北朝鮮の飢えた一家「最後の晩餐」に国民も衝撃
北朝鮮北東部、中国との国境に接した咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)で、一家4人が遺体で発見される事件が起きた。このニュースはあっという間に広がり、市民にショックを与えている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
今月23日、会寧市内の民家で、40代女性のリさんやその家族、合わせて4人が死亡しているのを近隣住民が発見した。
リさんは、市場でタバコを売って一家の生計を支えていたが、コロナ禍で流動人口が減り、市場の営業時間も短縮されてしまった。またゼロコロナ政策により中国から品物が入ってこなくなってきたことなどで、以前ほど儲からなくなり、一家の生計は悪化の一途をたどった。
やがて、初級中学校(中学校)と高級中学校(高校)に通う2人の息子も、学校に送り出せないほどの苦境に立たされた。
なんとかしようとリさんはタバコ売りをやめて、様々な品物を売っては見たものの、タバコ以上に売れず、種銭として借りた借金だけが残った。財布も米びつもすっからかんとなり、家族は何も口にできない状態となってしまった。いわゆる「絶糧世帯」だ。
リさんは、知人を訪ねて400中国元(約7600円)を借りた。そして豚肉、鴨の燻製、餅など様々なごちそうを市場で買って帰るところを、近所の人に目撃されている。それから一週間後、一家は変わり果てた姿となって発見された。ごちそうは「最後の晩餐」だったということだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
死因は明らかになっていないが、情報筋は、生活苦に耐えかねて生きていられないと自ら死を選んだのではないかと見ている。こんな絶糧世帯はリさん宅だけではない。市民の間からは、国は絶糧世帯に対する対策もせず放置していると、冷たい目線で怒りを表しているという。
会寧では昨年、ミサイル発射費用に1億2000万ドル(当時のレートで約176億円)を使ったとの噂が出回り、飢えに苦しむ人が増える中、衝撃と怒りが走った。世論の動きに敏感なはずの北朝鮮のこと、報じられてはいないが何らかの対策をとったものと思われる。
緊急の食糧配給か、締め付けの強化のいずれかだが、食糧問題が解決していないところを見ると、どうやら後者が正解のようだ。
会寧は、川向うの中国との貿易でなりたっていた、北朝鮮国内でも豊かな方に入る都市だった。それがゼロコロナ政策による貿易停止で奈落の底に叩き落された。国境警備が強化され、以前のように脱北や密輸もできなくなってしまった。
国境沿いの地域ではたびたび、「国境が再び開かれる」との噂が立つが、いずれもぬか喜びさせられただけだった。国は、以前のように地方の貿易会社や個人がてんでバラバラに貿易する体制ではなく、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」を打ち立てようとしており、もしそれが成功した場合、会寧の街に明るさが戻ることはないかもしれない。