能登半島の鉄道のいま~2024年1月25日版~
能登半島地震で一時多くの鉄道で列車の運転見合わせに
石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震が2024(令和6)年1月1日16時10分に発生した。地震の発生と同時に北陸地方を中心に鉄道も広い範囲で影響を受け、一時北は北海道の北海道新幹線から西は島根県の一畑電車まで、多くの路線で列車の運転が見合わせとなる。
地震で被害を受けた線路や施設の復旧作業は急ピッチで進められた。1月3日には能登半島を通る石川県内のJR西日本七尾線津幡(つばた)駅-和倉温泉駅間59.5kmのうち、津幡駅-高松駅間14.4kmの復旧工事が完了しているし、1月6日には大多数の路線で列車の運転が再開されている。この時点で不通となっていたのは能登半島内の鉄道だけとなり、JR西日本高松駅-和倉温泉駅間45.1kmと、のと鉄道七尾線全線の七尾駅-穴水(あなみず)駅間33.1km(七尾駅-和倉温泉駅間5.1kmはJR西日本との重複区間)となった。その後、JR西日本七尾線は1月15日に高松駅-羽咋(はくい)駅間15.3kmが、1月22日に羽咋駅-七尾駅間24.7kmがそれぞれ復旧し、列車の運転が再開された。
依然として列車の運転見合わせが続く能登半島の鉄道の状況は……
1月25日現在、能登半島地震で列車の運転見合わせが続いているのはJR西日本七尾線と、のと鉄道七尾線との重複区間である七尾駅-和倉温泉駅間5.1km、のと鉄道七尾線和倉温泉駅-穴水駅間28.0kmだ。いまも復旧工事は行われており、七尾駅-和倉温泉駅間と、のと鉄道七尾線の和倉温泉駅-能登中島駅間11.2kmは2月中旬の運転再開を目指しているという。一方で、のと鉄道七尾線の能登中島駅-穴水駅間16.8kmの復旧時期は工事の進捗状況を踏まえて公表されるとのことだ。
能登半島ではいまも道路が一部通行止めとなっていて、ライフラインの復旧も終わっていない。行政から不要不急の訪問を避けるようにとのことなので筆者(梅原淳)はまだ現地を訪れていない状況だ。そのようななか、岐阜県の医療関係者グループの一員として地震直後から能登半島でボランティア活動を実施し、併せて現地の被害状況の取材・調査を行ったニュース・報道取材グループ スタジオアージェント代表の川柳まさ裕氏からJR西日本七尾線、のと鉄道七尾線の被害状況を撮影した画像の提供を受けた。写真をもとに現状を解説したい。
七尾駅-和倉温泉駅間では特急車両が止まったままに
冒頭に挙げた写真、写真1、写真2は、JR西日本七尾線の七尾駅-和倉温泉駅間で止まったままとなっている特急「能登かがり火」用の車両だ。写真1の撮影は1月6日で、JR西日本によれば1月25日午前10時現在も写真のような状態で停車しているという。
この車両はJR西日本の681系特急形交直流電車で6両編成を組む。地震当日の1月1日に特急「能登かがり火5号」として金沢駅を15時ちょうどに出発し、終着の和倉温泉駅には15時59分に到着した後、七尾駅構内の車両基地へ回送される途中で16時10分に発生した震度7の地震に遭遇した。681系は大変な揺れを受けながらも、脱線せずに済んだ。ただし、七尾駅までの線路が地震で損傷したために先に進むことができなくなり、止まったままの状態が続いている。
写真1のように、特急車両は石川県道1号七尾輪島線という通行量の多い道路にほど近い場所に停車しているので、地元では地震による鉄道への被害を象徴するかのような存在となっているという。筆者のもとにも複数の方々から「特急が止まっています」と情報提供があったほどだ。
七尾駅-和倉温泉駅間は2月中旬の復旧が予定されている。復旧作業の過程で特急車両は自力、または他の車両の力を借りて七尾駅へ向かい、入念な検査を受けた後、再び営業に戻るであろう。
のと鉄道七尾線では盛土に被害が生じている
続いて紹介したいのは、のと鉄道七尾線で生じた線路の被害だ。写真3は和倉温泉駅から3駅目の能登中島駅の1駅穴水駅寄りにある西岸(にしぎし)駅近くで撮影されたもの。詳細な位置は、西岸駅の約260m穴水駅寄りに設けられた第2外(そで)踏切から穴水駅方面を見たところである。
地震の被害を受けた線路を指し示す表現として「飴のように曲がった線路」という言い方があり、写真3からこの線路もまさにその典型例であると言ってよい。線路の損傷が大きいことから列車の運転再開には時間を要する見込みで、西岸駅を含む能登中島駅-穴水駅間の復旧時期はまだ示されていない。線路の被害もさることながら、線路左側の道路に生じた陥没やその奥に見える倒壊した家屋と、地震の被害の大きさを物語る。
