売上95%減の苦境から脱却! 名古屋名物・ういろうの「青柳総本家」新社長はDJが特技の34歳
コロナショックで売上95%減の大ピンチに
名古屋名物・ういろうの老舗、青柳総本家。1879(明治12)年創業と140年以上の歴史を誇ります。去る3月1日、同社の6代目社長に後藤稔貴(としたか)さんが就任しました。1989(平成元)年生まれの34歳。和菓子の老舗、そして100年企業としては全国でも珍しい若きリーダーの誕生です。
創業家出身のプリンスとあって、トップ就任は既定路線だったともとれますが、早期でのバトンタッチの背景には創業以来の大ピンチがありました。いうまでもなく2020(令和2)年から吹き荒れたコロナショックです。緊急事態宣言が発令されて世の経済活動の多くがストップしてしまった同年5月、同社の売上は実に前年比95%減。お出かけすら許されない状況下で、お土産用のういろうがまったく売れなくなってしまったのです。
コラボういろう、マリトッツォ風まんじゅうなど次々開発
未曾有の危機に直面し、当時取締役だった後藤さんが仕掛けたのが斬新な商品開発。2021(令和3)年7月には初音ミクとのコラボでねぎ味とピスタチオ味のういろうを発売。先行販売された100箱がわずか7分で完売するなど大きな話題となりました。その後もカエルまんじゅうをアレンジしたケロトッツォ、ドラゴンクエストウォークとコラボしたスライムういろう、さらにウルトラマン、新世紀エヴァンゲリオンとのコラボういろうなど、次々にユニークな商品を売り出していずれもヒットにつなげました。
「当時はコロナ禍のせいで社内の空気がむちゃくちゃ重く、とにかくこのムードを変えなくては・・・!という思いでした。ケロトッツォの時は開発期間がわずか一ヶ月半だったこともあって、“そんな短期間で新商品なんてできない”“流行り物に乗っかるだけですぐに飽きられる”など否定的な声がほとんどだったのですが、意見を押し通しました。いざ発売すると連日行列ができるほどの人気商品に。ケロトッツォのお客様は地元の方、自分で食べるために買う方が多く、それまでのお土産需要中心から自家需要を掘り起こせたのもコロナ禍においては有効でした。おかげで社内でも少しは信用してもらえるようになりました(笑)」
ケロトッツォの原型となったカエルバター。カエルまんじゅうのアレンジレシピの投稿がきっかけで商品化した
「笑顔製造業」の明文化でチャレンジしやすく
コロナ禍という非常事態がゆえにチャレンジしやすくなった大胆な新商品開発。しかし、これは決して目先の話題づくりではなく、企業理念にのっとった戦略だったといいます。
「本社配属となった2019年にまず着手したのが企業理念を明確にすること。理念を『青柳総本家に関わる人を笑顔に』、本業を『笑顔製造業』と定義しました。当社は昭和の時代にはフレンチやメキシカンのレストランを出店するなど、もともとベンチャー精神旺盛な社風で、柳にカエルが飛びつくロゴマークもチャレンジ精神を表しています。企業活動において最も大切なのは、お客様も社員も関わる人すべてを笑顔にすること。ういろうもレストランもそのための手段です。皆さんを笑顔にできることなら何でもやろう! コラボ商品やケロトッツォは一見、話題性優先に思われるかもしれませんが、あくまで理念にのっとってつくり出したものなんです」
SNSの活用も後藤さんの功績のひとつ。2020年10月にTwitter(現・X)のアカウントを開設し、ここからケロトッツォも生まれました。キャンペーンや新商品発売などのニュースも効果的に発信し、ファンを獲得していきました。
このような対外的な施策とあわせて内部体制の強化にも着手しました。
「かつては現状維持でよしとする空気だったのを成長を目指す方針に転換しました。そのために取り組んだのが様々な業務の仕組み化です。それまで個人の能力に依存していたところを現代に合わせたソリューションを図りマニュアル化を進めています」
こうした取り組みによって、「営業利益は2022、2023年と2年連続で、過去30年間の中でも最高を記録。コロナ禍からは完全に脱却しました」と後藤さん。業績どん底の危機にもめげずに新機軸を打ち出し、回復~上昇基調へと転じさせた。この実績が、今回の30代前半での社長就任にもつながったといえそうです。
名古屋名物・ういろうの文化を守り発展させる
ユニークな新商品が市場をにぎわしていますが、やはり“青柳総本家=ういろう”が世間一般のイメージです。
「ういろうは当社が1931(昭和6)年に初めて名古屋駅構内での立ち売りを始め、1964(昭和39)年には新幹線での車内販売を行い、名古屋名物として広く知られるようになった。ういろうを名古屋の文化として守っていくことは青柳総本家の使命と考えています」、こう力強く宣言する後藤さん。
「ういろうって今のままでも本当においしいんです。でも、まだ食べたことがない、おいしさを知らない、という方もたくさんいらっしゃる。知ってもらうためにもっといろいろ取り組まなければなりません。だからコラボういろうでも、必ず定番の白などをセットの中に入れるようにしています」
コラボ商品はいわば変化球。それを活かすのはやはり王道のストレート。変わらない定番のおいしさがあってこそ、遊び心のある期間限定商品の面白さも引き出されるというわけです。
「ういろうはお土産需要が多い商品ですから、変えない方が勝ちやすいとも考えられます。伊勢の赤福がまさにそう。お土産商品はどこそこへ行ったらこれ!という選び方が主流で、新しい何かを買おうという人は少ない。それをふまえた上で、ういろうをもっと深掘りして可能性を探っていきたいと考えています」
DJイベントで和菓子のユーザーを拡大
後藤さんはDJとしても活動。和菓子の魅力を伝える「アンコマンナイト」というイベントに出演するなどし、商品のPRや販促も行っています。和菓子とDJ。まったく異分野のように感じますが、共通点はあるのでしょうか?
「クラブイベントって、お客さんが求めている曲を選んで空間を楽しんでもらうもの。ニーズをキャッチしておもてなしするという点では和菓子と一緒なんです。DJをやってきたことはビジネスにも活きています」
イベントに集まるのは若い世代が中心。ここでういろうなどを配ることで、先の発言にある“食べたことがない人にういろうを知ってもらう”を実践しているわけです。
この他、ういろうをソテーして食べる「焼きういろう」の試食イベント、ういろうをカレーにトッピングする試食風景のSNS投稿など、ういろうの新しい食べ方を提案する試みも。味わい、消費者、シーンなどあらゆる面でういろうの可能性を広げんと取り組んでいます。
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名古屋は実は和菓子処で、地元消費がその市場を支えてきました。京都のような観光客需要を見込めないため、値ごろでくり返し食べても飽きない和菓子文化が育まれてきました。ういろうはそんな中で貴重なお土産商品だったわけですが、もともとは町の和菓子店がそれぞれ競い合って名物に育ててきたもの。コロナ禍という非常事態がひとつのきっかけではありましたが、その魅力があらためて名古屋市民に見直されてきているのは心強く感じます。
同時に、観光客も急増している中、名古屋の和菓子シーンの一大ブランドである青柳総本家の存在は今後ますます重要になってくることは間違いありません。創業家出身で伝統の重みを熟知しつつ、新進気鋭の精神にも富む若き新社長。地元にも観光客にも愛される老舗のブランドづくりに期待します!
(写真撮影/筆者 エヴァンゲリオン×青柳総本家のコラボういろう、アンコマンナイトの写真は青柳総本家、後藤稔貴さん提供)