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上々のデビューを飾った澤村拓一が見せた徹底した低め勝負に秘められた思い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB初登板後にオンライン会見に応じる澤村拓一投手(左・筆者撮影)

【澤村投手が開幕戦で無失点デビュー】

 いよいよMLB1年目のシーズンを迎えたレッドソックスの澤村拓一投手が、シーズン開幕戦でいきなりデビューを飾り、1回を無失点に抑える好投を披露。上々のスタートを切った。

 最後の打者を二ゴロに打ち取ると、TV中継の音声でも聞き取れるような「ヨッシャー!」という声が響き渡った。もちろん誰もが日本語だと理解できる叫び声だった。

 ビザ取得の関係でチーム合流が遅れ、さらにオープン戦ではMLB公式球の対応に苦しむなど、多少の不安を残してシーズン開幕を迎えていただけに、澤村投手の感情が雄叫びとなって表に出てしまったのだろう。

【TV中継クルーを魅了した投球内容】

 オープン戦では見られなかった素晴らしい投球内容に、レッドソックスのTV中継クルーがすっかり魅了されている。

 先頭打者から空振り三振を奪った93マイル(約150キロ)のスプリットは、クルーの1人がその球速からフォーシーム(真っ直ぐ)と勘違いするほどの球威があった。直後に流れたスローモーションでスプリットの握りを確信すると、「えげつないシンカーの曲がりなのにスプリットだとは」と驚嘆するしかなかった。

 その後もフォーシームで最速96マイル(約154キロ)を計測すると、「オープン戦ではここまで速くなかった」と、さらにビックリ。最後は「スライダー、スプリットが素晴らしい。球威もある。そして経験を有しており、(投げることを)恐れていない。彼を気に入った」と、すっかりクルー全員の心を掴んでしまった。

【首脳陣の気遣いを感じられた初登板】

 それにしても今回のデビュー戦は、それをお膳立てした首脳陣の気遣いが感じられた。

 0対3とリードを許した9回に登場。今シーズンは「勝利の方程式」の一角を担ってほしいと期待されている投手なので、本来なら起用される場面ではなかったはずだ。

 前述通り不安を残した状態でのシーズン開幕だったこともあり、まずはプレッシャーのかからない場面からスタートさせようという配慮があったはずだ。

 それを裏づけるかのように、2アウトからフレディ・ガルビス選手に二塁打を打たれると、すぐさまデーブ・ブッシュ投手コーチがマウンドに行って声をかけている。

 2アウトからヒットを許しただけなので、ここも通常ならコーチが急いでマウンドに行くような場面ではなかったはずだ。それだけ首脳陣が澤村投手を気にかけていた証ともいえる。

 そうした首脳陣の気遣いが功を奏し、中継スタッフを喜ばせるような好投を演じたというわけだ。

【捕手の要求通りに低め勝負に徹する】

 また今回のデビュー戦で、その配球に早くも澤村投手の変化を垣間見られた。

 試合後に澤村投手は「クリスチャン(バスケス捕手)のサインに対して自分のボールを投げきることしか考えていなかった」と話しているのだが、改めて全投球をチェックしてみると、捕手が構えたミットの位置は1球を除きすべて低めだった。

 これは、チーム合流後に「自分は(真っ直ぐとスプリットを中心に)高低で勝負するタイプの投手なので、高めの真っ直ぐを如何に投げ切るかが重要になってくる」的な内容を口にしていた、澤村投手の考えとは明らかに違っている。

 もちろんコントロールミスで高めに行くことはあったものの、澤村投手が説明しているように、捕手の要求通り低めに投げることに徹していた。その姿は、日本で培ってきた経験で築き上げた投球を一端白紙にして、ゼロからMLBの舞台で勝負していこうという覚悟を感じ取った。

 「納得いかない投げ方だったり、何か違うなというところはありますけど、ゼロで終われたというところだけは良いスタートが切れたと思っています。

 (MLB公式球に関しては)課題はありますけど、神経質になりすぎずに表現できたらなと思っています」

 上々のデビューを飾っても、澤村投手に安堵の表情は見られなかった。いよいよ長年夢見た真剣勝負が始まったという高揚感もあるのだろう。とにかく1日も早く、自分の投球に納得でき笑顔を見せる澤村投手の姿を待ち侘びたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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