写真3に見られるように線路を支える土の構造物を盛土(もりど)という。もともと存在した地盤の上に築堤をつくり、その上に砂利や砕石から成るバラストをまき、レールやまくらぎを敷いた構造で全国的によく見られる。写真3からうかがえるとおり、盛土の高さは10mほどと結構高い。少々わかりづらいかもしれないが、線路左の道路は平坦であるのに対し、線路自体は写真手前から奥に向かって上り坂となっている。線路の傾きを示す勾配は13パーミルで、水平方向に1000m進んだときに13mの高低差が生じていることを示す。
先に「飴のように曲がった線路」と説明したが、実は地震による盛土の被害についてはこれまでの経験からJR西日本の前身の国鉄が図のように6種類に分類している。大別すると「盛土本体が弱点」「盛土・地盤の境界が弱点」「地盤が弱点」の3項目があり、さらに「盛土本体が弱点」には「のり面流出」のI型、「円弧滑り(堤体破壊)」のII(1)型、「盛土本体の液状化破壊」のV型の3つが、「盛土・地盤の境界が弱点」には「盛土縦割れ」のIII型の1つが、「地盤が弱点」には「円弧滑り(基底破壊)」のII(2)型、「盛土沈下(地盤液状化を含む)」のIV型の2つに分けられるという。そして、盛土の被害を多い順に挙げるとIV型、II(1)型、II(2)型の順となり、いま挙げた3種類だけで全体の8割を超えるとのことだ。
出典:「地震(土構造物)」(村上温・村田修・吉野伸一・島村誠・関雅樹・西田哲郎・西牧世博・古賀徹志編、『災害から守る・災害に学ぶ―鉄道土木メンテナンス部門の奮闘―』、日本鉄道施設協会、2006年12月、P26)
それでは写真に見える盛土の被害状況はどの型に該当するのであろうか。素人目には写真3の画像中央部分の線路が沈んでいることから、IV型つまり「地盤が弱点」で「盛土沈下(地盤液状化を含む)」のIV型ではないかと推測される。写真だけでは判別は難しいものの、写真3の画像右の盛土の一部も崩れているようなので、同じく「地盤が弱点」で「円弧滑り(基底破壊)」のII(2)型かもしれない。
元来盛土と言った土構造物は地震の被害に遭いやすい。盛土のなかでも被害が多いのは写真3のように勾配区間に設けられたものであるという。JR東日本コンサルタンツの顧問を務めた海野隆哉氏は「地震(土構造物)」(村上温・村田修・吉野伸一・島村誠・関雅樹・西田哲郎・西牧世博・古賀徹志編、『災害から守る・災害に学ぶ―鉄道土木メンテナンス部門の奮闘―』、日本鉄道施設協会、2006年12月、P26-P31)のなかで、「急な斜面上に造られた盛土の被害はきわめて多い。これは元々斜面が不安定なためであろう」(同書P27)と記している。
盛土が現在もなぜ多くの鉄道の線路で採用されているかというと、何と言っても築きやすく、壊れても直しやすいからだ。その盛土にも新しい技術が導入されている。土の内部に鋼材を入れるなどの改良を施した補強土が登場し、大地震でも被害が全く生じなかったか、被害が少なくなったのだ。のと鉄道の盛土の復旧に当たってもこうした補強土の採用を検討してほしい。
桜の名所、能登鹿島駅の駅舎の状態は……
最後に取り上げたいのは先ほどの西岸駅の1駅穴水駅寄り、穴水駅から1駅和倉温泉駅寄りに設けられた能登鹿島駅の被害の状況だ。写真4のように洋館風の駅舎は梁を補強すると見られる三角形状の部材が落下しており、倒壊は免れたものの、修復が必要なことが明らかだ。
穴水町災害対策本部は1月11日に駅舎の様子を調査している。結果は「柱が抜けてしまっているために危険です」で、併せて立ち入らないようにと記された赤色の紙を駅舎に掲示した。
駅舎の周囲はソメイヨシノが植えられ、春になると一面の桜の花が咲き誇り、多くの見物客が訪れるという。今シーズンは無理としても来年2025(令和7)年には多くの人たちの笑顔が能登鹿島駅の駅舎で見られることを願いたい。
以上、駆け足でJR西日本七尾線、のと鉄道七尾線の地震の被害について解説した。見てきたように記してはいるものの、筆者は実際には訪問していないだけに勘違いなどから生じる誤りがあるかもしれない。その際はお手数ながらご一報いただければ幸いです。最後にJR西日本七尾線、のと鉄道七尾線の運転再開、そして能登半島全体の復興が一日も早く成し遂げられるよう祈ります。