圧倒的な才色兼備で苦手はナシ。坂巻有紗が男性と体が入れ替わる役に「愛されるダメ主人公を意識しました」
圧倒的な美形のモデルで「TGC teen」などのランウェイを飾ってきた坂巻有紗。今年は女優として出演映画の公開が相次ぐが、ヒロインを務めたのが『GONZA』だ。会社の新人研修で、自分にひと目惚れした男性社員と体が入れ替わる。難役に見えるが「楽しいとしか思わなかった」と言う。そのスタンスが万事で彼女の軸になっているようだ。
純日本人と違う元気さはあると思います
――おじいさんがアイルランド系アメリカ人だそうですが、ご自分の中に欧米のDNAを感じることはありますか?
坂巻 日々あります。母がハーフで、毎日「有紗ちゃん、おはよう。今日もかわいいね!」と言われて過ごしているので(笑)。元気なパワーは日本の方とちょっと違ったものがあると思います。
――ある時点までは、それが普通だと思っていたんですよね?
坂巻 そうなんです。高校くらいで「もうちょっと謙虚に生きたほうがいい」と気づいて、それからは空気を読んで生きてきたつもりですけど、まだ滲み出るものがあるみたいです(笑)。
――海外に住んだこともあるんですか?
坂巻 旅行にはよく行きますけど、住んだことはありません。ずっと埼玉の所沢で、緑とニワトリに囲まれて生きてきました(笑)。所沢も良いところです。
男装コンテストではモテモテでした(笑)
――『GONZA』で演じた北嶋ナディアは「才色兼備を具現化した新入社員」と言われていましたが、坂巻さん自身、そんな存在だったんですよね?
坂巻 スポーツは得意で大好きでした。姉が勉強ができたので、同じフィールドでは絶対に勝てなかったんです。それが悔しくて、自分が戦えるものを身に付けたいとスポーツを頑張って、陸上部で開花しました。
――大会で好成績を残したんですか?
坂巻 中学時代に走り幅跳びとか砲丸投げとかいろいろ挑戦して、他の学校の先生から「あなたは所沢の星だ」と言われました。埼玉県大会では表彰台には上がれなかったんですけど、頑張っていました。
――勉強も、お姉さんには及ばなかったにせよ、成績優秀だったと聞きます。それでその美形だったら、デビュー前からキラキラだったんでしょうね。
坂巻 高校時代はボーイッシュで髪もショートで、文化祭の男装コンテストではキラキラしていました(笑)。女の子からモテモテで、黄色い歓声を浴びていました。
意地でも芸能界でやってやろうと
――今の事務所には紹介で入ったそうですが、スカウトもよくされていたのでは?
坂巻 小学校低学年の頃は多かったです。中学の頃も声を掛けてくださる方はいました。
――その時点では、芸能界に心は動かなかったんですか?
坂巻 私は小さい頃から芸能界に入りたいと思っていました。でも、父が厳しくて「勉強しなさい」ということでダメだったんです。それで高校生になってから、意地でもやってやろうと思った感じです。
――最初はアーティスト志向だったんですよね。
坂巻 音楽が大好きで、自分でやっていたSNSで歌の動画がバズったりもしました。だから、アーティストで行きたいと思っていました。
――影響を受けたのは?
坂巻 ONE OK ROCKさん、Official髭男dismさん、Vaundyさんが大好きです。渋淡い感じの男性アーティストのガツンとくる曲を聴いて、「こういうのを歌いたいな」と思っていました。
――洋楽も聴きますか?
坂巻 たくさん聴きます。エド・シーランさん、ブルーノ・マーズさん、マルーン5さんとか。自分の声が女性では低いので、男性の高い声をドーンと出すのが合っています。
役を作っていくのも入り込むのも全部楽しくて
――最近は出演映画の公開が続いていますが、演技にはどう興味を持ったんですか?
坂巻 初めてお芝居に触れたのは、大塚祐吉監督の『CAT』という短編映画でした。興味本位でオーディションを受けたら、「演技したことないの? へー、いいね」って、なぜか監督に刺さったみたいで、ヒロインに選んでいただいて。それからワークショップに通ったり、いろいろな作品を観るようになって、お芝居が楽しく思えてきたんです。
――大塚監督の現場でも?
坂巻 そうですね。自分の中で役者になりたい気持ちが、どんどん大きくなりました。
――演技の何がそこまで楽しいと思ったんですか?
坂巻 毎回思うのが、台本に書かれてないことも自分で想像して、役を作っていくのがすごく楽しいです。演じる前の準備段階も、演じているときに役の人生に入り込むのも、全部楽しめる。坂巻有紗ではあるけど、いろいろな人生を歩める感じが、役者はすごく良いですね。
――演技の壁に当たって悩むこともないですか?
