Yahoo!ニュース

五輪出場権争う大堀と奥原が初戦で直接対決=バドミントン欧州遠征展望

平野貴也スポーツライター
フランスオープン女子単1回戦は、五輪出場を狙う大堀(左)と奥原が対戦【筆者撮影】

 バドミントン日本代表が3月2日、欧州遠征のために出国した。フランスオープン(3月5日~10日、パリ)、全英オープン(3月12日~17日)の2連戦。一部選手はスイスオープン(3月19日~24日)を含めた3連戦に臨む。大会の見どころは、2つある。

フランスOPは、パリ五輪会場で開催

 1つは、五輪出場が濃厚な日本の主軸選手たちの、パリ五輪を見据えた戦いだ。第1戦となるフランスオープンは、パリ五輪のテストイベントも兼ねており、五輪会場となるポルト・ド・ラ・シャペル・アリーナで行われる。混合ダブルス世界ランク2位の渡辺勇大(BIPROGY)は「選手みんなにとって(五輪会場で事前にプレーできるのは)良いことだと思う。どういう空気なのか、会場の雰囲気を確かめながらプレーしたい。会場のレイアウトや照明の使い方は(今回と五輪本番とで)もしかしたら変わるかもしれないが、体育館の大きさとか。まずは、その場所で良い成績を出すことがすごく大事になる」と話した。

 フランスオープンは、BWFワールドツアーで2番目に格付けが高いスーパー750。世界ランク上位選手に出場義務があり、トップクラスの実力者が揃う。日本の各種目のエース格は、五輪レースランクで上位。混合ダブルスの渡辺/東野有紗(BIPROGY)が2位、男子シングルスの奈良岡功大(FWDグループ)と女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)が4位、男子ダブルスの保木卓朗/小林優吾(トナミ運輸)が6位で、五輪出場権獲得の可能性は濃厚(以下、ランキングは2月27日時点)。パリ五輪の会場でライバルを破り、大舞台に向けた良い手応えを得たい。

女子シングルスの山口は、復調具合も確認へ

女子単の山口は、負傷明けでコンディションを戻している段階【筆者撮影】
女子単の山口は、負傷明けでコンディションを戻している段階【筆者撮影】

 女子シングルスで五輪3大会連続出場を目指す山口は、23年10月のアジア大会で右足を負傷し、24年1月に復帰。2月下旬の国内リーグでは「まだ守備から攻撃に行く段階で、今までならそのままのスピードか、もう一段階上げるくらいの勢いで行けていたところが、やっぱり、まだスピードが出ず、ショットとかみ合わない感覚があった。練習では感じられなかったところ。もう少し、スピードを上げる感覚をつかまないといけない」と話していただけに、勝敗だけでなく、十分なスピードが戻っているか、復調具合も注目される。

3組で五輪出場2枠狙う女子ダブルス、福島/廣田は苦戦覚悟の復帰戦

女子複の「フクヒロ」ペアは、廣田(右)が23年12月に左ひざに重傷を負って以来の復帰戦【筆者撮影】
女子複の「フクヒロ」ペアは、廣田(右)が23年12月に左ひざに重傷を負って以来の復帰戦【筆者撮影】

 欧州遠征のもう1つの注目点が「日本勢2番手の五輪出場権争い」だ。女子ダブルスは、五輪レースランクの5位に志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)、7位に松本麻佑/永原和可那(北都銀行)、8位に福島由紀/廣田彩花(丸杉)と上位に3組がひしめく。日本は、レースが終わる4月末に8位以内に2組以上が入れば、上位2組が五輪出場権を得る。

 最上位で逃げ切りを図るのは、五輪初出場を狙う志田/松山。23年後半は、相手の特長に応じて戦略を変える戦いが光った。年が明けてからは思うような成績を残せていないが、志田は「思っているより疲れや痛みが出た部分もある。年明けの内容がすごく良いわけではないけど、フランス、全英では絶対に優勝したいので、コンディション管理は気を引き締め直さないといけない」と3月攻勢への復調を誓った。

