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引退後25年が経過しても“不滅”の記録を保持し続けた故ドン・シューラ氏の功績を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今年のスーパーボウルにも出席していた故ドン・シューラ氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【NFLの伝説的コーチが永眠】

 すでに日本でも報じられているように、1997年に殿堂入りも果たしている、NFLの伝説的なコーチだったドン・シューラ氏が現地時間の5月4日に永眠した。90歳だった。

 彼が長年指揮をとったドルフィンズの発表によると、自宅で安らかに息を引き取ったという。まさに大往生といっていいだろう。

 1995年にシューラ氏が一線から退いて25年が経過しているが、ずっと“NFLの顔”といえる存在だった。彼の訃報を受け、リーグやNFL各チームに留まらず、MLBのマーリンズなどがSNS上で次々に追憶メッセージを投稿し続けており、改めてその存在感の大きさを確認した思いだ。

 同じく1995年から某スポーツ紙通信員として本格的に米国でスポーツ取材を開始した自分も、シューラ氏がグラウンドに立つ姿を目にすることができたことを、今でも幸運に思っている。

【今もシューラ氏が保持する“不滅”の記録】

 1963年に33歳の若さでコルツ(当時はボルティモア)のHCに就任すると、就任6年目でチームを念願のNFL王者に導いた。コルツHC時代の7年間で、就任1年目以外すべてシーズン勝ち越しに成功している。

 その後1970年にドルフィンズに移籍し、即座に1972、1973年とスーパーボウル連覇を達成。そのまま長期政権を築き、65歳になった1995年シーズンまで同チームで指揮をとり続けた。

 残念ながら1973年以降NFL王者に輝くことはなかったが、年間最優秀コーチ賞を通算4度受賞したコーチは今もシューラ氏以外存在していない。

 さらに最多通算勝利数(328)、プレーオフを含めた最多通算勝利数(347)、プレーオフを含めた最多試合数(526)、HC就任連続シーズン数(33)──も、シューラ氏が保持し続けている。

 ちなみに現役HCの中で最多勝利数を誇る、ペイトリオッツのビル・ベリチックHCでも公式戦273勝、プレーオフを含め304勝に留まっており、すでに68歳の同HCがシューラ氏の記録に到達するのは至難の業に見える。

 またベリチックHCはブラウンズからペイトリオッツに移籍するまで4年のブランクがあるため、連続シーズン数は20に留まっている。他の現役HCを見ても、最長はチーフのアンディ・リードHCの21シーズン。彼もすでに62歳に達しており、シューラ氏の記録に到達するには、あと12年指揮をとらないといけない計算になる。

 シューラ氏の記録が、いかに“不滅”なのかが理解できるだろう。

【極めつけは1972年の不敗伝説】

 そしてシューラ氏の功績を最も輝かせることになったものが、1972年の不敗伝説だろう。

 その年は公式戦を14勝0敗と負け無しでプレーオフに進出すると、プレーオフ3試合もすべて勝利し、17戦全勝のパーフェクトシーズンを達成し、チーム創設7年目でチームを初のNFL王者に導いたのだ。

 それ以降多くの強豪チームがパーフェクトシーズンを目指してきたが、1978年から公式戦が2試合増えシーズン16試合制になった影響もあり、未だにドルフィンズの偉業に並ぶチームは現れていない。

 この1972年のドルフィンズは、今も伝説として語り継がれている。

【これからも永遠に愛される存在に】

 さらにシューラ氏の凄いところは、一線から退いた後も米国ではずっと愛される存在であり続けたことだ。

 読者の方々もシューラ氏のコーチ姿を知らない人がほとんどだと思うが、米国に旅行した経験がある人なら彼の名前に触れたことがあるかもしれない。

 彼は1989年からレストラン経営に参画し、「シューラズ・ステーキハウス」をフロリダ州に開業している。

 このレストランは人々の人気を集め、現在ではフロリダ州を中心にステーキハウスのみならず、バーガーレストランやグリルレストランなど計20店舗を展開する全国規模のチェーンレストランにまで発展している。

 これらのレストランを訪れる度、利用者は今もシューラ氏の勇姿を目にすることができるのだ。

 まさにシューラ氏は、今後も米国民に愛される存在であり続けるのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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