坂巻 自分で作り上げてきた役が、監督と話しているうちに「違ったかも」と、ギャップに苦しむことはあります。でも、壁はその場であっても、あまり覚えていないので。たぶん大丈夫なんだと思います。
昔の日本の映画の味を学んでいます
――映画を観るようにもなったんですか?
坂巻 そうなりました。ホラー映画が好きですけど、影響を受けたというと、市川準監督の『つぐみ』とか。前はハリウッド系の映画しか観なかったのが、勉強も兼ねて昔の日本の作品に触れるようになって。日本人の役者さんの良さや味を学んでいるところです。
――その中でも、『つぐみ』に惹かれるものがあったと。
坂巻 主人公の人物像にすごく惹かれました。無鉄砲で汚い言葉を使ったりする女の子なのに、憎めなくて応援したくなる。自分もそんなふうになりたいけど、なれない。そういう感じがかわいいなと思いながら、観ていました。
――ホラーも好きではあるんですか?
坂巻 大好きで、キャーキャー言いながら観ています(笑)。今まで観た中で、一番怖かったのが『へレディタリー/継承』。日本のホラーも『リング』、『呪怨』、『着信アリ』とかいっぱい観ましたけど、『へレディタリー』はホラーだけでない要素もあって。心にズーンと来て、印象に強く残っていますね。
姿勢をスッとして話し方をおしとやかに
――『GONZA』は会社の新人研修中に、新入社員5人の心と体が入れ替わる話。ナディアは自分にひと目惚れした鹿島拓海(上村侑)と入れ替わりますが、そういう作品を参考に観たりもしました?
坂巻 『転校生』を観ました。あれも昔の作品で、キャラクター的にはナディアと全然違いましたけど、男性への入り方とか仕草とか、すごく勉強になりました。
――演じるうえではハードルが高い役でした?
坂巻 ただただ楽しみが大きかったです(笑)。相手役の上村さんとたくさんお話しして、2人の像をすり合わせていきました。彼が演じている、心がナディアの拓海を見て「こうやろう」と思ったりもしました。
――入れ替わる前のナディアでは、新入社員代表で見事なプレゼンをしたり。
坂巻 監督に「ナディアはそんなに先生っぽくない」と言われたりしながら、やっていきました。見た目で頭が良さそう、できる人だとわかるように、姿勢からスッとした感じにして、話し方もおしとやかさを心掛けました。普段の自分とは全然違いますね(笑)。
――インドネシア出身という設定で、ヒジャブをかぶっていて。
坂巻 外国育ちを意識するより、形からナディアに入れました。その頃は前髪がなくて、おでこが丸見えだったので、ヒジャブに合っていました。
オドオドしている感じが無意識に出たかも
――拓海と入れ替わってからは、自信なさげな感じになりました。
坂巻 ナディアとは真逆な男性で、何もやり切れないんだけど、そこが憎めないというか。ダメ主人公みたいに愛されることを、ちょっと意識しました。
――男性としての仕草にも気を配りました?
坂巻 歩き方は上村さんに直接教わりました。肩を切って上半身から入る、とか。お箸の持ち方も細かく教えてもらったと思います。
――坂巻さんが女性の動きを上村さんに教えたりも?
坂巻 上村さんは本当に完璧で、どこから見ても女の子みたいでした。私が上村さんのナディアに合わせにいったくらいです(笑)。
――心が拓海になって、目をパチパチさせるところもありました。
坂巻 そうですか? 無意識だったかもしれません。役に入っていて、オドオドしている感じを表現したのかなと。
ただの普通な男性ではないのが見えてきます
――1人2役でも、あまり悩むことはなかったですか?
坂巻 毎日ずっと撮影で、悩む暇がなかったです(笑)。監督に何か言われて難しいなと思っても、その場で相談して解消して、また次の日に臨む感じでした。自分と真逆の役だからこそ、演じているときは楽しかったです。
――新人研修中の4日間の物語の中で、拓海の成長も感じました。
坂巻 そこは絶対見えてきます。ただの普通な男性ではないんだよと。拓海にもナディアにも、観ている方が惹かれていくものがたぶんあると思います。
――ナディアも完璧に見えて、実は抱えていたものがあって。
坂巻 人の気持ちをわかりたいともがいているのは、意識して演じたつもりです。冷たいだけの女の子でなくて、裏ではこんなことが……というところは、ちゃんと考えました。
ドキドキしながら湧き上がる感情を大事に
――後半には山場の告白シーンもありました。
坂巻 もうドッキドキでした。「大丈夫かな? OK出るかな?」みたいな感じで。そのときのことを、あまり覚えてないんです。それだけ必死だったんだと思います。
――前日の夜とか、いろいろ考えていたり?
