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Pixelシリーズの躍進を支えた「フワちゃん」の存在

山口健太ITジャーナリスト
Pixel 8「編集マジック」機能の説明(GoogleストアのWebサイトより)

タレントのフワちゃんによるSNSでの不適切な投稿が大きな話題になっています。最近ではグーグル「Pixel」シリーズのCMキャラクターとして、同シリーズの躍進を支えてきた存在でもあるだけに、グーグルの動きにも注目が集まっています。

「消しゴムマジック」Pixelの代名詞に

グーグルのPixelシリーズは、世界的にはそれほど人気があるスマホではなく、お膝元の米国での市場シェアは2%に満たないとの調査もあります。

一方、日本ではソフトバンクが長年にわたって調達を続けており、グーグルは日本向けにSuicaが使えるFeliCa搭載モデルを用意するなど期待に応えてきました。そしてドコモが再び採用したことで、2023年には国内スマホで2位、Androidではトップを争うまでになりました。

世界的に伸び悩むPixelが日本で売れた理由として、為替レートでは説明がつかない手頃な価格設定が挙げられます。とはいえ、単に安いだけでスマホが売れるわけではありません。ソニーやシャープに認知度で劣るPixelの躍進を支えたと思われるのがCMの存在です。

フワちゃんは2022年のPixel 7世代から起用されており、「消しゴムマジックで消してやるのさ」というフレーズが印象に残っている人が多いでしょう。2023年にZ世代に流行した言葉として7位にランクインしたとの調査もあります。

写真に写り込んだ不要なオブジェクトを削除する機能は各社が研究開発を進めてきたものの、それにグーグルは「消しゴムマジック」(米国ではMagic Eraser)という分かりやすい名前をつけ、キャッチーなCMで消費者に認知させたのはフワちゃんの影響が大きいと考えられます。

CM自体が好きか嫌いかというのは意見が分かれるものですが、「フワちゃんがCMをやっている消しゴムマジックのスマホ」というイメージを確立したことは事実であり、グーグルにとってはそう簡単に代替できない財産のようなものといえます。

生成AIを分かりやすく伝える存在が必要に

そして注目されるのが、まもなく登場する新製品「Pixel 9」の存在です。公式サイトでは8月14日に発表することを予告しており、米アルファベットの決算発表では7-9月期に発売するとの言及がありました。

グーグルが発表を予告している「Pixel 9 Pro」(グーグルのWebサイトより)
グーグルが発表を予告している「Pixel 9 Pro」(グーグルのWebサイトより)

Pixel 9世代で目玉になるのがグーグルの生成AI「Gemini(ジェミニ)」です。グーグルは生成AIに巨額の投資を続けており、それに収益に結びつけることを求められる中で、これまでにないスマホの使い方を提案していくとみられます。

ただ、普通の人は生成AIによってスマホがどう便利になるのか、なかなか想像しにくいものです。そこでグーグルが新機能に「音声消しゴムマジック」や「編集マジック」といった名前をつけてきたように、Geminiについてもそれと同じくらい分かりやすいキャッチーな表現でアピールすることが期待されていました。

しかし今回の騒動を受け、グーグルは8月6日にYouTubeの公式チャンネルでフワちゃん関連の動画を非公開に設定。8月7日にはGoogleストアに掲載していた活用ヒントのコンテンツからもフワちゃんを取り上げる記事を削除(現在、リンクは一覧ページに転送される)する措置をとっています。

Googleストアに掲載されていた記事のサムネイル画像(グーグルの検索結果より)
Googleストアに掲載されていた記事のサムネイル画像(グーグルの検索結果より)

フワちゃんのXアカウントのフォロワーは100万人を超えていることに加え、一連のメディアによる報道を通じ、多くの人が今回の騒動を知ったことで、社会的なイメージダウンが避けられないことはたしかです。

一方で、フワちゃん本人はすでに謝罪をしたとも報じられています。当事者間での話し合いで決着するのであれば、それをもって手打ちにしてはどうか、といった反応も出てくるでしょう。Pixel 9の発表を目前にして、グーグルは難しい判断を迫られることになりそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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