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球速減退は必然それとも偶然?!ベーブ・ルースでさえ経験していない大谷翔平の二刀流フル稼働を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
クリーブランド戦では明らかに球速が減退していた大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【球速ダウンの大谷選手が5回途中で降板】

 エンジェルスの大谷翔平選手が、現地時間5月19日のクリーブランド戦にDH解除で先発に臨んだが、5回途中で交代した。5回を投げきれずに降板したのは、マメの影響を考慮して4回で交代した4月20日のレンジャーズ戦以来。また球数は今シーズン最少の72球だった。

 今シーズンの速球平均球速が96.6マイル(約155キロ)を記録している大谷選手だったが、この日は立ち上がりからまったく球速が出おらず、基本的に94マイル(約151キロ)に止まっており、最後まで変化球中心の組み立てに終始するしかなかった。

 前回5月11日のアストロズ戦での登板を終えた後、全体的な疲労を考慮され、登板日をずらして中7日で臨んだ試合だっただけに、ジョー・マドン監督も大谷選手本来の球速が出なかったことに「ちょっと驚いている」と話している。

【経過観察の姿勢を見せるマドン監督】

 だがマドン監督は、今回の球速減退を重く受け止めているわけではない。今後も大谷選手と話し合いながら、経過観察していく考えを明らかにしている。

 「とりあえず(状況を見極めるために)待つつもりだし、過剰反応しないようにしたい。

 (投球の)メカニックの部分で問題はなかったし、身体的にも問題はなかった。傍目からは(投球フォームに)何の違いも見られなかった。ただ今晩は全体的に上手くいかなかったのだろう」

 その点については、大谷選手もまったくの同意見だ。

 「(ケガの可能性は)ないと思います。そのまま打っていましたし。単純に身体が動かなかっただけかなと思います。

 メカニック的にも問題はなかったですし、よく対応できた方かなと思っています」

 とりあえず2人のコメントを総合すると、しばらく登板を回避するような緊急事態ではなく。明日以降の体調を考慮しながら次回登板が決まっていくことになりそうだ。

【フル稼働を危惧する声が増している】

 ここまで投打にわたり大活躍を続け、ファンを楽しませ続けている大谷選手だが、その一方で、エンジェルスで唯一全試合出場を続けているフル稼働状態を危惧する声が挙がり始めているのも事実だ。

 今回実施されたオンライン会見でも、米メディアから「休養を必要としているのか?」という質問が出たのだが、大谷選手は以下のように答え、必要性を否定している。

 「どうですかね。普通にやっていても、そういう登板の時はありますし、逆に言えばそういう登板の時にどれだけ抑えられるかが、シーズン中は大事になっているので、欲を言えば(今日の試合は)もう1ニング、2イニング投げて、中継ぎの負担を減らせればよかったですね」

 むしろ現在の起用法のままでの二刀流継続に、意欲的な姿勢を見せているのだ。

【ルース選手でさえ経験していない現在の起用法】

 そもそも現在の大谷選手のように、“毎試合出場を続ける”と“ローテーションを守りながら先発し続ける”という2つの要素を両立させてきた選手は、MLBの歴史上に存在したのだろうか。

 実は大谷選手とよく比較されるベーブ・ルース選手でさえ、そんな無理難題に挑んでいないのだ。

 まずルール選手が本格的に二刀流として起用されたのは、1918年と1919年のたった2年間でしかない。彼は元々、毎年40試合前後投げるチームの大黒柱だったのだが、その打撃センスを評価され、二刀流として起用されるようになった。

 そして二刀流1年目の1918年は、シーズン全126試合ながら出場したのは95試合に止まり、そのうち投手として先発したのも19試合まで激減している(プラス1試合だけリリーフ登板も経験)。それでも11本塁打を放ち、タイトルを獲得したため、さらに打者としての才能が評価されることになった。

 翌1919年は野手としての出場がさらに増え、シーズン137試合中130試合に出場する一方で、投手として先発した試合は逆に減り、15試合(プラス2試合にリリーフ登板)に止まっている。

 つまり現在の大谷選手のように、二刀流としてフル稼働した経験はまったくないのだ。

【野球選手としての限界を超越?】

 ルース選手の時代はDH制が存在しなかったため、打者として出場する場合は守備につかねばならない。大谷選手はDHで出場できている分だけ、多少負担が軽いという考え方もあるだろう。

 それでも打者として毎試合出場しながら、先発投手としてローテーションを守り続けるという発想自体、ちょっと野球選手としての限界を超えているように思う。

 実際大谷選手が、ここまでローテーション通りに投げられていないというのも、その証ではないだろうか。

 この日もマドン監督が大谷選手にもう1打席立たせたいという考えから、降板後にそのまま右翼の守備についている。その後第3打席に立ち予定通り交代しているのだが、試合後に米メディアから「もう少し打席に立たせる考えはなかったか?」という質問が飛び出すほど、現在のエンジェルスは大谷選手のバットを必要としている。

 この質問に対し、マドン監督は以下のように答えている。

 「それはなかった。すでに70球以上投げており、投手としてのケアも必要だ。

 我々は彼をしっかりケアしなければならないし、今後数年間すべてが機能するように進めていかねばならない。特定の1試合で無理させられない」

 マドン監督の説明に空虚感を抱いてしまうのは、自分だけはない気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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