好調な「劇場版ウマ娘」の主役・ジャングルポケットの凄さ、フジキセキとアグネスタキオンの史実上の共通点
興行成績も順調に伸びている劇場版「ウマ娘」
ゲームやアニメで人気の「ウマ娘 プリティーダービー」の劇場版アニメ作品「ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉」(山本健監督)の興行収入が先日、10億円を突破した。
私はかれこれ35年競馬サークルに身を置いているが、そんな自分にとってもこの作品はキャラクターたちと実在の人物や競走馬のイメージが好意的にリンクする素敵な作品であった。
娘たちに対して“プリティー”と銘打っている割に、全く”女の媚び”は感じない。それどころか、少年のようなキャラクターのジャングルポケットが汗水たらして走り、「勝ちたい!」という心根を嫌味なく押し出す姿は”スポ根“そのものだ。
劇中ではメインキャラクターの中でプリティの要素を一身に請け負うダンツフレームでさえ、レース中は勝負への執念を露わに目の色を変えてダービー制覇を目指すのだ。その結果は史実で知っていても、そのひたむきで賢明な姿に心打たれた。
これまでウマ娘のアニメではスペシャルウィークやオグリキャップらが主役になってきたが、この劇場版の主役は2001年に日本ダービーとジャパンカップを制したジャングルポケットだ。同年にこの両レースを勝つ偉業を成した馬は2024年現在も未だジャングルポケット、ただ1頭でそのハードルの高さがうかがえる。
そのジャングルポットの史実の詳しいストーリーは2021年に筆者が書いた記事「府中の鬼 ジャングルポケットが晴らしたフジキセキの無念」にあるので、ぜひ読んで欲しい。
■2001年 日本ダービー(GI) 優勝馬 ジャングルポケット/JRA公式
一寸先は闇…誰もがクラシックの主役を疑わなかったフジキセキの引退
そこでも書いたが、ジャングルポケットを語る上でフジキセキの存在は欠かせない。フジキセキは弥生賞までの4戦4勝の走りから”1995年のクラシックシーズンの絶対的な主役になるだろう”と目されていたが、その直前の3月24日に突如、引退と種牡馬入りを発表したのだ。
一寸先は闇、とはまさにこのこと。皐月賞当日、幻の主役はすでに北海道で脚元の治療を進めながらも種牡馬として第二の道を進んでいた。
そのフジキセキと同じ馬主、調教師、騎手、厩務員が携わったのがジャングルポケットだ。それ故、ジャングルポケットのダービー制覇はフジキセキで果たせなかったクラシック、しかも日本ダービーを勝ち悲願を果たしたのだった。
■1994年 朝日杯3歳S(GI) 優勝馬 フジキセキ/JRA公式
アグネスタキオンとフジキセキの史実上の共通点
そして、そのジャングルポケットがダービーを制した2001年。フジキセキと同じような雰囲気で”2001年のクラシックシーズンの絶対的な主役になるだろう”と目されていたのがアグネスタキオンだった。
アグネスタキオンは4戦4勝で皐月賞を制したが、その後に故障発生。ダービー当日、アグネスタキオンは放牧先の北海道にいた。その後、夏過ぎに引退を表明した。
フジキセキとアグネスタキオン。この2頭は4戦4勝という戦績もだが、"もしも、万全の状態で出走できたなら、間違いなく主役候補になっていたはず"と感じさせた名馬という共通点がある。競馬に関わり年数を重ねていくと「あぁ、この馬は明らかに同世代の中でも抜けた存在だ」という突出した馬がおり、それはディープインパクトであり、トウカイテイオーであった。彼らと同じような感覚を抱かせた馬こそがフジキセキであり、アグネスタキオンだった。
フジキセキ陣営もアグネスタキオン陣営も、日本ダービーを走らせたかった。
そんなやりきれない気持ちが、この映画では上手く表現されていた。
■2001年 皐月賞(GI) 優勝馬 アグネスタキオン/JRA公式
なお、史実から多少の変更はある。例えば、アグネスタキオンとジャングルポケットが最初に戦うレースが「ホープフルS」とされていたが、実際は「ラジオたんぱ杯3歳ステークス」である点などだ。競馬では特定の企業名が入る社杯も多いので、このような変更があるのは致し方ないところだろう。
■2000年 ラジオたんぱ杯3歳S(GIII) 優勝馬 アグネスタキオン/JRA公式
「ウマ娘」は実在の人気競走馬をモチーフにキャラクターを女性キャラクターに擬人化させ、彼女らが戦う様を描いた人気コンテンツだが、そのモチーフとなっている競走馬は一般的にレースを走っている時しかクローズアップされず、どれだけ人気があってもレースを引退すればメディアからは遠ざかるものだ。しかし、「ウマ娘」はそういった”過去の馬”たちが再び注目を浴びるきっかけになるコンテンツなので、私も競馬に携わるひとりとして、とても喜ばしい存在と常日頃思っている。史実で大活躍したスターたちの往年の名馬の名が、かたちをかえた表現で今の世の中に広まっていく。
そして、競馬に対しての入口が広まり、競馬そのもののファンも増えていく。
映画は通常版に加え、キャラクターたちがターフを駆け抜けるような”揺れ”や、水しぶき、芝などの匂いが体感できる4D・MX4D版も上映されている。
筆者は通常版とMX4D版を観たが、映画の内容に集中しやすい通常版では音響の良いシアターで見れて凄くいい体験ができたと感じた。レースシーンでは前から後ろから効果音が聞こえ、まるで馬群の中にいるようなドキドキ感が味わえるからだ。
この臨場感はたまらない。観客側で見る競馬とは違った体験をぜひ味わってはいかがだろうか。