 日本勢2番手の松本/永原が、ポイントを上積みするためには、欧州遠征でベスト4以上に入る必要がある。1月にはフランスオープンと同格のインドオープンで優勝。松本は「インドでは(小さく速い展開と)大きい展開も使い分けられた」と、23年秋から強化したスピード展開のラリーをうまく組み込めた手応えを話した。欧州でも上位進出を果たし、2大会連続の五輪出場にもう一歩近づきたい。

 日本勢3番手の福島/廣田は、厳しい戦いを強いられる。23年12月に左ひざ前十字じん帯を断裂した廣田のプレー範囲が限定されることは確実。復帰戦となるフランスオープンに向け、廣田は「3ペアでの(2枠)争いというより、自分が今できる、目の前のことを精一杯やっていこうと思う」とレースを意識せずに臨む心境を明かした。

女子単の2番手争い、大堀と奥原がフランスOP初戦で直接対決

 日本勢2番手での五輪出場権争いは、女子シングルスも激戦だ。フランスオープンでは、1回戦で大堀彩(トナミ運輸)と奥原希望(太陽ホールディングス)が直接対決に臨む。シングルスは、4月末の五輪レースランクで16位以上に同国から2人以上が入れば、上位2人が出場可能。最上位(4位)の山口を、大堀が12位、奥原が17位で追っている。

 大堀は、以前よりもスピードラリーの展開を強化。23年10月のアジア大会で銅メダルを獲得するなど着実な進歩を見せている。3大会連続の五輪出場を狙う奥原は、16年リオデジャネイロ五輪の銅メダル、世界選手権で17年に金メダル、19年に銀メダルと実績で上回る。21年の東京五輪以降は度重なる負傷で欠場が続いて大きく出遅れたが、23年後半に2週連続の国際大会優勝を飾るなど急浮上。プレッシャーのかかる直接対決をどちらが制するか。

 男子シングルスは、西本拳太(ジェイテクト)がレースランク11位。日本勢2番手での出場条件となる16位以上のキープを狙う。日本勢3番手で五輪レースランク20位の渡邉航貴(BIPROGY)とは、1万3401点の差があり、同国勢の2番手争いでは大きくリード。23位の常山幹太、30位の大林拓真(ともにトナミ運輸)、47位の桃田賢斗(NTT東日本)は逆転が難しい状況にある。

混合複の緑川/齋藤が五輪レースランク10位浮上、8位以内で五輪へ

混合複の緑川(手前)/齋藤。大舞台で上位に進出し、日本勢2番手での五輪出場に近付きたい【筆者撮影】
混合複の緑川(手前)/齋藤。大舞台で上位に進出し、日本勢2番手での五輪出場に近付きたい【筆者撮影】

 ほかに、混合ダブルスの緑川大輝/齋藤夏(NTT東日本/ACT SAIKYO)が、五輪レースランク10位に浮上しており、初の五輪出場を狙う。日本勢2番手での五輪出場には、五輪レースランク8位以内が条件。フランス、全英では、ポイントが加算できるベスト8以上を目指す。現状では8位と5210点の差があるが、仮にフランスでベスト4に入れば約3000点の上積みが可能だ。決して容易ではないが、1大会で大きなポイントを稼げる舞台は残り少なく、欧州遠征で差を縮めたい。

 男子ダブルスの古賀輝/齋藤太一(NTT東日本)は、五輪レースランク14位。日本勢2番手での五輪出場には8位以内が必要。8位までは1万8006点の差があり、苦しい状況だ。欧州3連戦で大きく巻き返さなければ、届かない。

 欧州遠征の3戦目となるスイスオープンなどの国際大会に自費派遣で出場する選手はいるが、日本A代表が派遣されるBWFワールドツアースーパー500以上相当の大会は、欧州2連戦を終えると、五輪レース最終戦となるアジア選手権のみ。日本の主軸が五輪会場でどこまで躍進するか、残り少ない大会で2つ目の切符に近付く選手はいるか。欧州の連戦で、どんな戦いが繰り広げられるか。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

平野貴也の最近の記事