坂巻 作りすぎると良くないと思っていて、その場で湧き出てくる感情を大事にしようと、あまり考えなかった気がします。台詞だけ入れておいて、それ以外はノータッチということが多いです。
――撮影の直前は、籠って気持ちを作ったりもするんですか?
坂巻 次の日に大事な撮影があると、1人でいたいタイプです。集中して役になってから現場に入りたいので、その日はあまりコミュニケーションは取れなかったかもしれません。
――それで、本番はうまくいったんですね。
坂巻 感情に身を任せたら、たぶん大丈夫だったと思います。
ゴチャ混ぜのキャラクターの輪に入るような
――『GONZA』が完成して、試写ではどんなことを感じましたか?
坂巻 面白いですね。変わった映画ですけど、いろいろなキャラクターがいて。LGBTQの役、足が不自由で車イスの役……。そういう人たちがゴッチャになっていて、観ている方も輪の中に入る感じ。ゴチャ混ぜの1人として「頑張れー!」という気持ちになる、心温まる映画だと思います。
――自分の演技については?
坂巻 いつも恥ずかしくて、あまり自分の作品は観ないんです。今回も最初はウワーッという感じでしたけど、観ていたら面白くて最後まで行けました。もっとできたとも思いますけど、ちゃんとナディアと拓海で大丈夫でした。
――演技をするうえで、常に大事にしていることはありますか?
坂巻 ひとつの役に対して台本に書かれてないバックボーンもちゃんと考えて、自分で整理していますけど、『GONZA』の撮影を通じて、もっと話し合おうと思いました。自分だけで作る像でなく、監督や共演者の方とすり合わせていくほうが、作品自体がより良くなると感じたんです。自分だけが輝けば良いわけでもなくて。
――より広い視点を取り込むと。
坂巻 一方で、小西(貴大)さんはすごく役を作ってくる方だったんですね。他の役についても、私に「ナディアは〇〇のことはどう思っているの?」と質問してきたり。私はちょっと動揺しちゃって、まだまだだなと悔しかったので、これからは他の役への気持ちや立場もちゃんと考えたうえで、臨むようにしたいです。
楽しもうとするから苦手意識は生まれません
――改めてですが、坂巻さんは苦手なことってあります?
坂巻 一度、考えたことがあります。私は雷も平気で、虫に刺されても大丈夫だし、辛いものも大好き。霊感はあるほうですけど、おばけがいても全然問題ありません(笑)。絶叫系も高いところも好きで、苦手はないんですよね。
――辛いものもかなりイケるんですか?
坂巻 この前、ファイヤーガーデンという激辛の専門店に行きました。日和ってチャレンジメニューには行かなかったんですけど、他の辛い料理は全然余裕でした。
――結論としては、何でもできると。
坂巻 そうですね。苦手なのはシイタケくらい。それもまったくダメなわけではなくて、出れば食べられますし。全部OKという感じです。
――スキル的にも、できないことはないですか?
坂巻 客観的に見たら、苦手はあるかもしれません。でも、自分では何でも「どうせやるなら楽しもう」となるので、苦手意識は生まれてこないんです。
感情を具現化して歌詞に書いています
――落ち込むこともありませんか?
坂巻 ないです! たまにちょっと太り始めて、自信がなくなったりはしますけど、次の日には忘れています。ハッピーライフです(笑)。
――生まれ持っての性格でしょうか?
坂巻 たぶんそうですね。家族がすごく私を愛して育ててくれたことも、関係していると思います。
――これから磨きたいことはありますか?
坂巻 演技力もですけど、最近また歌を頑張り始めて、ボイストレーニングに行くようになりました。ギターも始めたので、ワンマンライブをしたいですね。感情を具現化して言葉にするようにしていて、「何だ、この気持ち?」というときは歌詞に書いています。
――明るい未来も見えている感じですか?
坂巻 もうキラッキラです(笑)。海外でも活躍できるように頑張ります。
Profile
坂巻有紗(さかまき・ありさ)
2000年9月23日生まれ、埼玉県出身。
2020年に短編映画『CAT』で女優デビュー。映画『夜を走る』、『スパイスより愛を込めて。』が公開中。『GONZA』が6月30日より、『ランサム』が7月21日より公開。舞台『Les Misérables~惨めなる人々~』(7月11日~16日/俳優座劇場)に出演。
『GONZA』
監督・脚本/千村利光
出演/上村侑、坂巻有紗、久住小春、篠田諒、鈴原ゆりあ他
シネマサンシャイン大和郡山にて先行公開中。6月30日より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開