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アジア3連覇なるか。なでしこジャパンが挑む、W杯へのチケットをかけた18日間の戦い

松原渓スポーツジャーナリスト
アジアカップに臨むなでしこジャパン

【新体制発足後3カ月で臨むW杯予選】

 AFC女子アジアカップ2022が1月20日に開幕した。なでしこジャパンは、2023年のW杯出場権と大会3連覇を懸けて戦う。

 チームは東京五輪後に池田太監督新体制に変わり、3カ月目を迎えた。この間、2度の国内合宿と欧州遠征を経て、「ボールを奪う」守備の強度を高め、攻撃のバリエーションを増やすトレーニングを積んできた。

 アジアの戦いは、W杯や五輪などの世界大会とは違う厳しさがある。日本がボール保持で優位に立てる相手が多いが、粘り強い守備でゴール前を固めてくる相手に苦戦することもある。また、中2日で最大6試合を戦う連戦も、選手起用や交代のマネジメントを難しくする。

 今大会の開催地はインド。昼間は30度前後まで気温が上がり、食事やプレー環境も日本とは大きく異なる。新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威を振う中、厳しい行動制限と検査体制下での開催となる。

 ただ、既に参加チームに陽性者が出始めており、不安も広がる。

 グループステージ第2戦で戦うベトナム女子代表は、13日までに11人が新型コロナウイルスに感染したことを発表。第3戦の韓国も、16日のインド入り後に6人の感染が判明したという。

 そして、19日には日本もFW岩渕真奈(アーセナル)の感染を発表した。岩渕は現在、無症状で濃厚接触者はなく、24日の検査で陰性が出た上で3日間無症状なら27日の韓国戦には出場できるという。日本の得点源でもあるエースが無事にチームに合流できることを祈りたい。

 ベンチ入りメンバーが13名いれば試合は開催できるが、まずは全チームが無事に大会を乗り切れることを願っている。

 そのような厳しい状況下で日々トレーニングをしている選手たちだが、毎日のオンライン取材では大きなストレスを感じている様子はなく、試合に向けてコンディションも整いつつあるようだ。

 それは、食事が充実していることもあるのだろう。今大会では、男子日本代表の専属シェフである西芳照氏が、初めて女子に帯同しているのだ。

 DF清水梨紗(東京NB)は、「シーフードパスタがめちゃくちゃ美味しかったです。海外に行くときは頑張って食べていましたけど、今はご飯が進むので嬉しいです」と張り切る。海外経験豊富な山下杏也加(INAC神戸)も、「ペペロンチーノも美味しかったです。ご飯の時間が最高でした」と表情を緩めた。

 最高のサポートを得て、なでしこは18日間の戦いに挑む。

【攻守のキーマンは?】

 今大会は23名中、前回のヨルダン大会(2018年)優勝を経験した選手が約半数(11名)いる。

 前回大会はグループステージの韓国戦とオーストラリア戦はドローで決着がつかず、決勝でオーストラリアと再戦。攻め込まれる時間が長く、薄氷を履む勝利(1-0)だった。

 当時チーム最年少の21歳だったMF長谷川唯(ウエストハム)は、「前回大会は内容も含めて1位を取れた実感がなかったので、今回はいい内容で勝ちたい。始まったばかりのチームなので、勝ちながらチームが成長していけるのは楽しみです」と意気込む。世界トップクラスが揃う欧州リーグでスケールアップした中盤のコンダクターが、今大会も攻守のキーになることは間違いない。

 日本は11月末の欧州遠征ではアイスランドに敗れ(0-2)、オランダとはドロー(0-0)で無得点に終わった。守備を安定させることはもちろん大切だが、やはり見たいのは多彩なゴール。

 FW陣にはアジアの戦いを知り尽くした選手が多く、いざとなれば個でゴールを奪うこともできるだろう。

 国内で複数回の得点王の実績を持つ菅澤優衣香(浦和)、田中美南(INAC神戸)も、アジアでは実績がある。植木理子(東京NB)は初のアジアカップだが、縦への推進力と献身性は国内でもピカイチ。切り札としての起用でブレイクするかもしれない。

植木理子(左)/菅澤優衣香(右)
植木理子(左)/菅澤優衣香(右)

 個々の特性を考えれば、中盤からのミドルシュートも武器になる可能性が高い。

 中盤は、高倉麻子監督の前体制から顔ぶれが大きく変化している。猶本光、成宮唯、隅田凜、長野風花、宮澤ひなたら、レギュラー定着を目指す国内組にとって、今大会は試金石となる。

 ゴールキーパーは総合力の高い選手が多く、層が厚い。欧州遠征で不在だったGK山下杏也加は、大舞台に強いキーパーソンだ。

 最終ラインでは熊谷紗希の経験値が頭ひとつ抜けているが、清水も国内では圧倒的なスキルに裏打ちされた安定感があり、替えが利かない存在となりそうだ。

「監督やコーチの指示もありますが、ピッチで戦う選手が納得できるルールを持たなければいけないと思います。(そのために)全員ですり合わせながら、練習からいい意味でぶつかり合っていきたいです」

 熊谷の言葉が頼もしい。日本はチャンピオンだが、チャレンジャーとしてアジア王者の座を奪いにいく。

熊谷紗希(後ろは南萌華/写真提供:JFA/PR)
熊谷紗希(後ろは南萌華/写真提供:JFA/PR)

【難敵は豪・韓・中】

 W杯への出場権が与えられるのは、上位5チーム(開催国のオーストラリアが入った場合は6位まで)。

 日本は世界ランクでは現在、アジアでは上から2番目の13位につけているが、今大会で厳しい戦いが予想されるのが、オーストラリア(11位)、韓国(18位)、中国(19位)といったアジア上位国との対戦だ。

 オーストラリアは一昨年からチームを率いるトニー・グスタフソン監督の下で東京五輪ではベスト4に入った。韓国はコリン・ベル監督の下で4年目、中国は水庆霞監督が昨年11月に就任した。3カ国とも、過去5年間で何度も対戦しており、日本の選手個々の強みも知り尽くしているはずだ。

 韓国とはグループステージ3戦目で対戦するが、万が一この試合に敗れてグループ2位となった場合、ベスト8でオーストラリアと対戦する可能性が高い。同国には欧州リーグで活躍するタレントが多く、アジア最大の難敵でもある。ミャンマー(21日)、ベトナム(24日)、韓国(27日)とのグループステージに3連勝して、オーストラリアと決勝で対戦できれば流れとしては理想的だ。

 厳しい環境の中で新生なでしこは大会中に成長し、最後に大輪の華を咲かせることができるだろうか。まずは21日の初戦、ミャンマー戦でいいスタートを切りたい。

 大会は、全試合DAZNで配信される。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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