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米国で囁かれているメーガン夫人とある日本人女性の「意外な共通点」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
メーガン・マークル夫人。昨年9月のエリザベス女王の国葬にて。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

昨年12月のネットフリックスの『ハリー&メーガン』公開に続き、ハリー王子の回顧録『SPARE(スペア)』が今月10日に発売されるにあたり、アメリカでは連日、ハリー王子とメーガン・マークル氏(サセックス公爵夫人)の報道が過熱している。

回顧録ではウィリアム皇太子の暴行疑惑やハリー王子が軍隊在籍時に25人の敵兵を殺害したことなどショッキングな暴露の連続で、報道は過熱する一方だ。普段ならゴシップを取り扱わないCNNやCBSのニュース番組までもがハリー王子夫妻と英王室のスキャンダルを取り上げる始末。

回顧録は10日が発売日だが、すでに出回っている(写真はスペインの書店)。すでに半額の値がついているものも。
回顧録は10日が発売日だが、すでに出回っている(写真はスペインの書店)。すでに半額の値がついているものも。写真:ロイター/アフロ

筆者の周りでも、女性の友人との会話で、英王室スキャンダルの渦中にいる同夫妻の話題が少しずつ上るようになってきた。

筆者の実感としては、イギリス人はこの話題に熱い。一方で一般のアメリカ人は割とクールに捉えているようだ。例えば先日、あるホームパーティーで、このゴシップネタが話題に上がった時のこと。イギリス出身で長年アメリカに住む知人は夫妻が次々に投下する爆弾発言に不快感を示し、このように言った。

「(メーガン夫人は)何でも人種差別問題にリンクさせるから、いけ好かない。被害妄想が大き過ぎる!」

一方アメリカでは、#ShutupMeghan #ShutUpHarry(黙れ、言葉を慎め)がツイッターのトレンドワードになる一方で、実際に人々に話を聞くと「あまり気にならない」「メーガンは嫌いではない」という意見が目立つ。王室制の国とそうでない国、また人種差別問題が身近にあって敏感であるかどうかなど、国民性が大いに反映されるトピックだと感じる。

王室離脱(メグジット)後に出演したオプラ・ウィンフリーの番組で英王室の人種差別などを暴露した夫妻。英タブロイド紙の格好の餌食だ。
王室離脱(メグジット)後に出演したオプラ・ウィンフリーの番組で英王室の人種差別などを暴露した夫妻。英タブロイド紙の格好の餌食だ。写真:REX/アフロ

そんな中、ABC局のトーク番組『The View(ザ・ビュー)』でも、同夫妻と英王室のスキャンダルの話題で持ち切りとなった。コメディアンのジョイ・べハー氏はメーガン夫人を擁護する立場で、このように口火を切った。

王室の誰もがメーガンをヨーコ・オノのように扱っているように見えます

さらにこのようにコメントを続ける。

「ビートルズを解散させたと言われたヨーコ・オノは一瞬にしてのけ者になった。今起こっている(ハリー&メーガン夫妻の)騒動と似ています。言われていることがすべて本当ならの話だけど、ウィリアム(皇太子)はなぜメーガンにそんなに腹を立て、ハリーをも追い立てているのか、奇妙ですね」

オノ・ヨーコ(小野洋子)氏と言えば、日本出身の前衛芸術家で今もニューヨークのダコタハウスに住む。一世を風靡したビートルズのジョン・レノンの妻だ。ヨーコ氏はビートルズを全盛期に解散に持ち込んだ人物として、全世界のファンを敵に回したことでも知られる。当時はファンの間で「いけ好かない女」の代表格とされていた。

御年80歳になるべハー氏は、ビートルズが解散した1970年、28歳だった。言うなればちょうど「ビートルズ世代」ということになる。

ビートルズ解散の前年の1969年3月、「IN BED」という平和を祈るデモンストレーションをしたジョンとヨーコ。
ビートルズ解散の前年の1969年3月、「IN BED」という平和を祈るデモンストレーションをしたジョンとヨーコ。写真:Shutterstock/アフロ

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ビートルズ解散から10年後の1980年12月8日、当時40歳だったジョンは、ニューヨークの住居、ダコタハウス前でファンに射殺された。

ジョン・レノン命日にファン偲ぶ ──「銃撃の一報に崩れ落ちた」あれから40年(2020年)

ヨーコ氏が60年代、70年代、世界に及ぼした影響がどのくらい大きなものだったか想像できるだろうか?

きっと若い世代の人にとってその想像は容易ではないだろう。現代版であえて例えるならば、「BTSの中心メンバーの1人がどこか遠い国の女性アーティストと恋に落ち、その女性がBTSの音楽活動に次第に首をつっこむようになり、グループの今後の活動に影響を与えてしまうほどの存在に成り上がり、最終的にその女性の存在や活動がきっかけでBTSが解散してしまう」くらいの衝撃だったと説明すれば、わかり易いだろうか。当時のヨーコ氏はそれくらいの激震を世界にもたらした人物だった。

今でも、アメリカの年配者に「ヨーコ・オノ=日本人の魔女的なイメージ」は残っており、「日本人」というワードからジョン&ヨーコを連想する、なんていうのも決して珍しいことではないのだ。

つまり、英王室を英国出身のビートルズとなぞらえ、そのグループを引っ掻き回す存在を、外野からやって来た外国人女性、メーガン氏をヨーコ氏となぞらえたべハー氏なりの比喩であった。

ところでヨーコ氏と言えば、筆者はこれまで2度見かけたことがある。1度目は講演会、2度目は個展だった。2015年9月、MoMA(近代美術館)での個展の最終日、突如来場者の前に姿を見せたヨーコ氏。小柄で可愛らしい印象だった。筆者は近くまで寄ることができたので日本語で話しかけたところ、英語で返答された。アメリカに移住しすでに長い年月が過ぎており、日本語をいっさい使わない生活なのかもしれない。

そして、ヨーコ氏が本当にビートルズを解散させた人物であるのか否かについては議論が分かれるところだが、筆者が聴講した2007年の講演会で、ヨーコ氏はこのように自身の言葉で語っていたのが印象的だった。

「ジョンのことをムリやり手繰り寄せてもいないし、何を言ってもメディアはでっち上げるから悲しい」

真意のほどはわからないが、騒動についてはメーガン夫人も同じような心境にあるのかもしれない。

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筆者は以前、ニューヨークでオノ・ヨーコ氏の講演に行ったことがある。また美術館で偶然彼女に会い、握手をしてもらったことも。

Yes, I'm A Witch. by Yoko Ono(2007年)

YES! 目の前にオノ・ヨーコさんが(2015年)

トーク番組『ザ・ビュー』の話に戻るが、べハー氏は共演者に「マークルが英王室騒動の責任を負う人物と思うか?」と尋ねると、コメンテーターのアナ・ナヴァロ氏は「あらゆることがゴシップとして取り上げられている。現実はより暗く悲しいものだろう」と語った。また「悲惨な家族単位の崩壊が目の前に見えている。ネタ、エンタメとして取り上げられるゴシップで、王室のことだけどそれは家族の話題でもある。これだけ世の中に騒がれてしまい、傷(家族関係の亀裂)が癒えるのは難しいのではないか」との見解も示した。

べハー氏は「彼女に対する暴言は鼻持ちならない。信じがたいほどの虫酸が走る」と、番組内では終始、メーガン夫人を擁護する姿勢を崩さなかった。筆者が感じる一般的なアメリカ人のリアクションと通じるものがある。

ハリー王子の回顧録の発売まであと数日。発売後、夫妻と英王室を取り巻くゴシップの炎がさらに過熱することは必至だ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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