、通過する人々への発熱の測定など感染症対策を担っている。

JDRのチームには、西アフリカでのエボラ流行時に現地で活動した日本人も参加し、日本人の感染症対策の経験が、後年、別の国の流行でも生かされている

エボラ対策の影で、はしかが子どもたちの命を奪っている

コンゴでは、はしかやマラリア、コレラ、栄養失調が慢性的に、特に子どものたちを苦しめていることは第2回でも書いたが、8月中旬、MSFは、コンゴにおけるはしかの大流行が危機的状況にあるとして、国と国際社会に改めて対応を呼びかけた。

6月にコンゴで話を聞いたMSFのSさんによれば、はしかの感染者数は、直近の4ヵ月で既に2011年の年間数に匹敵する規模になっていた。国と国際社会がエボラ対策に追われ、資金も人手もそれ以外に回っていないこと、同国東部の紛争激化で人々が脆弱な環境に置かれ続けていること、新政府への移行途上(昨年末の新大統領選挙の混乱と、それに続く首相および大臣の着任の遅延)で、国のはしか対策もNGOが用いるはしかワクチンの輸入承認なども大幅に遅れていることなどを説明してくれた。毎週開かれる保健省の感染症に関する報告会でも、同様に、はしか大流行への懸念が報告された。

予防接種で防げる死であるにもかかわらず、こうして日々命が失われている。エボラは見過ごせない危機だが、危機はエボラだけではない。

今週8月28日~30日には、横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催される。政治、経済、環境などと同様に保健・医療はグローバルな課題であり、同時に、予防接種や治療薬の選択は私たち個人が日々向き合う私事でもある。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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