ジビエの生食で感染することでどんな感染症のリスクがあるのか?旋毛虫症、E型肝炎、トキソプラズマ症など
ジビエ(野生鳥獣の肉)は、農作物被害を起こすシカやイノシシを食肉として有効活用されていますが、ジビエの生食は感染症のリスクとなります。
実際にどのような感染症にかかる可能性があるのか、そして加熱の重要性についてご紹介致します。
なぜジビエは感染症のリスクがあるのか
ジビエとはシカ、イノシシなど狩猟の対象となり食用とする野生鳥獣、又はその肉のことです。
シカやイノシシなどの野生動物が増えることで農作物に被害が出ていることもあり、
ウシやブタ等の家畜とは違い、エサや健康状態の管理が行われていないことから、病原体(ウイルス、細菌、寄生虫など)を保有している可能性が高いと考えられています。
旋毛虫症(トリヒナ症)
旋毛虫は寄生虫の一種で、ブタ、ウマなどの家畜、クマなどの野生動物に寄生しています。日本の動物ではクマ以外にキツネやアライグマからも見つかっています。
旋毛虫が寄生する動物の肉を人が生食、あるいは加熱不十分の状態で喫食することで、旋毛虫症(トリヒナ症)を発症します。
旋毛虫症では発熱、皮疹、だるさ、筋肉痛など多彩な症状がみられます。
最近では、加熱不十分なクマ肉を食べた21人が旋毛虫症を発症したという集団食中毒の事例が報告されています。
この事例では、ヒグマのローストが原因と考えられており、この写真のように加熱が不十分な状態で食べたことで旋毛虫症に感染したと考えられます。
E型肝炎
E型肝炎はE型肝炎ウイルスによる感染症で、名前の通り肝臓に炎症を起こす疾患です。
症状はA型肝炎と似ていて、発熱、吐き気、腹痛などの症状がみられます。妊婦さんが感染すると劇症化しやすいと言われています。
ブタ、イノシシ、シカ、ウサギなどがE型ウイルス肝炎に感染していると考えられ、これらの動物を加熱不十分な状態で食べることでE型肝炎を発症することがあります。
E型肝炎は、近年国内での報告数が増加傾向にあり、年間400-500例が報告されています。
ブタ、イノシシ、シカの肉をレバーなど加熱不十分な状態で食べたことが原因と考えられる事例が多く報告されています。
腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどによる細菌性腸炎
ウシやブタと同様に、イノシシやシカなどの野生動物の腸管からも腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどの食中毒を引き起こす細菌が検出されています。
ちなみに今回話題になっているカラス肉からもサルモネラやカンピロバクターが検出されています。
これらの動物の糞便に汚染された加熱不十分な肉を食べることで、細菌性腸炎が起こり下痢や発熱などが生じることがあります。
トキソプラズマ症
トキソプラズマ原虫は寄生虫の仲間であり、ブタ肉やネコの糞が感染源としては有名ですが、ウシ、ウマ、ヤギなどの野生動物でもトキソプラズマの感染が確認されています。
妊婦さんがトキソプラズマ原虫に感染すると、お腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症に感染することがあります。先天性トキソプラズマ症は水頭症、視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害などを特徴とする感染症であり、日本では治療薬が未承認であるという問題点があります。
この他にも、家畜や野生動物の生肉や加熱不十分な肉を食べることで住肉胞子虫症(ザルコシシティス症)、肺吸虫症、豚レンサ球菌感染症、など様々な感染症に感染するリスクがあります。
しっかりと中身まで加熱することが重要
ジビエそのものは大事な食文化ですが、感染症対策をしっかり行った上でジビエ料理を楽しむようにしましょう。
狩猟から消費に至るまでのジビエの安全性確保のための取組みとして、厚生労働省
は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を策定しています。
表面の加熱だけでは、肉塊内部に潜む病原体を失活することができません。
とにかく生肉を食べない、肉を中心部までしっかり加熱(75度を1分、またはこれと同等以上)をするということが重要です。
また生肉を触った手は病原体に汚染している可能性があります。生肉に触った手、使用した包丁やまな板などはしっかりと洗うようにしましょう。