北九州拠点のスタフラ、山口宇部就航へ。「愛されキャリア」になれるか。
北九州と福岡で減便
スターフライヤー(SFJ、本社=北九州市)が北九州-羽田線を1往復減便(福岡-羽田は2往復減)して山口宇部空港に3往復で乗り入れるというニュースが報じられた。SFJは就航そのものについてはすでに公表しているがまだ便数についての正式発表はしていない。
山口宇部空港は北九州空港と直線距離では30キロ弱しか離れておらず、アクセスの良さや路線網などから福岡空港との競争にもさらされている。さらに2012年には米軍・自衛隊岩国飛行場の民間利用が再開されており、このたびの山口宇部空港乗り入れが視界良好の就航とは言い難いが、勝機は価格の過当競争ではなく地元戦略の優劣に見出されるかもしれない。
山口宇部便の総数は変わらず
現在、山口宇部-羽田線にはANAとJALが乗り入れておりそれぞれ5往復と4往復している。ここにSFJが3往復のプランで乗り入れるわけだが、報道によれば単純に3往復増えるというわけではない。全便がSFJの筆頭株主であるANAとの共同運航便となり、ANA自体は直営の山口宇部-羽田線を3往復減らす。つまり山口宇部-羽田線の総数は変わらず、乗り入れる会社だけが2社から3社になる。
SFJは革張りシートやUSB充電可能なポートがあるなどリッチな座席でも知られており、同等価格帯での快適さでは大手2社よりもSFJに軍配が上がる。ただ今回の共同運航便としての乗り入れが事実であるならば、決して喜ばしいことばかりではない。
というのもSFJは保有全機が150席クラス(実際は144席)のA320型機であり、当然、山口宇部空港に乗り入れるのもA320となる。ANAが山口宇部-羽田線を270席クラスのB767で運航しているため、大半がA320になれば提供座席数が大幅に減る。羽田空港のターミナルもANAの「ターミナル2」から、SFJの関空便以外が利用している「ターミナル1」に変更される可能性もあるほか、山口宇部空港の地上業務についても重複業務はどちらかに委託するなど効率化を図り、カウンターもANAとSFJの共有になると考えられる。
山口宇部空港は利用者数が伸び悩んでおり、席数が減ることもやむを得ない側面はある。だがSFJ就航は起爆剤になる可能性を秘めているとも言えるだろう。
同空港ではこれまでも利用促進のために数々の取り組みをしてきた。駐車場は無料で1500台分あり、2011年には空港と山口県庁や観光地の湯田温泉を結ぶ連絡バスの運行を開始するなどアクセスを改善。山口市や防府市を走る路線バスでも空港の利便性を訴求する放送案内を流している。(JR宇部線の草江駅が極めて空港から近いのだが、宇部線の便数が少ないこともあるのだろうが、各方面であまり案内されていないのは残念である)
こうした利用促進策のほか、インパクトを与えた話題は2011年のボーイング最新鋭機「787」の就航だった。現在はB767に戻っているが空港を訪れる人を増やすきっかけになり、SNSでも写真が散見されるようになった。SFJの黒と白の特徴的な機材もこのときと同じような効果をもたらしうるだろう。好んで選択する人が増えれば、経営再建中のSFJにとっても、利用者をつなぎ止めたい行政にとってもウィンウィンの関係となる。
ただ、山口宇部空港はもともとはANAが唯一就航していた空港。2002年にJALが参入して「ダブルトラック」となったが、今なおANAのほうが便数も提供座席数も多いため、直営便が減るかたちとなれば旧来からのユーザーにネガティブなイメージを与えかねない。ANAもSFJも地元に十分に配慮してサービスやダイヤを組むことが必要となってくる。
北九州ではJALに存在感
そして北九州空港。SFJの拠点空港であり、北九州-羽田線の12往復は同社の中でも最多便数だ。唯一の国際線だった北九州-釜山線を今年3月末で運休したり、今回も1往復減便の報道が出るなどしているが、「北九州のフラッグキャリア」であることに変わりはない。大株主にはTOTO(北九州市)や安川電機(同)など地場企業が名を連ねているほか、Jリーグ・ギラヴァンツ北九州のスポンサーのひとつでもあり、北九州の会社というイメージはそのまま保たれている。
ところがここに来て巻き返しを図っているのがJALだ。今春、北九州-羽田線を5往復から6往復に増便。70席クラスのERJ170での運用もあったが、全便を160席クラスのB737とし提供座席数を大幅補強した。その席数の増加量は改定前に比べて約5割増。3年前までは北九州-羽田線は4往復だったことを考えると、ここ数年でJALは着実に北九州-羽田線を拡大させてきたことが見えてくる。
JALと北九州との結びつきはSFJよりも長く、北九州空港の旧空港(2006年閉鎖)当時から羽田を結ぶ唯一の翼だった。当時はJAS(日本エアシステム)が小型のMD87型機で運航。霧が発生しやすい周辺環境や短い滑走路などが影響して就航率は低かったものの、満席となる便もあり旧空港の終盤には増便が繰り返された。(ちなみに旧空港は飛行機がタキシングを始めると多くの地上スタッフがスポットに並んで手を振って見送ってくれるというアットホームな空港だった。筆者も最初に乗った飛行機は旧空港発着便でやはりMD87であり、未だに飛行機といえばMD87、空港といえば温かな旧空港というイメージを持っている)
新空港開港当初のJALグループは名古屋(小牧)、那覇にも路線を持っていたが現在は撤退。旧空港時代から受け継いできた北九州-羽田線を、子会社・JEXの保有する小型機も運用に就かせながら規模は小さくとも堅実に運航してきた。そのJALがじわりと「攻め」の姿勢を示してきている。便数、席数ともに現時点でもSFJが倍の規模ではあるが、ダイヤ構成をみれば羽田発の始発便、北九州発の最終便ともにJALが担う状況も続いており、北九州-羽田線でのJALの存在感も再び際立つようになってきた。
愛されキャリアになれるか
北九州空港と山口宇部空港を舞台に、SFJ、ANA、JALのそれぞれの思惑が交錯する。SFJは昨年から大幅割引サービスの「STAR55」を展開したり、今年5月からは機内での酒類販売を行うなど価格とサービスの両面で充実を図っているが、ただ収支の改善という面では筆頭株主のANAの影響は避けられず、しかし地元・北九州の意向に配慮することも求められる。SFJは難しい選択を続けなければならないだろう。
航空業界全般ではローコストキャリアとの競争に目が行くが、それが就航していない空港では、地元でいかに知られ、いかに愛されるかという人間味のある部分も選ばれる上ではポイント。JALとSFJが北九州で、ANAが山口宇部で築いてきたような「古くからのお付き合い」が追い風にも、時に強烈な向かい風にもなる。地元密着をアピールしたり、オリジナリティを伸長させたり、各社の愛されキャリアになる次なる一手に注目したい。